文献情報
文献番号
200200194A
報告書区分
総括
研究課題名
肺癌および慢性肺気腸原因遺伝子の研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
山谷 睦雄(東北大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
- 関沢清久(筑波大学大学院臨床医学系内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
7,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
(1)肺癌の発症は喫煙が最大の原因である。喫煙中にはタールやニトロサミンなどの発癌物質がふくまれている。喫煙はさらに、DNA傷害を生ずるオキシダントが含まれ、肺癌発症に関与すると示唆されている。肺腺癌は非喫煙者や女性に多く発症するが、最近になって喫煙量増加によって患者が増加すると報告されている。抗酸化酵素グルタチオン-Sトランスフェラーゼ遺伝子欠損が発癌物質の活性化を起こすとの報告があるが、抗酸化酵素活性低下と肺癌発症との関係は明らかになっていない。ヘムオキシゲナーゼはヘムをビリベルジンと鉄に代謝し、一酸化炭素やビリルビン、フェリチンを産生する酵素である。誘導型ヘムオキシゲナーゼはオキシダントや高酸素による細胞破壊を防御する抗オキシダント作用を持ち、生体におけるオキシダント物質とのバランスを保つ働きをしていると考えられている。さらに、ヘムオキシゲナーゼは発癌物質ベンゾピレンの活性に対する予防効果が報告されている。ヘムオキシゲナーゼの誘導はヘムオキシゲナーゼ遺伝子の上流に位置するGT反復配列で制御され、長いGT反復配列ほど抑制作用が強いことが最近報告された。これらの知見から、私たちは慢性肺気腫では喫煙中のオキシダントに対する防御能力が弱いのではないかと考え、慢性肺気腫における長いGT反復配列の遺伝子多型性を報告してきた。本研究において、私たちは肺癌においても、喫煙中のオキシダントに対する防御能力が弱いのではないかと考え、肺癌患者において、GT反復配列数を解析した。(2)慢性肺気腫に代表される慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease; COPD)は世界における主要死亡原因の1つであり罹患率・死亡率ともに増加している。喫煙はCOPD発症の最大の危険因子として認められているが、一方で喫煙者の10%前後のみにCOPDが発症するとの報告があり、喫煙に対する感受性を含め、COPDの発症因子・発症機序は不明である。現在、慢性肺気腫の発症機序として2つの仮説、プロテアーゼ・抗プロテアーゼ説およびオキシダント・抗オキシダント説が提唱されている。オキシダント・抗オキシダント説はオキシダントの直接傷害および抗プロテアーゼ抑制作用による肺組織破壊が慢性肺気腫を惹起すると説明しているが、喫煙者の抗オキシダント産生機能と慢性肺気腫発症との関係は不明であった。誘導型ヘムオキシゲナーゼはオキシダントや高酸素による細胞破壊を防御する抗オキシダント作用を持ち、ヘムオキシゲナーゼの誘導はヘムオキシゲナーゼ遺伝子の上流に位置するGT反復配列で制御され、長いGT反復配列ほど抑制作用が強いため、私たちは慢性肺気腫では喫煙中のオキシダントに対する防御能力が弱いのではないかと考え、慢性肺気腫における長いGT反復配列の遺伝子多型性を報告してきた。しかし、慢性肺気腫においてもGT反復配列の長くない、HO-1遺伝子多型性に該当しない患者も多い。今年度は慢性肺気腫の発症素因をさらに検討するため、別の抗酸化作用を持つ酵素グルタチオン-Sトランスフェラーゼ(GST)の遺伝子多型GSTM1とGSTT1の欠損について、肺気腫患者および非肺気腫喫煙男性を対象に解析した。(3) 肺気腫発症の大半は喫煙によるが、喫煙による肺気腫発症機序として、蛋白融解酵素とその不活性化機構のアンバランスも重要と考えられている。蛋白融解酵素の内因性阻害物質であるTIMP-2遺伝子の遺伝子多型と慢性肺気腫の関連性を検討した。
研究方法
(1)肺腺癌患者151名(平均年齢62.8歳、喫煙者73名、女性71名)、対照者153名(平均年齢62.9歳、喫煙者68名、女性71名)を対象に、末梢血液からDNAを抽出して、ヘムオキシゲナーゼ-1の遺伝子発現を制御
