免疫系の老化をターゲットにした細胞療法に関する研究

文献情報

文献番号
200200215A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫系の老化をターゲットにした細胞療法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
中山 俊憲(千葉大学大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
このNKT細胞は加齢とともに激減し、60才以上のヒトではほとんど検出できない。また、いくつかの自己免疫疾患の患者やがん患者でもその数は、激減している。1997年にこの細胞のみを特異的に活性化させる糖脂質 (a-GalCer)が我々の施設で発見され、これを用いてヒトのNKT細胞をin vitroで培養し、現在のところ2週間で100倍程度に増殖させることが可能になった。本研究では、免疫系の老化に伴うT細胞及びNKT 細胞依存性の免疫能の低下を防止することを目的とし、老化とともに激減するNKT細胞に焦点をあてた免疫細胞療法に関する基礎実験を行う。 まず、活性化した樹状細胞にa-GalCerをパルスして移入して生体内のNKT細胞を効率よく増殖させる、などの手法の確立に関する実験を行う。NKT細胞に焦点を当てた細胞療法に関する臨床研究計画は、本学の倫理委員会で承認されている。GMPレベルの細胞調整を行って、Phase Ⅰに相当する治療を行う。我々の施設では、細胞調整は無菌室を用いて日常的に行っており、NKT細胞療法のプロトコール樹立には、これまで行ってきたLAK療法での経験が十分参考になる。さらに、今回は米国FDAの細胞治療指針に従って細胞調整することを目指している。自己のリンパ球を用いた細胞療法は、補助療法として上手く使えば、特に高齢者での感染症予防、根治手術のあとの微小転移などをターゲットにしたがんの治療などに効力を発揮し、国民の保健医療のニーズに大いに貢献すると考えられる。
研究方法
本年度は以下の6点の方法で研究を行った。
1)患者末梢血からの樹状細胞単離と効率的な抗原パルス法の確立
既存の樹状細胞の枠にとらわれず、CD1d分子上に効率良くa-GalCerを提示し、NKT細胞をより強力に活性化する樹状細胞の培養条件を検討した。a-GalCerは、キリンビールよりGMP(Good Manufacturing Practice)gradeのものを提供してもらって使用した。
2)NKT細胞の分離と機能予測測定系の確立
a-GalCerパルス樹状細胞の投与による患者生体内のNKT細胞の活性化(活性化したNKT細胞のデリバリー)を検出するシステムを確立する目的で検討を行った。
3)Single cell sorting/single cell PCR methodの確立
末梢血中のNKT細胞特異な機能を解析する方法として、IFN-gに焦点を当てたsingle cell sorting/single cell PCR methodの確立を目指し、種々の条件検討を行った。
4)a-GalCerパルス樹状細胞によって活性化・増殖した肺内NKT細胞
a-GalCerパルス樹状細胞を静脈内投与した際に、肺内におけるNKT細胞の動態がどのように変化するかを確認する系を確立するために種々の条件検討を行った。活性化したNKT細胞が、実際に肺内に集積(デリバリー)するかどうか、以下の方法で検討した。
5)ヒトNKT細胞の組織分布と細胞数、頻度検出法の確立
肺癌手術患者の摘出標本を用いて肺内におけるNKT細胞の同定法を確立するための種々の条件検討を行った。
6)NKT細胞療法Phase I相当研究のプロトコールの確立
NKT細胞療法Phase Iプロトコールの確立をめざし検討を行った。これは細胞調整を米国FDAの細胞調整基準を遵守したもので、かつGMP基準を尊重した品質管理、品質保証を行う点が特徴である。a-GalCerパルス樹状細胞投与の安全性評価を行うためのPhase I試験を13年度から14年度にかけて行った。
結果と考察
結果は次の6点にまとめられる。                                            
1) 患者末梢血からの樹状細胞単離と効率的な抗原パルス法の確立:全単核球分画をIL-2とGM-CSFを用いて培養することで、十分な抗原提示ができることがわかった。
2) NKT細胞の分離と機能予測測定系の確立:いくつかの方法の中から、患者末梢血中NKT細胞を特異的に分離し機能を測定する方法として、PCR amplification Southern blotting methodを確立した。
3) Single cell sorting/single cell PCR methodの確立:single cell レベルで、各細胞内で目的とするmRNA(特にIFNg)が発現しているかどうかを検証する方法を確立した。
4) a-GalCerパルス樹状細胞によって活性化・増殖した肺内NKT細胞の検出: a-GalCerパルス樹状細胞をマウスに投与すると、1日目には肺内NKT細胞数は消失するものの3日後には約10倍に増加し、1週間にわたって投与前値より高い状態を維持することが判明した。
5) ヒトNKT細胞の組織分布と細胞数、頻度検出法の確立: 肺癌手術患者の摘出標本肺内におけるNKT細胞の同定法を検討し確立した。
6) NKT細胞療法Phase I相当研究の結果: これまでに、投与細胞数が最小(5x107/m2)のLevel 1から開始し、平成15年3月までにLevel 1の5例、Level 2の3例を施行した。Level 1の2例は原疾患の悪化のためプロトコール途中にて脱落となった。現在、レベル3の経過観察中であるが、これまでに細胞投与に関連する重篤な有害事象(NCIのCommon Toxicity CriteriaにおいてGrade 2を越える有害事象)は認められなかった。
考察:NKT細胞療法Phase Ⅰの研究に関しては、一人の患者の治療と経過観察に2ヶ月以上の日時がかかるうえ、レベルの上昇にはそれ以前のレベルでの安全性の確認と、細胞治療効果安全性評価委員会の承認という厳格なプロセスをへた上で臨床研究を行っている。これまでわずかに11例しか施行されていない理由はそこにある。さらに、本臨床研究では、米国FDAの細胞調整基準を遵守したやり方で、かつGMPレベルを尊重した細胞調整を行う点は厳格に遵守している。我々はこの点は非常に重要であると考えている。結果の項で述べたように、幸い、これまでに重篤な有害事象は現れていない。マウスを用いた動物実験では、level 3 相当の細胞数での治療によって初めて、十分なNKT細胞の活性化と抗腫瘍効果が期待できるという基礎データがあり、これからデータが集積されるlevel 3 での治療によって、どの様にNKT細胞免疫系が反応し、抗腫瘍効果を発揮してくるのか、期待をもって研究を続けている。
結論
今年度の研究で、人の細胞をin vitroで培養し、本人に戻すための手順などの基礎研究がほぼ完了したと考えている。いつも同じ活性の細胞の調整ができたこと、増殖効率が一定して細胞数の予測が可能になったこと、調整細胞の機能の評価を適切に行うことなど、一連の細胞調整手法の樹立についての検討がだいたい終わった。現在のところlevel 2までの細胞数では、特記する重大な有害事象は検出されていない。以上の成果をふまえ、次年度は、PhaseIのlevel 3 (1×109)の臨床研究を完了させ、細胞治療の基盤を樹立することを目指す。

公開日・更新日

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更新日
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