高齢者の自立度及びQOLの維持及び改善方法の開発に関する大規模研究

文献情報

文献番号
200200217A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の自立度及びQOLの維持及び改善方法の開発に関する大規模研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
髙田 和子(独立行政法人国立健康・栄養研究所健康増進研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 名倉英一(国立療養所中部病院)
  • 松本一年(愛知県健康福祉部)
  • 川合秀治(全国老人保健施設協会)
  • 芳賀博(東北文化学園大学)
  • 辻一郎(東北大学大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の自立の維持・増進は進行する高齢化社会の中で最も重要な課題である。自立度の維持・改善はQOLの向上の大きな要因の1つである。本研究においては、地域在住の高齢者を対象に自立度とQOLの関連について検討し、自立度の維持・改善とQOLの維持・改善に貢献する要因を解明することを目的とした。また、地域在住の高齢者への介入を行い、自立度の維持・増進、QOLの維持・増進のためのプログラムを開発することを目的とした。この研究により、高齢者の自立度とQOLを維持・増進するための方策を提言することができる。
研究方法
QOLを多面的に検討できるような質問表の検討のために、65~84歳の高齢者30,000人を対象に、自立度、生活習慣、QOL等に関するアンケート調査を郵送留置法により実施した。QOLの質問は太田らが開発した地域高齢者のためのQOL質問票を用い、その中で使用されている下位尺度である「生活活動力」、「健康満足感」、「人的サポート満足感」、「経済的ゆとり満足感」、「精神的健康」、「精神的活力」の6個の尺度に基づいて、質問項目の再抽出とその妥当性の検討を行った。
自立度とQOLの変化については、平成12年に全国の3地域17の老人保健施設において実施された虚弱高齢者を対象とした2ヶ月間の運動・栄養プログラムに参加した136名を対象に、郵送留置法にてアンケート調査を実施した。これらの調査結果について、2年間の自立度の変化とQOLの変化の関係を検討した。
身体運動能力とQOLの関連については、「寝たきり予防健診」を受診した70~96歳の高齢者のうち研究に関する同意を得た1,179名を対象として調査を行った。調査項目は日本語版EuroQolをインタビューにより実施し、身体運動能力として脚伸展パワー、ファンクショナルリーチ、Timed Up and Go Test、10m最大歩行速度を測定した。
高齢者の身体活動習慣とQOLの関連については、運動・身体活動習慣とQOLの調査を実施した高齢者1,422名に、3年後の調査を実施した。身体活動は、「定期的な運動実施」、「こまめに身体を動かす」、「毎日良く歩く」、「歩く時はさっさと歩く」、「力をいれるような仕事や運動をする」の5項目について、「はい」を1点とした得点を身体運動スコアとした。
百寿者の自立度と生命予後の検討は、「平成4年度全国高齢者名簿」に登録されている4,166名を対象に、(財)健康・体力づくり事業財団が行った生活歴及び現状に関する訪問調査をもとに、平成10年まで生命予後を追跡をした。
高齢者の健康と生活の満足度に関する縦断研究として、1999年にS県で実施された高齢者生活満足度調査に回答した者14,018名を対象に、郵送留置法により再度調査を行い、縦断的な検討を行った。
2つの農村地域をそれぞれ、運動介入の介入地区と非介入地区とし、介入プログラムの影響を比較した。調査内容は、性、年齢などの基本的属性の他に、生活機能(古谷野らの老研式活動能力指標)、健康度自己評価(5段階の選択肢)、生活の満足度(視覚アナログ尺度)による調査を行った。また体力測定として、握力、長座位体前屈、最高歩行速度、開眼片足立ち、The timed up & go testを行った。介入として、健康教室の開催、体操の普及、情報提供などを1年間行った。
(倫理面への配慮)それぞれの研究は、担当する研究者が所属する施設の医学倫理委員会の承認の上で実施した。対象者には研究の目的、方法、利益、不利益等の説明を行い、同意をえた。データはID番号で処理し、個人が同定できない状態で、各施設内で管理した。
結果と考察
QOLの再検討のための、アンケートは17,558人から回収され、回収率は58.5%であった。QOL下位尺度の概念に基づいて質問項目を再検討し、質問項目の再構築をした。質問票の因子構造について、姓・年齢による交差妥当性を検討した結果、いずれの群においても同様の因子構造が認められ、それぞれの因子は設定された下位尺度と一致することが確認された。