するGT反復配列数を解析した。二種のプライマーP1-sとP1-asは誘導型ヘムオキシゲナーゼ-1遺伝子上流域をはさむ位置とした。PCR産物は15%ポリアクリルアミドゲルの電気泳動を行ない、GT反復配列の長さを比較した。(2)慢性肺気腫患者101名(平均年齢66.8歳、平均Brinkman's index 1006)、非慢性肺気腫100名(平均年齢67.1歳、平均Brinkman's index 938)の喫煙男性を対象にグルタチオン-Sトランスフェラーゼ(GST)の遺伝子多型GSTM1とGSTT1の欠損について、解析した。慢性肺気腫の診断は原則的に、慢性閉塞性肺疾患、気管支喘息の診断と治療指針(日本胸部疾患学会1995年)に従い、理学的所見、呼吸機能所見、胸部画像所見などを参考にした。以上の対象から血液を採取しDNAを抽出した。これを鋳型としてPCRを行った。PCRはArandらの方法を一部修正しておこなった。(3)喫煙指数が同じ88名の肺気腫患者と44名の健常者を対象として、末梢血白血球よりDNAを抽出し、TIMP-2遺伝子の遺伝子多型を調べた。
するGT反復配列数を解析した。二種のプライマーP1-sとP1-asは誘導型ヘムオキシゲナーゼ-1遺伝子上流域をはさむ位置とした。PCR産物は15%ポリアクリルアミドゲルの電気泳動を行ない、GT反復配列の長さを比較した。(2)慢性肺気腫患者101名(平均年齢66.8歳、平均Brinkman's index 1006)、非慢性肺気腫100名(平均年齢67.1歳、平均Brinkman's index 938)の喫煙男性を対象にグルタチオン-Sトランスフェラーゼ(GST)の遺伝子多型GSTM1とGSTT1の欠損について、解析した。慢性肺気腫の診断は原則的に、慢性閉塞性肺疾患、気管支喘息の診断と治療指針(日本胸部疾患学会1995年)に従い、理学的所見、呼吸機能所見、胸部画像所見などを参考にした。以上の対象から血液を採取しDNAを抽出した。これを鋳型としてPCRを行った。PCRはArandらの方法を一部修正しておこなった。(3)喫煙指数が同じ88名の肺気腫患者と44名の健常者を対象として、末梢血白血球よりDNAを抽出し、TIMP-2遺伝子の遺伝子多型を調べた。
結果と考察
(1)肺腺癌151名のうち、GT反復配列が33回以上のL型に所属するアリルの割合は19%であった。この割合は対照者の割合13%に比べて有意に増加していた(P<0.03)。また、L型の遺伝子型を有する肺腺癌患者の割合は36%で対照者の24%に比べて有意に増加していた(P<0.02)。喫煙肺腺癌患者73名において、L型のアリルの割合(21%)および遺伝子型を有する割合(41%)は対照者69名におけるL型アリルの割合(11%)および遺伝子型を有する割合(22%)に比較して、有意に増加していた(P<0.02およびP<0.02)。これに対して、非喫煙肺腺癌患者78名において、L型のアリルの割合(17%)および遺伝子型を有する割合(31%)は対照者84名におけるL型アリルの割合(14%)および遺伝子型を有する割合(25%)に比較して、有意差を認めなかった(P=0.5およびP=0.4)。これらの所見より、喫煙肺腺癌発症にGT反復配列の長いHO-1遺伝子多型性の関与が示唆された。(2) グルタチオン-Sトランスフェラーゼ(GST)の遺伝子多型解析はまだ途中にあり、慢性肺気腫50名(平均年齢66歳)、非肺気腫喫煙男性50名(平均年齢64歳)で行われた。グルタチオン-Sトランスフェラーゼ(GST)の遺伝子多型のうち、GSTM1欠損の割合は慢性肺気腫54%、非肺気腫喫煙男性72%と、慢性肺気腫においてGSTM1欠損の頻度は有意差がなかった。GSTT1欠損の割合は慢性肺気腫32%、非肺気腫喫煙男性54%と、慢性肺気腫においてGSTT1欠損の頻度も有意差がなかった。これらの所見から、GST遺伝子多型性は日本人の慢性肺気腫発症に関与しないことが示唆された。(3)TIMP-2遺伝子中エクソン3の+853にG/Aの1塩基置換、プロモーター領域にG/Cの1塩基置換が検出された。+853の変異では遺伝子型G/G、アリルGが、プロモーター領域の変異では遺伝子型G/G、アリルGが肺気腫患者で健常者に比べ有意に頻度が高かった。これらの所見から、TIMP-2遺伝子多型性が慢性肺気腫発症に関与することが示唆された。
結論
肺腺癌発症にはGT反復配列の長いHO-1遺伝子多型性が関与する。慢性肺気腫発症にもTIMP-2遺伝子多型性が関係する。
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