文献情報
文献番号
200200197A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト胚性幹細胞(ES細胞)を用いた「寝たきり」高齢者に対する再生医療の開発
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 裕(京都大学大学院医学研究科臨床病態医科学)
研究分担者(所属機関)
- 小川佳宏(京都大学大学院医学研究科)
- 中山泰秀(国立循環器病センター研究所)
- 仁藤新治(田辺製薬株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
48,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
我々は、"全能性"と無限の増殖能を有するマウスES細胞より内皮細胞と血管平滑筋細胞の双方への分化が可能な、"血管前駆細胞(vascular progenitor cells; VPC)"と我々が命名した細胞の単離同定に成功した。脳卒中、心筋梗塞発症後はその急性期を除いてほとんど有効な治療法のないまま、文字通り"保存的"に見守るしかない状況であり、その結果高齢化社会の中で「寝たきり」となる例が多いのが現状である。そこで本研究においては、我々の発見したES細胞由来血管前駆細胞のノウハウに基づき、日本でおそらく初となるヒトES細胞を用いた臨床応用を目指し、虚血部での血管再生を試み、壊死に至りつつある心筋細胞や神経細胞を保護し再生させる心筋梗塞及び脳卒中に対する新しい再生医療を開発することをその目的とする。
研究方法
研究方法及び結果=1.霊長類ES細胞由来血管前駆細胞の同定とin vitroでの血管構築
我々は、マウスES細胞をコラーゲンIVコートディッシュ上で培養することでVEGF受容体のFlk1が発現誘導され、このFlk-1陽性細胞がVPCであることを報告した。一方、サルES細胞はマウスES細胞と異なり、未分化な状態で既に大部分の細胞がFlk-1を発現していた。しかし、これらの未分化ES細胞に含まれるFlk-1陽性細胞より血管細胞は分化誘導されなかった。フィーダー細胞との共培養にて分化誘導を試みたところ、一度Flk-1陽性分画がほぼ消失したのち、8日後に再び約8%がFlk-1陽性でかつ内皮マーカーVEカドヘリン陰性となった。このFlk-1陽性VEカドヘリン陰性細胞をFACSにて分離し、再培養したところ、VEカドヘリン陽性PECAM1陽性eNOS陽性の内皮細胞及びα平滑筋アクチン(α-SMA)陽性、カルポニン陽性の壁細胞が出現し、それらは血管様構造を構築した。現在更にヒトES細胞の未分化維持培養系を構築中である。
2.ES細胞由来血管前駆細胞のマウス成体移植による血管構築と血流増加
我々は恒常的にLacZ遺伝子を発現するマウスES細胞を確立し、4つの分化段階のVPCを調整した。すなわち、未分化ES細胞を10%FCS存在下に4型コラーゲン上で4日間培養して誘導されるFlk1陽性細胞を"未分化VPC"、"未分化VPC"を更に10%FCS及び50 ng/ml VEGF存在下で3日間培養した細胞を"分化VPC"と名付けた。また、"分化VPC"の内皮細胞分画である"VE-カドヘリン陽性VPC"、未分化VPCをPDGF-BB存在下に3日間培養した壁細胞分画を"PDGF-BB添加後VPC"と名付けた。6-8週令のヌードマウス体幹部にVEGFを豊富に産生するラット神経膠芽種由来のC6細胞種を移植し、7日後に4つの異なる分化段階のVPCをマウスの腫瘍周囲に皮下注した。
"未分化VPC"移植群では、LacZ陽性細胞は塊状を呈し血管構造はほとんど構築されなかった。一方、"分化VPC"移植では、移植したVPCによって構築された管腔構造が認められ、コントロールと比較し約50%の血流増加を認めた。
