高齢者の社会参加に関連する要因の解明と支援システム構築に関する研究

文献情報

文献番号
200200208A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の社会参加に関連する要因の解明と支援システム構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
長田 久雄(東京都立保健科学大学(保健科学部))
研究分担者(所属機関)
  • 芳賀博(東北文化学園大学)
  • 高田和子(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
  • 西下彰俊(金城学院大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
12,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、高齢者の社会参加に関連する要因を検討し、社会参加が社会貢献および参加者の心身の健康維持増進と生活の質向上につながるような条件整備の方途を明らかにすることである。2003年度(2年度目)には、追跡調査を実施し、2004年度(3年度目)には、行政担当者等に対する調査を実施し、最終的には、社会参加を促進し、潜在化している高齢者のマンパワーを活用するためのシステムを提案することにある。本年度は、まず、高齢者の社会参加の実態を調査し、高齢者の社会参加を促進もしくは妨害している要因および社会参加の心身に対する効果を検討するための調査を実施し分析を行った。
研究方法
対象:足立区のシルバー人材センターおよび老人クラブ代表を介して、60歳以上の3,357人に調査票を配布し、1,924人から回答が得られた。回収率は52.3%であった。
調査期間と方法:2002年12月17日に、調査票をシルバー人材センターおよび老人クラブ代表に一括送付し、シルバー人材センターでは、1月6日から10日の間に、各支部より登録会員に対して個別に、また、老人クラブにおいては、ほぼ同時期に代表者から会員に個別に配布した。2003年1月から2月に、郵送および区内に設定した会場において個別に回収した。会場においては、調査票の確認と次年度の追跡調査への協力の諾否を中心とした簡易面接を行った。
調査内容:調査項目は、年齢、性別、同居家族、健康度自己評価、日常生活活動能力、生活の質評価、収入のある仕事の有無、社会的活動の種類と程度、重要だと思う社会的活動、社会的活動への参加のきっかけ、将来の生活に対する考え、社会的活動に参加する意義、社会的活動への参加を妨害している個人的・環境的・制度的要因、身体の具合、通院、日常生活習慣、孤独感、幸福感であった。
結果と考察
回収された調査票のうち、先行して入力の終了した500人のデータの集計を基にして分析して得られた結果は以下の通りであった。年齢は、60歳代283人、70歳代192人で、大部分が60歳、70歳代であった。社会活動参加の実態としていつもしているとする回答の割合が相対的に高かった項目は、「生活用品などの買い物」(49.6%)、「近所づきあい」(39.4%)であり、最も重要だと思う社会活動は、「近所づきあい」(20.1%)であった。社会的活動への参加を妨害している要因のうち、個人的側面の要因は、「体力の衰え」(26.1%)、「興味を持てる活動がない」(20.5%)、「誘ってくれる友人がいない」(20.3%)などであり、環境的側面の妨害要因とする回答が多かったものは、「費用がかかりすぎる」(24.4%)、「移動手段が不便」(17.6%)、「施設などの利用がしにくい」(17.6%)、制度的側面の妨害要因とする回答が多かったものは、「自分にあった活動がない」(30.5%)、「社会活動の情報が乏しい」(25.6%)であった。
本調査対象は、シルバー人材センター登録者が多かったので、このことを考慮して考察しなくてはならないが、社会活動では、身近で日常的な社会的活動やスポーツ、人間関係を伴う趣味の活動が多かった。これに対して、インターネットを利用した活動などは少なく、高齢者ではITの利用が浸透していないことが示唆される。また、学校学習の支援や研修会・講座などの講師などの活動も少なく、こうした場面での高齢者のマンパワーの活用が進んでいないことが伺われた。社会参加において社会奉仕が重要であるとする回答が比較的多かったにも関わらず、必ずしも社会奉仕や社会貢献の活動が多くなかったことは、高齢者のマンパワーを活用するという観点から検討すべき課題といえよう。社会的活動への参加を妨害している要因としては、個人的な要因では、自分に合った、興味を持てる活動が少ない、費用がかかり移動や施設の利用が不便といった要因に加え、情報が乏しいという回答もみられた。個人の状況だけでなく、社会的、制度的な側面において考慮すべき要因が少なくないと考えられる。
社会的活動の因子分析結果からは、「趣味・レクリエーションなどの活動」「親戚・友人との交流」「学習指導・リーダーとしての活動」「町内会・自治会の活動」の4タイプが抽出され、それぞれと健康習慣実施数との間には正の相関が見られた。社会参加とQOLとの関連では、男女や活動の質の違いによって関連するQOLの領域に差が認められた。社会活動の中で、近所づきあい、地域の行事への参加、町内会・自治会の活動、社会奉仕、シルバー人材センターなどの活動と幸福感とは、有意な関連が示された。社会参加のきっかけとしては、「個人の意志で」「友人・仲間のすすめ」が多かった。
これらの結果から、健康習慣の獲得や持続にとって、社会参加が重要な役割を担っていることが明らかにされたといえよう。また、社会参加の種類および男女によって、QOLと関連する面が異なることが示唆された。社会参加の中では、近所づきあいが幸福感と最も強く関連しており、社会活動として身近な人間関係が重要性であると考えられる。
結論
高齢者の社会参加の実態としては、身近な日常活動が多く、社会貢献につながる活動は必ずしも浸透していない可能性が示唆された。一方、「社会奉仕」を重要だとする回答が比較的多かったにも関わらず、必ずしも社会奉仕や社会貢献につながる活動を行っているという回答が多くなかったことは、高齢者のマンパワーを活用するという観点から今後検討すべき課題だと考えられる。また、社会参加と健康習慣との間には関連があることが明らかとなった。社会活動とQOLには関連がみられ、高齢者のQOL維持、向上に社会活動が重要であることが示唆された。さらに、近所づきあいのような身近な社会活動が幸福感と関連しており、社会活動のきっかけとして、個人の意志と友人・仲間のすすめが重要であることが示された。

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