文献情報
文献番号
200200186A
報告書区分
総括
研究課題名
寝たきり予防を目的とした老年症候群発生予防の検診(「お達者検診」)の実施と評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 隆雄((財)東京都老人総合研究所)
研究分担者(所属機関)
- 金 憲経(東京都老人総合研究所)
- 吉田英世(東京都老人総合研究所)
- 新名正弥(東京都老人総合研究所)
- 湯川晴美(國学院大学栃木短期大学)
- 石崎達郎(京都大学大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
21,375,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
高齢期での不健康寿命を増大させる原因として老年症候群があげられる。これは高齢者に特有にあらわれ、しかも必ずしも病気という訳でもない、しかし日々の「生活の質(QOL)」を障害するような状態をいう。特に地域高齢者において問題となる老年症候群のなかには転倒(骨折)をはじめ、失禁、低栄養、閉じこもり、睡眠障害、ウツや軽度のボケ(認知機能低下)そして生活機能低下(生活体力の全体的な衰え)などが代表的な状態である。これらの老年症候群は日々の生活において健康度を低下させ、自立を阻害し、生活の質(QOL)を著しく損なうとともに容易に要介護状態となることは明らかであり、これらの早急な対策が必要となる。このような観点から、我々は高齢者の健康長寿を目的とした「お達者健診」を開発し実施することを企画し実施した。これまでの健診(検診)は主として中高年齢層を対象として、生活習慣病を対象として、早期発見、早期治療を目的として行なわれている。わが国はこのような全国民を対象とする効率的な健診システムを発展させ実施してきたことが、国民の健康の総合的な改善と向上に結びついてきたという誇るべき実績がある。このこと自体は高く評価すべきであり、今後とも一層受診率を向上させ、疾病把握のために感度と特異度を上げ、精度へ高い検診が行なわれるべきことは明白である。しかし、高齢期の健康と生活機能の維持、そして生活の質(QOL)の向上のためには、現在の疾病だけを対象とする検診だけは不十分である。高齢期には日々生活での障害要因を早期に発見し、早期に対処し、健康を維持するための、新しい健診システムの構築が必須の状況となっている。「お達者健診」では、罹患率の高い慢性疾患についてもチェックするが、より重点的な取り組みとして、転倒、失禁、低栄養、生活体力低下、軽度の認知機能の障害やウツ、睡眠障害、口腔内清潔と咀嚼能力の保持などについて、詳細な検査によるスクリーニングを行なうことを目的としている。「お達者健診」によって、ハイリスク高齢者を抽出した後、彼等に対しては「転倒予防教室」6ヶ月間のプログラムによる下肢筋力を中心とした体づくりや失禁経験者には3ヶ月間の骨盤底筋トレーニング教室に参加をうながしている。また低栄養(アルブミン値≦3.9g/dl)の高齢者に対しては、地域で調理設備のある施設を利用し、「お達者調理教室」を開催している。軽度の痴呆(MMSE≦23)の方々には痴呆予防の取り組みに参加して頂く、といったようなプログラムを用意し、少しでも老年症候群を抑制し、少しでも長く、健康長寿を目指す取り組みを展開している。
研究方法
調査対象者、すなわち「お達者健診」対象者は東京都板橋区在住の70歳以上の在宅高齢者である。対象者は板橋区の協力を得て板橋区内5ヶ所にある老人保健福祉施設「ふれあい館」登録者および住民基本台帳から無作為に約2000名を抽出し、その方々に「お達者健診」についての主旨と重要性について説明するとともに参加呼びかけを行なった。「お達者健診」は平成14年10月21日から12月20日まで(実施23日間)において行なわれた。「ふれあい館」登録者では受診率93.9%、また住民台帳抽出者では受診率84.8%が実際に受診し合計1784名を対象とした。「お達者健診」は対象者を会場に招待して医学的健康調査および面接聞き取り調査を実施した。「お達者健診」の実施にあたっては、受診者1人あたり1.5時間から2時間ですべての調査が終了するよう、会場内の
