文献情報
文献番号
200200145A
報告書区分
総括
研究課題名
システムの質の評価と途上国の保健医療システム強化支援のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
上原 鳴夫(東北大学大学院医学系研究科 教授)
研究分担者(所属機関)
- 河原 和夫(東京医科歯科大学大学院 教授)
- マリアン エバンゲリスタ(東北大学大学院医学系研究科 助手)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 社会保障国際協力推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
4,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、ニーズの地域特性の把握と優先度判断に基づく目的意識的な地域保健医療システム強化をめざして、質の管理・改善にかかる能力育成を助ける方法論仮説(参加型実証的質改善活動=EPQI)の有効性を、フィリピンの地域保健医療システムにおいて実地に検証するとともに、これを通じて途上国において地域保健医療システムの質を評価する個別的・実用的な評価指標を策定することを目的とする。
研究方法
上記目的のために、平成14年度に以下の方法により研究を行った。
1-WHOと日本が提案するシステム評価と評価指標のレビュー; WHO2000年報告と「健康日本21」の指標の策定経緯と活用状況について、策定に関わった関係者にブリーフィングを依頼し、これらが途上国でどのように活用可能かについて検討した。
2-保健医療システム強化の目標設定について;
フィリピン保健省と医療保険公社、医療機関の訪問調査と関係者へのインタビュー、収集資料の分析を通じて、同国の公的医療保険制度の特徴と問題点および保健医療システム強化の課題について検討した。
3-実証研究プロジェクトを推進するための実施体制の構築とベンゲット州における保健情報報告システムの現状分析:ベンゲット州の保健医療行政担当者と2回のワークショップをもち、実証プロジェクトと方法論仮説について説明するとともに、2回の現地調査を実施して保健情報報告システムの現状をレビューした。
1-WHOと日本が提案するシステム評価と評価指標のレビュー; WHO2000年報告と「健康日本21」の指標の策定経緯と活用状況について、策定に関わった関係者にブリーフィングを依頼し、これらが途上国でどのように活用可能かについて検討した。
2-保健医療システム強化の目標設定について;
フィリピン保健省と医療保険公社、医療機関の訪問調査と関係者へのインタビュー、収集資料の分析を通じて、同国の公的医療保険制度の特徴と問題点および保健医療システム強化の課題について検討した。
3-実証研究プロジェクトを推進するための実施体制の構築とベンゲット州における保健情報報告システムの現状分析:ベンゲット州の保健医療行政担当者と2回のワークショップをもち、実証プロジェクトと方法論仮説について説明するとともに、2回の現地調査を実施して保健情報報告システムの現状をレビューした。
結果と考察
1-WHOと日本が提案するシステム評価指標のレビュー
WHOのシステム指標は、そのコンセプトは優れているものの、途上国における情報システムの現状、とりわけデータの信頼性の低さを考慮すれば、そのまま適用することは実用性の点で困難があると判断した。日本の「健康日本21」は、共通指標と目標値の設定という点は途上国でも有意義であるが、各国あるいは各州の課題の優先度に基づいて設定することが肝要と判断した。
2-保健医療システム強化の目標設定について
(1) フィリピンの保健医療システムの概要;
行政システムは、78の地方自治体政府(LGU)、82の市、1,523の町村、41,939のバランガイ(Barangay)で構成される。1991年に制定された地方自治法(Local Government Code)によって地方分権化が進められ、保健省が直接所管するのは地方医務局までとなり、州立および県立の病院は州知事が、保健センター(Rural Health Unit: RHU)やバランガイ保健ポスト(Barangay health Station)は市長が所管することとなった。
(2) 保健医療制度改革(Health Sector Reform
Agenda); 1999-2004の重点課題として、①国民皆保険の実現、②アクセスと質の改善、③PHCの推進、④病院医療の向上、⑤行政的諸制度の改革、などの目標を掲げている。
(3) 公的医療保険制度(NHIP)の現状と課
題;フィリピンは1998年に医療保険公社(Philippines Health Insurance Corporation; PhilHealth)を設立して、国民皆保険制度の確立を目指している。 現在の加入率は50%だがこれを5年間で70%に拡大する目標を掲げている。貧困層は地方自治体政府と中央政府が保険料を肩代わりすることになっている(メディケア・プログラム)が貧困層の利用が極端に少ない(0.3%)。このため、現在の給付対象は主に入院治療だが、貧困層を対象に外来診療に対する給付を試験的に実施している。今後の課題として、医療給付内容の充実、医療質管理の推進、医療施設利用利便性の向上、医療費給付システムの改善、薬剤給付方法の改善、会員登録手続きの改善、組織的な支援体制強化、保険料徴収の促進、などが指摘されている。