3.新しい血管ホルモンによる血管再生作用の同定とその分子機構
強力な利尿、ナトリウム利尿、血管平滑筋弛緩作用を有するナトリウム利尿ペプチドは、ANP、BNP、CNPより構成されるが、cGMP/cGMP依存性プロテインキナーゼ(cGK)系を介して生物作用を発揮する。我々はこれまでANP及びBNPが主として心房あるいは心室から分泌される心臓ホルモンであるのに対し、CNPは血管内皮細胞から分泌され、血管局所ホルモンであることを明らかにしてきた。
①静脈グラフトモデルにおけるアデノウィルスを用いたCNP遺伝子導入の効果―CNPの抗血栓、内皮再生作用の検討
ラットCNPcDNAをアデノウィルスベクターに組み込み、ウサギ静脈グラフトモデルにおいて血管壁への遺伝子導入を行った。ウサギcarotid arteryに同側のjugular veinを端端吻合し、吻合の際、CNPアデノウィルスをグラフト静脈内に感染させた。CNPアデノウィルス感染群では、更にエバンスブルーを用いた生体染色により、内皮の再生が著しく亢進することが明らかとなった。更に内皮化の促進に伴い、血栓形成も抑制された。
②ナトリウム利尿ペプチドの培養内皮細胞再生作用とその分子機構の解析
培養血管平滑筋細胞を用いた検討では、ナトリウム利尿ペプチドは低分子量GタンパクRhoのセリン133残基を直接リン酸化し、その活性を抑制することで血管トーヌス及び血管リモデリングに対して抑制的に作用することが明らかとなった。一方、培養内皮細胞を用いた解析では、ANP、BNP、CNPはともにその生理的濃度の範囲で、内皮細胞の遊走・増殖を有意に促進した。また、wound healing arrayにおいても、内皮再生の有意の促進作用を示した。これらの作用は、cGK阻害剤により抑制された。更に、培養内皮細胞にANPを添加することにより、MAPキナーゼであるErk1/2及びAktのリン酸化が亢進し、ANPによる内皮促進効果は、Erk1/2阻害剤及びAktを活性化するPI3キナーゼの阻害剤により抑制された。
③ナトリウム利尿ペプチド系遺伝子改変動物を用いたナトリウム利尿ペプチド血管再生作用の検討
マウス大腿動脈結紮後血管新生モデルを用いて我々の開発した種々のナトリウム利尿ペプチド系遺伝子改変動物で血管再生を検討した。BNPトランスジェニックマウスでは、大腿動脈結紮後の血流回復が対照マウスに比べ有意に促進し、また阻血部の毛細血管数の有意の増加が認められた。更に、cGK過剰発現マウスにおいても、結紮後28日目の血流は対照マウスに比べ30%有意に上昇していた。一方、cGK遺伝子ノックアウトマウスでは著明な血管再生の抑制が認められた。
④下肢阻血モデルにおけるCNPプラスミドによる遺伝子導入効果
臨床応用を考えた場合、アデノウィルスベクターは安全性の面からはその応用が困難である。そこで、CNPcDNA発現プラスミドを用い、マウス大腿動脈結紮後血管新生モデルにおいて、CNP遺伝子導入の効果を検討した。大腿部にCNPプラスミド500mgを筋注したところ、結紮後血流が対照群と比べ有意に上昇し、毛細血管数も増加していた。
⑤アドレノメジュリンの血管再生作用の同定
CNPと同様、新しい血管弛緩ホルモンであるアドレノメジュリン(adrenomedullin; AM)についても、in vitroのwound healing assay及びin vivoのゲルプラグアッセイにより血管再生作用が認められることが明らかとなった。
4.ES細胞由来血管前駆細胞含有ハイブリッド人工血管の構築―易吻合化のための血管接合具の開発