安全と導線に配慮し会場設営を行なった。調査項目の概要は以下のとおりである。(1)身体計測(身長、体重、体脂肪)、(2)血圧測定(安静時、座位、2回測定)、(3)採血(血算、血清総コレステロール、血清アルブミン等)、(4)心電図、(5)動脈硬化測定(ABI, ba-PWV)、(6)骨密度測定(DXA法による前腕骨密度測定)、(7)口腔内診察(咀嚼圧測定含む)、(8)身体機能(通常および最大歩行速度、膝伸展力、手伸ばし試験、ペグボードテスト、握力等)、(9)面接聞き取り調査(個人属性、生活機能としてのADL、I-ADL、健康度自己評価、転倒、失禁、食品摂取頻度調査、認知機能、うつ傾向、外出頻度、社会参加状況等)
安全と導線に配慮し会場設営を行なった。調査項目の概要は以下のとおりである。(1)身体計測(身長、体重、体脂肪)、(2)血圧測定(安静時、座位、2回測定)、(3)採血(血算、血清総コレステロール、血清アルブミン等)、(4)心電図、(5)動脈硬化測定(ABI, ba-PWV)、(6)骨密度測定(DXA法による前腕骨密度測定)、(7)口腔内診察(咀嚼圧測定含む)、(8)身体機能(通常および最大歩行速度、膝伸展力、手伸ばし試験、ペグボードテスト、握力等)、(9)面接聞き取り調査(個人属性、生活機能としてのADL、I-ADL、健康度自己評価、転倒、失禁、食品摂取頻度調査、認知機能、うつ傾向、外出頻度、社会参加状況等)
結果と考察
「お達者健診」1784名の受診者割合は男性43%、女性57%であり、男女ともに加齢とともに占める割合は低下する。健康度自己評価については、「非常に健康だと思う」と答えた者20.3%、「まあ健康な方だと思う」58.7%で約8割の方々が健康と感じている。一方「あまり健康ではない」あるいは「健康ではない」と答えた方の割合が、加齢とともにわずかではあるが増加しており(19.7→21.4→22.9%)、加齢に伴なう虚弱化と健康度自己評価の低下が示されている。地域在宅高齢者おいて問題となる老年症候群については、転倒、失禁、低栄養および認知機能低下などであるが、1)転倒:この1年間に転倒を経験した者の割合は18.5%である。年齢階級別では70-74歳が17.6%と最も低率であり、80-84歳が19.6%と最も高率であった。転倒回数については1回だけの者が67.6%と多数を占めていたが、2回(16.2%)、3回(8.0%)など複数回転倒者の割合にも注意する必要がある。特に80歳以上の高齢者では転倒割合こそ18.7%であったが、複数回転倒者割合は47.7%と高率であった。2)失禁:受診者のなかで、下着を替える必要のあるほどに失禁を経験している者は19%であり、そのうち2%は常時おむつを使用している者であった。加齢に伴って増加し、70-74歳で17.4%であるが80歳以上の群では22.8%で上昇していた。また、それらのうち、日常的な尿失禁は約4割に及んでいた。3)低栄養:低栄養については本研究では血清アルブミン値で判断している。血清アルブミン値のcut-off値を3.8g/dlで設定すると4.1%が抽出される。同じようにcut-off値を3.5g/dlとすると1.1%が低栄養と判定された。基本的には加齢に伴なってその頻度は増加している。4)認知機能低下:認知機能の判定についてはMini Mental State Examination (MMSE) 日本語版を用いた。今回の低下判定のcut-off値は23点以下で設定した。全受診者中6.2%の方が認知機能低下と判定されているが、加齢に伴なう頻度の増加が著明であり、70-74歳群では3.6%であるが、80-84歳群では約4倍(14.0%)の者が認知機能の低下を示していた。
結論
いずれも地域高齢者において介護状態へと導かれやすいと考えられる5つの項目について、今回の「お達者健診」受診者について出現頻度を分析した。今回の分析は性・年齢階級のクロス表による基本的な分析であるが、相当な割合の方々が何らかのリスクを有しているものと推定され、今後一層の介護予防活動を展開してゆく必要が痛感される。本研究からのデータは、各老年症候群間の相互関係や危険因子の分析といったより詳細な分析を進めてゆく予定になっているとともに、平成15年度はこれらのハイリスク高齢者に対し、さまざまな介入プログラムによる対策を行い、有効性への評価と検証を行なうことになっている。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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