地域保険医療システムとのかかわりではとくに、① 提供される医療サービスの質の向上、② 地方分権を生かした公衆衛生・予防プログラムと臨床ケアとの効果的効率的な連携の促進、③ 質改善に向けた医療評価、病院認定プログラムの有効活用、が重要と考えられた。
3-実施体制の構築とベンゲット州における保健情報報告システムの現状分析
(1) 実施体制の構築; フィリピン医療保険公社
質管理部門の協力によりベンゲット州を実証研究のフィールドに選び、保健省、州保健局、医療保険庁質管理部門その他からなる運営管理委員会を形成した。また、参加型実証的改善活動の事例教育について、ジャカルタ州保健局の協力が得られることを確認した。
(2)ベンゲット州の地域保健医療保健システム; ベンゲット州には臨床医療機関として、7病院(州病院6+地区病院1)、保健センター13、バランガイ保健ポスト163、私立病院3がある。医師は13人、歯科医は7、看護師24、助産婦129、検査技師8人がいるほか、コミュニティ・レベルでは1335人のバランガイ・ヘルスワーカーと239人のTBA(産婆)が活動している。年間運営予算は所管自治体が支出し、中央政府保健省からの支出はプロジェクト・ベースである。運営予算が制約されるため、外部資金の援助に頼っている。たとえば結核では「世界の医師団」が20004年まで援助を行っているが、外部資金は不安定であり、資金的な問題を解決できない。
行政区と保健管理上の区が一致しないことも種々の問題の一因となっている。政治的区分ではベンゲット州がひとつのDistrict(選挙区)であるが、HSRAではベンゲット州を3つのDistrict (保健管理区=Interlocal health zones:ILHZ)に分けている。保健管理区は、いくつかの市が保健医療計画や施設を共有するために覚書を交わして定めるもので、通常は1保健管理区あたり1つのレファラル病院を共有する形をとっている。ベンゲット州で現在機能しているのは2管理区のみで、ひとつはABBM DHS (Atok, Bugias, Bakin, Mankayanで構成、Atok病院がレファラル病院となっている) 、もうひとつはDennis Molintas DHS(Kapangan, Kibungan, Itogon, で構成、Dennis Molintas Memorial病院がレファラル病院)である。いずれも、ベンゲット総合病院を二次レファラル病院とする。
(4) ベンゲット州の保健情報報告システム;
保健省の統一保健情報システムであるField Health Service Information System (FHSIS) を通じてデータを収集・報告している。これは予防接種、結核対策、マラリア対策、狂犬病対策、ハンセン氏病対策、STD、母子保健、家族計画、がん対策などの各種プログラムや健康教育キャンペーンにかかるデータを定期的に報告するもので、バランガイ保健ポスト(BHS)→保健センター(RHU)→市・州→地方医務局→保健省という流れで報告される。州は独自にデータを分析して州の保健医療報告を作成してそのコピーを地方医務局に提出している。中央保健省は年4回送られる各州の報告を集約する。保健省は報告事項のそれぞれについて報告書式を定め、データ集約・分析のためのコンピューターソフトを開発し、1992年以来改訂を重ねている。州・市以上はこれに基づいてデータ管理することになっているが、種々の要因によりうまく機能していないのが実情である。
WHOのシステム指標は、そのコンセプトは優れているものの、途上国における情報システムの現状、とりわけデータの信頼性の低さを考慮すれば、そのまま適用することは実用性の点で困難があると判断した。日本の「健康日本21」は、共通指標と目標値の設定という点は途上国でも有意義であるが、各国あるいは各州の課題の優先度に基づいて設定することが肝要と判断した。
2-保健医療システム強化の目標設定について
(1) フィリピンの保健医療システムの概要;
行政システムは、78の地方自治体政府(LGU)、82の市、1,523の町村、41,939のバランガイ(Barangay)で構成される。1991年に制定された地方自治法(Local Government Code)によって地方分権化が進められ、保健省が直接所管するのは地方医務局までとなり、州立および県立の病院は州知事が、保健センター(Rural Health Unit: RHU)やバランガイ保健ポスト(Barangay health Station)は市長が所管することとなった。
(2) 保健医療制度改革(Health Sector Reform
Agenda); 1999-2004の重点課題として、①国民皆保険の実現、②アクセスと質の改善、③PHCの推進、④病院医療の向上、⑤行政的諸制度の改革、などの目標を掲げている。
