寿命制御遺伝子に関する分子遺伝学的研究

文献情報

文献番号
200200211A
報告書区分
総括
研究課題名
寿命制御遺伝子に関する分子遺伝学的研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
白澤 卓二(東京都老人総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 古関明彦(千葉大学医学部)
  • 本田修二(東京都老人総合研究所)
  • 安井明(東北大学加齢医学研究所)
  • 村松正明(東京医科歯科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
線虫の長寿ミュータントであるDaf-2を用いて、長寿に関連する遺伝子(長寿関連遺伝子)を探索・単離し、これらの遺伝子および遺伝子産物を分子生物学的に解析する事により、個体の寿命決定の分子機構を明らかにする。また、Daf-2、Clk-1等の線虫の長寿変異をマウスの染色体に導入した長寿マウスを遺伝子工学的に作製し、哺乳類の個体寿命の遺伝子操作の可能性を検討する。
研究方法
(1)インスリン受容体改変(長寿)マウスの作製:マウスゲノムライブラリーよりインスリン受容体遺伝子を単離し、第20エクソンに長寿変異を導入したゲノム改変ベクターを構築する。更に、相同組み換えにより長寿変異が導入されたES細胞を単離する。更にこれらのES細胞を用いてミュータントマウスを作製する。ミュータントマウスの寿命、酸化ストレス耐性能、個体老化を検討する。
(2)クロック遺伝子改変マウスの作製:マウスゲノムライブラリーよりクロック染色体遺伝子を単離し、染色体遺伝子の構造を明らかにする。更に、第2エクソンをネオマシン耐性遺伝子で置換したノックアウトベクターを構築し、ノックアウトマウスを作製する。
結果と考察
(1)インスリン受容体改変(長寿)マウスの作製:長寿線虫ミュータントで発見されたDaf-2の遺伝子変異はヒトでも同一の変異が報告され(肥満変異)、哺乳類でも長寿形質が遺伝的に存在しうる可能性を提供した。本課題では、線虫の長寿ミュータントと同一の遺伝子変異を有するミュータントマウスを遺伝子工学的に作製し、哺乳類の個体寿命が線虫と同様のメカニズムで長寿化する可能性を検討する。これまでの研究プロジェクトでインスリン受容体遺伝子を改変したマウスの作製に成功した。平成13年度はヘテロ接合体マウスの酸化ストレス耐性を検討した。ヘテロ接合体マウスが酸化ストレスにたいして耐性を示すことを明らかにした。平成14年度は雌雄差を検討し、メスのマウスの方が酸化ストレスに対してより耐性であることを示した。この結旺より、インスリンシグナル伝達異常が、哺乳動物でも個体寿命を長寿化する可能性を示唆した。
(2)クロック遺伝子の単離とその解析: これまでの研究プロジェクトで、ヒトおよびマウスのクロック相同遺伝子をPCR法で単離し、遺伝子解析を行ってきた。その結果、クロック遺伝子の構造は種を越えて保存されている事、発現解析の結果、哺乳動物では筋組織に特異的な遺伝子発現を認める事を明らかとしてきた。また、ヒトのクロック遺伝子を染色体16p12-13にマップした。平成13年度は単離されたヒトおよびマウスのクロック1遺伝子をclk-1線虫にインジェクション法を用いて導入し、脱糞のリズムに与える影響を検討した。その結果、ヒトおよびマウスのクロック1遺伝子は線虫の運動リズムを制御する生物学的活性を有することを示した。
(3)クロック遺伝子改変マウスの作製:これまでの研究プロジェクトで、第2エクソンをネオマシン耐性遺伝子で置換したノックアウトベクターの構築に成功せいた。平成13年度は上記のノックアウトベクターをES細胞に導入後、相同組み換えを起こしたES細胞の単離に成功した。更に、凝集法を用いてヘテロ接合体マウスの作製に成功し、現在ヘテロ接合体マウスの交配実験により、ホモ接合体マウスの作製を試みた。その結果、ホモ接合体マウスは胎生期の11.5日で死亡する事を明らかにした。形態学的解析の結果、胎児は極めて小さく、発生の遅れが認められ、しかも電子顕微鏡を使用した形態学的検索の結果、異常ミトコンドリアが認められ、ミトコンドリア機能異常のために、マウスの発生が停止したことを示唆した。平成14年度は、クロック1遺伝子をトランスジーンする事により、クロック1欠損マウスのレスキューに成功し、さらにTet-oON/OFFシステムを用いた発現時期特異的なトランスジェニックマウスの作製を試みている
結論
(1)インスリン受容体改変(長寿)マウスの作製:daf-2長寿変異がインスリン受容体遺伝子に導入されたマウスの作製に成功した。ホモ接合体マウスは胎児期あるいは新生時期に死亡することから、インスリンのシグナル伝達異常が示唆された。生化学的解析から、daf-2変異はインスリン受容体のチロシンキナーゼ活性が失われることにより、インスリンのシグナル伝達異常をきたしていることを明らかとした。(2)クロック遺伝子の単離とその解析:ヒトおよびマウスのクロック相同遺伝子をPCR法で単離し、遺伝子を解析した。その結果、クロック遺伝子の構造は種を越えて保存されている事、哺乳動物では筋組織に特異的な遺伝子発現を認める事を明らかとした。また、単離されたヒトおよびマウスのクロック1遺伝子を線虫に導入し、哺乳動物のクロック1遺伝子、線虫の運動リズムを制御する活性があることを示した。この結果は、ヒトおよびマウスのクロック1遺伝子が個体寿命をも制御している可能性を示唆した。更にクロック染色体遺伝子にネオマイシン遺伝子が挿入され標的破壊を受けたノックアウトマウスの作製に成功した。ホモ接合体マウスが胎生致死を示すこと、ミトコンドリアに異常を来たし、発生が停止することを示唆した。

公開日・更新日

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