自立度とQOLの関係については、対象者136名のすべてから、回答を得られた。2年後の自立度の変化を比較すると、J、Aランクとも90%以上が同じ自立度を維持していた。自立度を維持した人での「生活活動力」の低下と、自立度が改善した人での「健康満足感」の改善がp<0.1で有意な変化であった。QOL得点が群ごとの平均で、0.5以上変化したのは、自立度が低下した者で「生活活動力」と「健康満足感」の低下、自立度が改善した者での「精神的活力」の低下であった。また0.2以上変化した尺度は自立度が低下した者と自立度が改善した者での「経済的ゆとり満足感」の低下であった。
4つの身体運動能力については、男女とも身体運動能力が不良群、中等度群、良好群の順でEuroQolのスコアがよくなった。脚伸展パワーとTimed Up and Go Testでは男女とも良好群と中等度群が不良群に比べて有意にEuroQolが高いが、良好群と中等度群での差は見られなかった。男性では脚伸展パワーと10m最大歩行速度でも同様に、良好群と中等度群が不良群に比べて有意に高いEuroQolを示したが、良好群と中等度群での差はみられなかった。女性では脚伸展パワーと10m最大歩行速度では、良好群が不良群、中等度群に比べて有意に高いEuroQolを示した。
身体活動習慣とQOLの関連において、初年度の運動スコアとQOLを比較すると、運動スコアの高い群ほど、初年度、3年後ともQOLの各スコアが高かった。初年度の運動スコアは、男性の「経済的ゆとり満足感」、「精神的健康」を除くすべてのQOL、女性では「人的サポート」を除くすべてのQOLと有意に関連していた。運動スコアの差(初年度と3年後の変化)は、男性では「生活活動力」、「健康満足感」、「精神的活力」と、女性ではすべてのQOL項目と有意に関連していた。
百寿者の2,851名のうち、女性が2,303名であったが、平均年齢、年齢分布に性差はみられなかった。自立度に対する相対死亡危険率は、自立に対して寝たきりでは、男性で2.552倍、女性で1.822倍と有意に高くなった。自立度と生命予後の関連における性差は、自立度が低くなるにつれて顕著になり、寝たきりでは男性に対する女性のハザード比は0.714であった。
縦断調査では11.506名(82%)から回答がえられた。他に転出先不明が208名、死亡が179名であった。配偶者のある者は男性で78.2%、女性で42.5%であり、前回調査に比べると男性で6.3%、女性で7.7%減少した。治療中の疾病のある者は男性で73.1%、女性で74.5%で、男女とも約4%増加した。視聴覚や歯の障害により何らかの生活への影響を感じている者は男女とも約30%であった。
運動介入プログラムの実施により、介入の前後での各QOLの項目の変化を検討した。手段的自立は非介入地区でのみ有意な低下を示した。知的能動性は、全体でみると変化がないが、介入地区の男性でのみ介入後に有意な上昇がみられた。社会的役割は介入地区で有意に低下した。健康度自己評価と生活満足度は、介入地区でのみ有意に改善した。
本年度の結果からは、身体運動機能や自立度がQOLと強く関連していることが明確になった。QOLを6つの下位尺度に分けて検討した時に、自立度の変化が、生活活動力や健康満足感と密接に関連することは、当然と考える。一方で、自立度が改善しても「精神的活力」が低下していたり、自立度の変化に伴い「経済的ゆとり満足感」への影響がでていることは、身体機能の変化が健康への満足感だけでなく、他のQOLへも影響を与えることを示している。運動に関連する介入を行った結果からも、運動介入プログラムが健康度自己評価、生活の満足度の改善を示一方、知的能動性が介入地区の男性で増加し、社会的役割が介入地区で有意に低下するなど、身体活動と直接的な関係が少ない部分でのQOLの変化もみられた。自立度の変化に伴うQOLの変化、運動介入プログラムによるQOLの変化のいずれをみても、自立度や活動量の変化が身体面のQOLだけでなく、精神や社会などQOLの様々な側面へ影響を与えていると考えられる。高齢者のQOLの維持・増進のために自立度を維持・改善することが有効なことは、もちろんであるが、自立度が変化してもQOLが維持できるようなサポートのあり方についても検討が必要である。
今後は、本年度の結果と、縦断調査の解析により抽出された項目に重点をおいて、介入によ自立度とQOLの変化を検討し、自立度とQOLの維持・改善のためのプログラムを検討する。
結論
自立度のレベルや身体運動能力によりQOLに違いがあった。また、自立度の変化や運動介入プログラムの実施により、QOLが変化するが、健康や活動に関する満足度のみでなく、社会的あるいは精神的なQOLの側面へも影響を与えていた。

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