WHO保健システム評価手法の妥当性及びその活用に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200143A
報告書区分
総括
研究課題名
WHO保健システム評価手法の妥当性及びその活用に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 敏彦(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤敏彦(北里大学)
  • 平尾智弘(香川医科大学)
  • 坂巻弘之(財団法人医療経済研究・社会保険福祉協会医療経済研究機構)
  • 近藤正英(筑波大学)
  • 松本邦愛(国立保健医療科学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 社会保障国際協力推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
13,725,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
世界の潮流となりつつあるWHOによる保健医療システム評価(HSPA)に関して、これまでの批判・反批判レビューとの日本的視点からの再評価を行い、新概念による日本の現状の評価を行う。日本においても健康変革の流れは避けることができず、医療制度改革に関して様々な議論がなされているが、その多くが医療費削減のみを目標にしたもので、それによって保健医療システムがどのように変わるのかきちんとした議論がなされていない。本研究は、システム評価を通じて日本の保健医療制度改革の方向性を明らかにする。また、健康日本21に本研究の成果を取り入れることによって、日本国の公衆衛生領域において新たな国際的潮流に参加することが可能となる。
研究方法
(1)理論的分析-HSPAについて、それを構成する諸概念を日本における保健医療政策の観点から評価し、その改善を提言することを目的とする。WHOによる2000年の世界保健報告(WHR)やHSPA関連の文献、批判論文をレビューし、WHR2000で提起された問題点を列挙する。それに対するHSPA専門家会議の議論と結論、WHO/EIPの反論をレビューし、改善された最新版のHSPAの方法を把握する。レビューや日本への応用、メタアナリシス等の手法により、最新版の手法を評価する。(2)全国調査に基づく分析-1)公平財源の分析(FFC)-全国消費実態調査の個票を用い、1984、1989、1994、1999年について、家計の支払い能力に占める保健医療に関する支払いの割合を測定した。このHFCのばらつきを計算したものがFFCである。また、破滅的医療支出を行っている家計の割合を計算し、時系列で比較した。2)システム効率性の分析-日本女性の平均寿命が世界一の水準を達成したのは,経済,教育水準の充実にあるとする仮説を統計的に検証する。Battese and Coelli (1995)が提案したフロンティア・モデルを用いた。3)国民医療費分析-SHAにもとづく1995~1999年の医療支出推計を行った。総保険医療支出(THE)の推計は、国民医療費を基に、国民医療費に含まれない項目については国内の公表統計データをもとに推計した。4)普及度の評価と応用①高血圧-2000年日本高血圧学会による高血圧の定義の変更により、約1000万人の境界域の患者が軽症高血圧に再分類された。普及度の概念を用いて、従来の高血圧政策と新診断基準の評価を行った。②高コレステロール血症-日本では、高コレステロール血症診断基準を巡って課題が残っており、普及度の概念を用いて日本の高コレステロール血症管理状態の評価を試みた。(3)フィールド調査-WHOが2002年度より実施し、今後HSPAのため継続的に実施する予定の調査をわが国において予備的に実施し、わが国における調査の妥当性および実施可能性を検討した。1)日本語版調査票の作成-WHOではWorld Health Surveyのためにフルヴァージョンとショートヴァージョン(SV)の2種類の調査票を開発した。今回は、SVの日本語訳を調査票として用いた。調査票は、①世帯情報、②回答者情報の他、③健康状態、④危険因子、⑤普及度、⑥応需性、⑦保健医療システムの目標、の各パートからなり、回答に平均30-40分かかる。また、ヴィネットという主観的な回答を個人の価値基準により補正するための質問を、健康状態と応需性に導入した。日本語訳においては、逆翻訳を行い内容に原版と齟齬が生じていないことを確認した上で最終版とした。2)調査対象-全国の8地域をまず対象地域とし、調査の準備を行ってきた。各対象地域に協力依頼を行い、調査概要を説明、対象者の無