口径1mm程度の極小血管で端端ならびに端側吻合にも適用できる新しい血管接合具を開発した。接合具は、基材としてステンレス管(厚さ100um)を用い、これにYAGレーザーを用いたアブレーションにより微細多孔構造体化する直筒状と分枝筒状の2種類を作製した。端端接合は、まず宿主血管内に接合具を挿入し、外周を結紮固定し、これを更にドナー血管の中に挿入し、再度外周を結紮固定することにより行った。多孔化設計によって接合具にある程度の拡張性が付与でき、挿入後に血管径と最適合化させることが可能であった。この血管接合具を用い、I型コラーゲンでコーティングした内径1.5mmのポリウレタン支持体内腔面にES-VPCを播種し、このES細胞を導入したハイブリッド型人工血管をヌードラットに移植することに成功した。
我々は、マウスES細胞をコラーゲンIVコートディッシュ上で培養することでVEGF受容体のFlk1が発現誘導され、このFlk-1陽性細胞がVPCであることを報告した。一方、サルES細胞はマウスES細胞と異なり、未分化な状態で既に大部分の細胞がFlk-1を発現していた。しかし、これらの未分化ES細胞に含まれるFlk-1陽性細胞より血管細胞は分化誘導されなかった。フィーダー細胞との共培養にて分化誘導を試みたところ、一度Flk-1陽性分画がほぼ消失したのち、8日後に再び約8%がFlk-1陽性でかつ内皮マーカーVEカドヘリン陰性となった。このFlk-1陽性VEカドヘリン陰性細胞をFACSにて分離し、再培養したところ、VEカドヘリン陽性PECAM1陽性eNOS陽性の内皮細胞及びα平滑筋アクチン(α-SMA)陽性、カルポニン陽性の壁細胞が出現し、それらは血管様構造を構築した。現在更にヒトES細胞の未分化維持培養系を構築中である。
2.ES細胞由来血管前駆細胞のマウス成体移植による血管構築と血流増加
我々は恒常的にLacZ遺伝子を発現するマウスES細胞を確立し、4つの分化段階のVPCを調整した。すなわち、未分化ES細胞を10%FCS存在下に4型コラーゲン上で4日間培養して誘導されるFlk1陽性細胞を"未分化VPC"、"未分化VPC"を更に10%FCS及び50 ng/ml VEGF存在下で3日間培養した細胞を"分化VPC"と名付けた。また、"分化VPC"の内皮細胞分画である"VE-カドヘリン陽性VPC"、未分化VPCをPDGF-BB存在下に3日間培養した壁細胞分画を"PDGF-BB添加後VPC"と名付けた。6-8週令のヌードマウス体幹部にVEGFを豊富に産生するラット神経膠芽種由来のC6細胞種を移植し、7日後に4つの異なる分化段階のVPCをマウスの腫瘍周囲に皮下注した。
"未分化VPC"移植群では、LacZ陽性細胞は塊状を呈し血管構造はほとんど構築されなかった。一方、"分化VPC"移植では、移植したVPCによって構築された管腔構造が認められ、コントロールと比較し約50%の血流増加を認めた。
3.新しい血管ホルモンによる血管再生作用の同定とその分子機構
強力な利尿、ナトリウム利尿、血管平滑筋弛緩作用を有するナトリウム利尿ペプチドは、ANP、BNP、CNPより構成されるが、cGMP/cGMP依存性プロテインキナーゼ(cGK)系を介して生物作用を発揮する。我々はこれまでANP及びBNPが主として心房あるいは心室から分泌される心臓ホルモンであるのに対し、CNPは血管内皮細胞から分泌され、血管局所ホルモンであることを明らかにしてきた。
①静脈グラフトモデルにおけるアデノウィルスを用いたCNP遺伝子導入の効果―CNPの抗血栓、内皮再生作用の検討
ラットCNPcDNAをアデノウィルスベクターに組み込み、ウサギ静脈グラフトモデルにおいて血管壁への遺伝子導入を行った。ウサギcarotid arteryに同側のjugular veinを端端吻合し、吻合の際、CNPアデノウィルスをグラフト静脈内に感染させた。CNPアデノウィルス感染群では、更にエバンスブルーを用いた生体染色により、内皮の再生が著しく亢進することが明らかとなった。更に内皮化の促進に伴い、血栓形成も抑制された。
②ナトリウム利尿ペプチドの培養内皮細胞再生作用とその分子機構の解析