(3) 公的医療保険制度(NHIP)の現状と課
題;フィリピンは1998年に医療保険公社(Philippines Health Insurance Corporation; PhilHealth)を設立して、国民皆保険制度の確立を目指している。 現在の加入率は50%だがこれを5年間で70%に拡大する目標を掲げている。貧困層は地方自治体政府と中央政府が保険料を肩代わりすることになっている(メディケア・プログラム)が貧困層の利用が極端に少ない(0.3%)。このため、現在の給付対象は主に入院治療だが、貧困層を対象に外来診療に対する給付を試験的に実施している。今後の課題として、医療給付内容の充実、医療質管理の推進、医療施設利用利便性の向上、医療費給付システムの改善、薬剤給付方法の改善、会員登録手続きの改善、組織的な支援体制強化、保険料徴収の促進、などが指摘されている。
地域保険医療システムとのかかわりではとくに、① 提供される医療サービスの質の向上、② 地方分権を生かした公衆衛生・予防プログラムと臨床ケアとの効果的効率的な連携の促進、③ 質改善に向けた医療評価、病院認定プログラムの有効活用、が重要と考えられた。
3-実施体制の構築とベンゲット州における保健情報報告システムの現状分析
(1) 実施体制の構築; フィリピン医療保険公社
質管理部門の協力によりベンゲット州を実証研究のフィールドに選び、保健省、州保健局、医療保険庁質管理部門その他からなる運営管理委員会を形成した。また、参加型実証的改善活動の事例教育について、ジャカルタ州保健局の協力が得られることを確認した。
(2)ベンゲット州の地域保健医療保健システム; ベンゲット州には臨床医療機関として、7病院(州病院6+地区病院1)、保健センター13、バランガイ保健ポスト163、私立病院3がある。医師は13人、歯科医は7、看護師24、助産婦129、検査技師8人がいるほか、コミュニティ・レベルでは1335人のバランガイ・ヘルスワーカーと239人のTBA(産婆)が活動している。年間運営予算は所管自治体が支出し、中央政府保健省からの支出はプロジェクト・ベースである。運営予算が制約されるため、外部資金の援助に頼っている。たとえば結核では「世界の医師団」が20004年まで援助を行っているが、外部資金は不安定であり、資金的な問題を解決できない。
行政区と保健管理上の区が一致しないことも種々の問題の一因となっている。政治的区分ではベンゲット州がひとつのDistrict(選挙区)であるが、HSRAではベンゲット州を3つのDistrict (保健管理区=Interlocal health zones:ILHZ)に分けている。保健管理区は、いくつかの市が保健医療計画や施設を共有するために覚書を交わして定めるもので、通常は1保健管理区あたり1つのレファラル病院を共有する形をとっている。ベンゲット州で現在機能しているのは2管理区のみで、ひとつはABBM DHS (Atok, Bugias, Bakin, Mankayanで構成、Atok病院がレファラル病院となっている) 、もうひとつはDennis Molintas DHS(Kapangan, Kibungan, Itogon, で構成、Dennis Molintas Memorial病院がレファラル病院)である。いずれも、ベンゲット総合病院を二次レファラル病院とする。
(4) ベンゲット州の保健情報報告システム;
保健省の統一保健情報システムであるField Health Service Information System (FHSIS) を通じてデータを収集・報告している。これは予防接種、結核対策、マラリア対策、狂犬病対策、ハンセン氏病対策、STD、母子保健、家族計画、がん対策などの各種プログラムや健康教育キャンペーンにかかるデータを定期的に報告するもので、バランガイ保健ポスト(BHS)→保健センター(RHU)→市・州→地方医務局→保健省という流れで報告される。州は独自にデータを分析して州の保健医療報告を作成してそのコピーを地方医務局に提出している。中央保健省は年4回送られる各州の報告を集約する。保健省は報告事項のそれぞれについて報告書式を定め、データ集約・分析のためのコンピューターソフトを開発し、1992年以来改訂を重ねている。州・市以上はこれに基づいてデータ管理することになっているが、種々の要因によりうまく機能していないのが実情である。
結論
ベンゲット州の保健医療システムは行政指揮系統に関して方針管理が行いにくい構造になっており、自治体のイニシアティブが確認できなかった。HSRAを共通目標とした上で、所管各地域のニーズの優先度と改善課題を事実データに基づいて明らかにし、これを各レベルが共有することで組織的、システム指向のアプローチを構築する必要があると考えられた。このため、2年次において、EPQIの方法論を適用し、現地関係者の主導性を引き出すことで、報告システムの質、とりわけ「データの質」に関する現状評価と改善の取り組みを計画・実施する試みを行い、その有効性を検証する。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-