作為抽出による面接調査の実施可能性を検討した。その結果、本年度内に調査実施開始ができたのは、青森、栃木、静岡、岡山県の各県内の4つの地域であった。各地域において18歳以上の男女計300名を対象に無作為抽出法による面接調査を実施した。回答候補者には調査の目的と概要を含む調査協力依頼書を予め送付し、その後電話により面接日時を定め、訪問面接を行った。世帯支出等の情報に関する項目は、予め別途質問票を送付し、自己記入式で回答・密封の上、訪問時に回収した。回答者に調査についての説明を文面及び口答にて行い、同意が得られた者に実施した。3)各地域において調査員へのトレーニングを行った。WHOが作成したマニュアルを参考にカリキュラムを作成した。トレーニングにより、各地域5名から10名の調査員を確保した。
結果と考察
(1)理論的分析-WHOはWHR2000の中で、保健医療システムの範囲を定義し、その目標として、健康結果、応需性、費用負担の公平性の3つを提唱した。そしてこれらの不公平さと、前二者については到達度を測定し、健康結果の合成指標について、投入資源による到達可能点に対する実際の到達度を推定した。また、これらに関与する機能として、財政、サービスの提供、資源の創出、育成の4つを定めた。
批判-政策決定者にとって理解に時間がかかる。保健医療システムの範囲について、政策決定者がコントロール可能な範囲に狭めるべき。より社会的、霊的要素を含むべき。3つ目標について、費用負担の公平性のみならず、適正レベルを含めるかどうかが議論となる。現在これに対する答えは無く今後の研究課題といえる。パフォーマンスについては、データの確保を含め算出に多くの労力を要することから、国内の地域、小集団レベルでの応用が困難である。包括的指標であるため直ちに政策に結びつかず、4つの機能に関連した中間的指標の設定が必要である。1)HALEは統合健康指標のひとつで、健康水準を最も簡便に表現する。政策決定者や国民の耳目を集めるのには適しているが、その算出過程には専門的知識を要し理解しにくい。また、統合健康指標の欠点として直ちに対策に結びつかず、より細分した情報提供が望まれる。WHOの試みは、健康度測定の面から大変興味深く、現在行われているWHS、異文化間の健康度比較に有用なhopitモデルと合わせて研究を推進すべきである。2)育成-育成は、WHR2000の中で提案された新しい政府の役割を表す概念である。市場の果たした役割も踏まえて、保健医療システム全体を俯瞰しリードする政府の機能を意味している。WHO/EIPは、医療政策立案や影響力行使、知識の収集・利用の三つを提案しており、これらの定量化や各国への応用が望まれる。3)FFCは、家計の支払い能力に占める保健医療に関する支払いの割合(HFC)のばらつき示す係数である。批判-①推計方法そのものについての批判、②データに関しての批判、③政策に応用する上での批判。WHOは、これらに対して推計方法やデータに関して明確な回答を行なった。4)普及度は、保健医療サービスの供給と健康結果を繋ぐ概念である。指標的には、いわゆる結果関連過程指標に当り、政策的に有用である。(2)全国調査に基づく分析1)FFC-1984年から99年までの15年間を通して、HFCは拡大したが、全体の公平性の水準はほぼ一定であったことが示された。しかし、負担の構成は変化してきている。全体の公平性の議論をするためには、さらに細かな調査が必要である。2)システム効率性の分析-推計結果より、①県民所得が高い都道府県ほどLEが高くなる、②県民所得が同水準であっても教育レベルが低い都道府県ほど、フロンティアラインからより下方に乖離したLEを達成することが示唆された。3)国民医療費分析-THE推計値は、1995年度に33兆7454億円だったものが、1999年度に約38兆114億円に増加していた。4)普及度の応用①高血圧-新基準は新しい治療目標であり、今後努力すべきギャップの大きさが明らかとなった。健康政策の観点から、新基準の妥当性の吟味が必要である。②高コレステロール血症-日本の高コレステロール血症管理の有効性において、基準案による大きな改善が観察された。診断基準の設定は、より慎重に行なわれるべきである。また、普及度は臨床指標としての潜在的重要性が高く、それを検討するための研究を促進すべきである。(3)フィールド調査-2003年3月末現在、4地域のうち2地域が完了、4月中旬までに全て終了予定である。調査対象者の回答承諾率は地域により約40-70%と大きく異なるが、いずれも300回答数を得ることを以って調査終了とした。
結論
WHR2000で提案されたHSPAの手法は、一部概念的には不明確さが残るものの、全体的にはこれまでにない新しい評価の枠組みとして期待される。特に、育成や普及度については、今後の政策決定にも応用していけると考えられる。これらの概念を作業化し、日本の県別比較を行なうことにより、更に健康日本21等の政策への貢献が期待される。これらの概念を含んだインタビュー調査・世界健康調査については、今年度調査を開始した。特に調査の過程で大きな問題は生じなかった。

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