心筋梗塞、脳梗塞の予知因子の同定と予知法の開発

文献情報

文献番号
200200192A
報告書区分
総括
研究課題名
心筋梗塞、脳梗塞の予知因子の同定と予知法の開発
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
北 徹(京都大学大学院医学研究科臨床生体統御医学講座(加齢医学))
研究分担者(所属機関)
  • 横出正之(京都大学医学研究科)
  • 木村 剛(京都大学医学研究科)
  • 久米典昭(京都大学医学研究科)
  • 堀内久徳(京都大学医学研究科)
  • 荒井秀典(京都大学医学研究科)
  • 田中 誠(京都大学医学研究科)
  • 福山秀直(京都大学医学研究科)
  • 延吉正清(社会保険小倉記念病院)
  • 光藤和明(倉敷中央病院)
  • 鄭 忠和(鹿児島大学医学部)
  • 近藤宇史(長崎大学医学部)
  • 井原義人(長崎大学医学部)
  • 吉岡秀幸(京都逓信病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
48,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は心筋梗塞と脳梗塞の臨床応用可能な予知法の開発である。日本人の死因は、心疾患15%、脳血管障害15%であり、高齢になるに従い増加する。これらの疾患は高齢者の生命予後を規定するとともに、回復後も後遺症を残すため高齢者のQOLを損なう。もし、その発症が予知できれば、バイパス手術やカテーテル治療等の侵襲的治療法や、強力な抗血小板療法、脂質低下療法等の内科的治療によりその発症は回避可能であろう。そのため、国民医療・高齢者医療の向上のためには、心筋梗塞・脳梗塞発症予知法の確立は急務である。心筋梗塞発症は粥腫の破裂に引き続く血栓形成が原因とされる。心筋梗塞は必ずしも冠動脈の高度狭窄部位で発症するものではなく、前兆なく発症することがしばしばである。一般に、冠動脈造影では予知は困難であると考えられている。そのため、特に危険因子が重複する高齢者などでは、そのような指標があれば定期的に測定することで、治療のタイミングや治療強度を決定することが可能となる。脳梗塞は、心臓内にできた血栓が脳血管を閉塞させる脳塞栓、粥状動脈硬化が基盤となった脳血栓症、および、高血圧との相関が強いラクナ梗塞に分類されるが、特に後2者に関してはその発症メカニズムについていまだ不明な点が多い。脳梗塞予知法が開発されれば、より質の高い医療を実施することが可能となるであろう。
なお、抗血小板療法の心筋梗塞・脳梗塞予防に対する有効性が確立され、多くの患者が治療されているが、同時に副作用として脳出血の頻度を増加させる。現在、広く臨床の場で、その効果をモニターする方法がないが、もし、そのような方法が確立できれば、効果をモニターしながらより有効でかつ安全な抗血小板療法を施行できるであろう。本研究で確立しようとしている血小板活性化指標は抗血小板療法の効果モニターに広く応用される可能性がある。
研究方法
北は共同申請者、久米等とともに、酸化LDL受容体であるLOX-1、SR-PSOXを発見し、両者とも動脈硬化巣に発現し、可溶型があることを見出した。ELIZA法を用いて、LOX-1の血中濃度測定系を確立できたので、本年度は、急冠症候群を中心に多くの症例において測定した。SR-PSOXに関しては現在、血中濃度測定法を開発中である。血小板活性化指標がない理由のひとつは、血小板活性化機構に不明な点が多いためである。共同申請者、堀内等とともに独自の、形質膜を透過型にした血小板を用いた血小板顆粒放出および凝集解析系を確立し、、血小板活性化の分子機構の解明に取り組んだ。そして、その解析を通じ新たな血小板活性化指標の測定系を開発中である。
結果と考察
動脈硬化発症には酸化低比重リポ蛋白質(LDL)が重要な働きをしているが、我々は2つの酸化LDL受容体、LOX-1(Nature, 1997)およびSR-PSOX (JBC, 2000)を見出している。本年度はLOX-1が単球の遊走を促進すること (FEBS Lett, 2002)、LOX-1がfibronectin受容体として機能すること (FEBS Lett., 2002)を見出した。さらに、LOX-1は可溶型が存在し、測定法を確立し得た。ヒト血清において測定可能なことを確認し、急性心筋梗塞等を含む急性冠症候群の患者では高値となることを見出した(投稿準備中)。
もう一つの我々が見出したs酸化LDL受容体SR-PSOXは酸化LDLにより発現誘導されること(投稿準備中)、心臓の弁をおおう内皮細胞に特異的に発現しており、感染性心内膜炎など急性の炎症性弁疾患で発現が上昇することが判明した。
動脈硬化の最終段階は血栓形成による動脈の閉塞であるが、透過型血小板を用いた凝集 (BBRC, 2001)・顆粒放出 (JBC, 2000) 解析系を確立し、血小板活性化の分子機構を解析している。本年度は、small GTPase Rab27が濃染顆粒放出を制御していること(投稿中)、PKCaが凝集を制御していること(投稿中)を直接的に証明した。平成14年度には、安定かつ信頼性の高い血小板活性化指標の測定法の開発する目的にて、京都大学工学部の研究グループと血小板凝集を促進する素材の開発を通じ、抗血小板療法モニタリングシステムの開発を進めた。
急性冠症候群における可溶型LOX-1の上昇は、非特異的な炎症の指標であるCRP等とは相関せず、さらに、急性心筋梗塞発症の指標とされるトロポニンTは発症後数時間を経ないと上昇しないが、可溶型LOX-1は急性期より最高値に達していた。以上より、可溶型LOX-1は、急性心筋梗塞症の予知因子となる可能性が強く示唆された。
そのため、平成15年3月に本研究班の班会議を持った。そこで、可溶型LOX-1測定の臨床的意義を解明すべく、種々の疾患において、系統的に測定すべきであるとの結論に達した。すでに、分担研究者である、近藤等のグループでは、冠動脈バイパス手術や腹部大動脈瘤などを含み、約200症例分の血管障害例のサンプルを蓄積している。また、今後、脳血管障害や播種性血管内凝固症候群、膠原病等に対象症例を広げ、解析して行くべきであると話し合われた。
形質膜透過型血小板を用いた極めて安定な顆粒放出アッセイ系、凝集アッセイ系を確立することができた。血小板活性化の分子メカニズムは、不明な点が多い。それは、血小板に蛋白合成能がないために分子生物学をこの分野に用いることができなく、主として、薬理学的研究に留まっていたことが大きな理由である。我々のアッセイ系では、ドミナントネガティブに作用するリコンビナント蛋白質の影響を我々の系を用いて解析できるので、今後、多くの知見を得ることができるであろう。血小板活性化の理解の深まりとともに、鍵分子を見出し、創薬、および検査法の開発に繋げていきたいと考えている。
結論
本年度は、可溶型LOX-1の解析で、可溶型LOX-1が心筋梗塞予知因子である可能性が高まった。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-