老年病に対する成長ホルモン補充療法の有効性に関する研究

文献情報

文献番号
200200196A
報告書区分
総括
研究課題名
老年病に対する成長ホルモン補充療法の有効性に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
千原 和夫(神戸大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 加治秀介(兵庫県立看護大学)
  • 杉本利嗣(神戸大学大学院医学系研究科)
  • 苅田典生(神戸大学医学部附属病院)
  • 置村康彦(神戸大学医学部)
  • 飯田啓二(神戸大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
7,740,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成長ホルモン(GH)は下垂体から分泌され、成長や代謝調節だけでなく、老化の進展に深く関与するホルモンである。その分泌量は思春期から若青年期に最大となり、以後年齢が進むにつれ減少する。一方、脳腫瘍等の器質的疾患によって早期にGH分泌能が低下した患者では、筋力低下、骨粗鬆症に加えて高脂血症、動脈硬化の早期発症、その進展に伴う血管合併症の増加など、生理的な加齢に伴って出現する変化に酷似した諸症状や所見が年齢不相応に早期に出現すること(成人GH欠損症)、さらに、これらは補充量のGHの投与によって改善することが最近明らかとなってきた。
これらの成績は、老年病の成因にGH分泌不全が関与する可能性、および老年病に対するGH治療の可能性を示唆するものであるが、器質的疾患によってGH分泌が早期に低下した患者以外に、GH分泌の減少が認められる高齢者に対してもGHを投与することによって老化を防止しうるのか否かは明確ではない。骨粗しょう症、高脂血症、動脈硬化症など老年病を有するが、下垂体を障害する器質的疾患を伴わないGH分泌不全患者に対しGHを投与し、その症状、検査所見が改善するか検証することが本研究の目的である。本年度は、GH投与の前段階として、成人GH分泌不全症診断の手引き(厚生労働省間脳下垂体機能障害調査研究班、平成13年)による成人GH分泌不全患者数の概数把握、対象患者の選択を開始した。
また、高齢女性の骨粗鬆症に関してすでにこれまで検討を重ねてきており、成人GH欠損症であるかどうかを問わず、骨粗鬆症を有する高齢女性に対して少量のGHを皮下投与して、その骨代謝に及ぼす効果を検討した。併せて、ここに報告する。
研究方法
1. 老年病に対する成長ホルモン補充療法の有効性に関する研究
本研究は平成14年に開始し、3年にわたって実施するよう計画をたてた。すなわち、平成14年度には、成人GH分泌不全患者がどのような疾患にどの程度存在するか明らかするため、また、厚生労働省間脳下垂体機能障害調査研究班(平成13年度)の診断の手引きに合致する患者を選択するため、同意の得られた患者および健常高齢者に対しGH分泌刺激試験を開始した。さらに15年度には、GH分泌刺激試験でGH分泌不全が確認された患者に対しGH投与を行い、それによる症状・検査所見の変化等のデータを集積し、16年度には、すべてのデータ整理を完了し、結果報告を行なうことを予定している。
成人GH分泌不全の診断
平成14年度は、同意の得られた60歳以上の患者および健常者に対しGH分泌刺激試験を行なった。本研究計画を神戸大学医学部附属病院臨床研究審査委員会に申請し許可を得た(平成14年11月)。これに基づき、平成14年末から高齢者におけるGH分泌刺激試験を開始した。被験者には事前に研究内容に関する十分な説明を文書により行ない、理解と同意を得た。
成人GH分泌不全の診断は、平成13年度に厚生労働省間脳下垂体機能障害調査研究班によって作成された成人成長ホルモン分泌不全症の診断の手引きによった。すなわち、GH分泌不全の症状、身体所見が存在し、2種類以上のGH分泌刺激試験に対して血漿GH頂値が5ng/ml 以下であるものである。今回は主にアルギニン静脈内持続投与(30g、30分)、L-ドーパ(500mg)経口投与によりGH分泌を刺激した。各薬物の投与前、および投与開始後、15、30、45、60、90、120分の時点で採血、GHをELISAで測定した。
成長ホルモン補充療法
15年度は、GH分泌不全と診断された者に対して、GHの補充療法を行なうことを計画している。
対象:骨粗鬆症、高脂血症、動脈硬化症など老年病患者で、本研究への参加に対しインフォームドコンセントが得られ、かつ上記のGH分泌不全の診断基準に合致するが、下記の除外規定には合致しないもの。