培養血管平滑筋細胞を用いた検討では、ナトリウム利尿ペプチドは低分子量GタンパクRhoのセリン133残基を直接リン酸化し、その活性を抑制することで血管トーヌス及び血管リモデリングに対して抑制的に作用することが明らかとなった。一方、培養内皮細胞を用いた解析では、ANP、BNP、CNPはともにその生理的濃度の範囲で、内皮細胞の遊走・増殖を有意に促進した。また、wound healing arrayにおいても、内皮再生の有意の促進作用を示した。これらの作用は、cGK阻害剤により抑制された。更に、培養内皮細胞にANPを添加することにより、MAPキナーゼであるErk1/2及びAktのリン酸化が亢進し、ANPによる内皮促進効果は、Erk1/2阻害剤及びAktを活性化するPI3キナーゼの阻害剤により抑制された。
③ナトリウム利尿ペプチド系遺伝子改変動物を用いたナトリウム利尿ペプチド血管再生作用の検討
マウス大腿動脈結紮後血管新生モデルを用いて我々の開発した種々のナトリウム利尿ペプチド系遺伝子改変動物で血管再生を検討した。BNPトランスジェニックマウスでは、大腿動脈結紮後の血流回復が対照マウスに比べ有意に促進し、また阻血部の毛細血管数の有意の増加が認められた。更に、cGK過剰発現マウスにおいても、結紮後28日目の血流は対照マウスに比べ30%有意に上昇していた。一方、cGK遺伝子ノックアウトマウスでは著明な血管再生の抑制が認められた。
④下肢阻血モデルにおけるCNPプラスミドによる遺伝子導入効果
臨床応用を考えた場合、アデノウィルスベクターは安全性の面からはその応用が困難である。そこで、CNPcDNA発現プラスミドを用い、マウス大腿動脈結紮後血管新生モデルにおいて、CNP遺伝子導入の効果を検討した。大腿部にCNPプラスミド500mgを筋注したところ、結紮後血流が対照群と比べ有意に上昇し、毛細血管数も増加していた。
⑤アドレノメジュリンの血管再生作用の同定
CNPと同様、新しい血管弛緩ホルモンであるアドレノメジュリン(adrenomedullin; AM)についても、in vitroのwound healing assay及びin vivoのゲルプラグアッセイにより血管再生作用が認められることが明らかとなった。
4.ES細胞由来血管前駆細胞含有ハイブリッド人工血管の構築―易吻合化のための血管接合具の開発
口径1mm程度の極小血管で端端ならびに端側吻合にも適用できる新しい血管接合具を開発した。接合具は、基材としてステンレス管(厚さ100um)を用い、これにYAGレーザーを用いたアブレーションにより微細多孔構造体化する直筒状と分枝筒状の2種類を作製した。端端接合は、まず宿主血管内に接合具を挿入し、外周を結紮固定し、これを更にドナー血管の中に挿入し、再度外周を結紮固定することにより行った。多孔化設計によって接合具にある程度の拡張性が付与でき、挿入後に血管径と最適合化させることが可能であった。この血管接合具を用い、I型コラーゲンでコーティングした内径1.5mmのポリウレタン支持体内腔面にES-VPCを播種し、このES細胞を導入したハイブリッド型人工血管をヌードラットに移植することに成功した。
結果と考察
結論
考察と本年度の研究により、サルES細胞から血管前駆細胞が同定され、ヒトES細胞での血管前駆細胞の単離とES細胞からのヒト血管構築の可能性が示された。また、ES細胞由来血管前駆細胞の移植による血流改善効果も示された。治療効果を生むES細胞数の確保のための体外大量培養法(セルプロセシング)として、ナトリウム利尿ペプチド等新しい血管ホルモンの応用の可能性が示された。また、ES細胞由来血管前駆細胞の生体への有効な移植法として、ES細胞含有ハイブリッド血管を製作中である。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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