除外規定:悪性腫瘍を有するもの(GHは細胞増殖活性を有するため)。重篤な心疾患(GHは水分貯留作用をもつため)、重篤な肝疾患(GHの効果の一部はIGF-Iを介して発揮されるため、IGF-I産生の低下している肝疾患を除いた)、重篤な腎疾患(糸球体濾過率の低下とともに、尿中GH排泄量は減少し投与されたGHの血中移行が判断しにくいため)。栄養障害を有するもの。
GH投与量・投与方法 エントリーされた患者をランダムに2群に分け、1群にはGH(0.006 mg/kg/day)皮下投与、もう1群は対照群とし、生理的食塩水を投与する。16週間後に、両群において投与薬を入れ替え、クロスオーバー調査とする。
評価:次の項目を経時的に調べる。血中総コレステロール、中性脂肪、HDL-コレステロール、LDLコレステロールなど血中脂質測定。腹部臍レベルのCT画像による内臓脂肪量の計測。DXAによる全身の骨塩量、脂肪量、筋肉量の測定。骨代謝マーカーの測定(骨形成マーカーとして骨型アルカリフォスファターゼ、PICP、骨吸収マーカーとして尿中NTx)。握力測定。頸動脈エコーによる内膜中膜コンプレックスの計測。心電図、心エコー検査、および心不全の重症度評価に用いられるSpecific Activity Scale(SAS) により評価。SF-36調査票による評価。上記以外にGH投与による有害事象把握のため、バイタルサイン、一般血液学検査、生化学検査、甲状腺機能検査、OGTT、HbA1cを検査する。有害事象が生じた際には、GH投与は中止する。
2. 高齢骨粗鬆症患者における成長ホルモン投与の骨代謝に及ぼす効果
骨粗鬆症を有する高齢女性の骨代謝に関して、これまでも検討を重ねており、今回は、骨粗鬆症を有する高齢女性の骨代謝に及ぼすGHの効果に関する臨床研究を行なった。本研究は、老年病に対する成長ホルモン補充療法の有効性に関する研究を行なう一因となった研究であるので、ここに報告する。
対象 8例の骨粗鬆症患者(女性、72-74歳)。GH投与量・投与方法 毎日1回、午後8時にGH(0.006 mg/kg/day)の皮下投与を48週にわたって行なった。4週ごとに診察し、副作用のないことを確認しつつ投与を行なった。
評価:GH投与前、投与開始後2、4、8、12、24、36、48週に採血し、血清Ca, P, CPK, ALP, IGF-I, IGFBP-2, IGFBP-3, IGFBP-4, IGFBP-5, intact PTH, 1,25(OH)2D3, osteocalcin, bone-type ALPを測定した。尿中総ピリジノリン、デオキシピリジノリン濃度も測定した。また、撓骨、腰椎骨塩量(bone mineral density, BMD)および、握力については、GH投与中、および投与終了後48週にわたって測定し、骨および筋に対するGH作用を評価した。
結果と考察
まだ予備的検討の域をでないが、成人GH分泌不全症の診断基準に合致するGH分泌頂値が5ng/ml 以下であるものが、一部の慢性閉塞性動脈硬化症の患者に認められた。GH分泌不全が、この疾患の発症、進展に関与しているか興味がもたれる。今後、症例数を増して検討していく予定である。骨粗鬆症を有する高齢女性に毎日1回、午後8時に少量のGH(0.006 mg/kg/day)を皮下に48週にわたって投与し、各種骨代謝パラメーターを測定したところ、血中IGF-IはGH投与後速やかに上昇し、GHが有効に作用していることが確認された。また、血清Ca、ALPも上昇したが、intact PTHも上昇傾向にあった。骨形成マーカーであるosteocalcin, bone-type ALPは上昇したが、骨吸収マーカーであるデオキシピリジノリン濃度は初期に上昇し、その後、元の値に復した。撓骨骨塩量はGH投与を中止した48週以後に明確に上昇した。腰椎骨塩量も上昇傾向にあった。以上のことから、GHは骨粗鬆症を有する高齢女性において、骨形成を促進する方向に作用することが明らかとなった。少量のGH投与は、何ら副作用なく、高齢女性の骨粗鬆症に対する有効な治療法となることが期待される。
結論
一部の慢性閉塞性動脈硬化症患者において、分泌刺激後のGH頂値が5ng/ml 以下であり、成人GH分泌不全症の診断基準に合致した。GH分泌不全が、この疾患の発症、進展に関与しているか明らかにする必要がある。骨粗鬆症を有する高齢女性に少量のGH(0.006 mg/kg/day)を皮下に48週にわたって投与したところ、骨形成マーカーは上昇した。一方、骨吸収マーカーは初期に上昇したが、その後、元の値に復した。撓骨骨塩量はGH投与を中止した48週以後に明確に上昇した。少量のGH投与は、何ら副作用なく、高齢女性の骨粗鬆症に対する有効な治療法となることが期待される。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-