OECDのSHA手法に基づく医療費推計及び国際比較に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200141A
報告書区分
総括
研究課題名
OECDのSHA手法に基づく医療費推計及び国際比較に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
宮澤 健一(医療経済研究機構)
研究分担者(所属機関)
  • 井原辰雄(医療経済研究機構)
  • 坂巻弘之(医療経済研究機構)
  • 小澤由幸(医療経済研究機構)
  • 速水康紀(医療経済研究機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 統計情報高度利用総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
毎年、厚生労働省統計情報部から公表される「国民医療費」は、わが国の医療保険制度のもとでの支出を推計したものであり、医療政策における成果をはかる重要な指標の一つであるとともに、医療経済上、中長期の政策目標設定においても重要である。ただし、国民医療費の計上の範囲には、若干の限定がある。正常分娩や歯科自由診療、療養環境など医療保険の対象外の項目、予防や健康管理、医療システムの運営に関わる費用、医療機関の運営および施設整備のための費用が除外されており、そのため、保健医療支出の範囲が諸外国とも異なるために、国際比較を行う場合に問題になることが指摘されてきた。国際比較に際しては、医療支出の細項目レベルでの定義を明確にした上での比較可能性を検討する必要もある。
2000年よりOECDは保健勘定(National Health Account)の国際基準として、A System of Health Accounts(SHA)を発表し、加盟各国への参加を呼びかけてきた。以降、2001年のOECD Health Dataより、この新基準に沿った推計を行うことが求められている。医療経済研究機構では、平成12年度厚生労働科学研究費特別事業により、SHAに準拠した日本の総保健医療支出の推計方法を開発し、その手法を用いて1998年度の総保健医療支出の推計を行った。続く平成13年度及び14年度の2カ年にわたる本厚生労働科学研究費統計情報高度利用総合研究事業において継続的な研究を行ったが、特に平成14年度研究においては以下の2点を主たる目的とした。
①平成14年度研究において推計対象とする2000年度は、介護保険制度導入初年度にあたるため、介護保険制度に対応した推計手法を構築する。
②介護保険導入前後の推計結果を比較し、機能別分類・供給主体別分類・財源別分類のそれぞれについて、どのような変化があったのか検証し、介護保険導入の影響について考察する。
研究方法
平成12年度研究で開発し、平成13年度研究において精緻化を図った医療費推計手法について、更なる精緻化を図った。さらに、介護保険制度に対応した推計手法を構築するため、介護保険制度に移行したことで国民医療費から除外された一部の医療系サービス費用についての推計方法を開発した。これにより、2000年度の総保健医療支出推計を行なうとともに、1995年度から1999年度の各年度の推計値についても更新した。推計は、OECD Health Data 2003の項目に従って行い、またSHAテーブルを作成した。SHAテーブルは、総医療支出(Total expenditure on health)ではなく総現行医療支出(Total current expenditure on health)、すなわち総医療支出から設備投資額を差し引いた部分を各分類に従い2次元あるいは3次元テーブルに表したものであるが、本研究では、特に基本となる3つの2次元テーブル(table2:HC-HP、 table3:HP-HF、 table4:HC-HF)について作成した。特に、今後、OECDから求められるSHAテーブルが変更された場合でも、柔軟な対応が可能となるよう、標準テーブルよりも詳細に、機能別分類・供給主体別分類・財源別分類の小分類項目まで掘り下げた推計を行った。
結果と考察
(1)2000年度総保健医療支出の概況:本研究にて推計した2000年度総保健医療支出(Total expenditure on health ; THE)は、約39兆5321億円であった。「経常保健医療支出(Total current expenditure on health)」が約37兆3056億円(対THE比 94.4%)、「医療設備への投資(Total investment on medical facilities)」が約2兆2265億円(5.6%)であった。経常保健医療支出のうち、「集団的保健医療支出(Expenditure on collective health care)」は約2兆225億円(対THE比 5.1%)であった。これは、「予防-公衆衛生(Prevention and public health)」約1兆1653億円(2.9%)と「保健管理と保険への支出(Expenditure on health administration and insurance)」8573億円(2.2%)からなる。また、経常保健医療支出を構成するもう一方の「個別的保健医療支出(Expenditure on personal health care)」約35兆2831億円(対THE比 89.3%)は、「医療サービス支出(Expenditure on medical services)」約27兆7241億円(70.1%)と「医療財への支出(Medical goods dispensed to out-patients)」約7兆5590億円(19.1%)からなる。さらに、医療サービス支出の内訳をみると、「入院医療費(Expenditure on in-patient care)」14兆8480億円(対THE比 37.6%)、「デイケア医療費(Expenditure on day care)」2494億円(0.6%)、「外来医療費(Expenditure on out-patient care)」約12兆2296億円(30.9%)、「在宅医療費(Expenditure on home care)」約1505億円(0.4%)、「補助的サービス(Expenditure on ancillary services)」約2467億円(0.6%)であった。
また、医療財への支出の内訳は、「医薬品その他非耐久性医療財(Pharmaceuticals and other medical non-durables)」約7兆2160億円(対THE比 18.3%)と「医療用具その他の耐久性医療財(Therapeutic appliances and other medical durables)」約3430億円(0.9%)であった。
(2)1995-2000年度の推移:国民医療費は1995年度に約27兆円だったものが、1999年度には約31兆円までに増加したが、2000年度には介護保険制度へ一部の医療系サービスが移行した影響もあり、約30.3兆円に減少した。一方で、総保健医療支出は1995年度に約33.7兆円だったものが、2000年度には約39.5兆円に増加した。国民医療費は総保健医療支出に対して約80%から81.5%程度で推移してきたが、2000年度は国民医療費の減少の影響を受けて約77%に低下している。
結論
本研究によって得られた成果は以下のようなものが挙げられる。①介護保険制度に対応した推計手法を構築したことにより、今後も継続した総保健医療支出推計が可能となったと考えられる。特に、介護保険制度導入前は、実態の把握が困難であった社会福祉系サービスの中の医療関連費用についてもデータが整備され、推計の精緻化が図られた。②介護保険導入前後において、同じSHAの枠組みの中での推計手法を構築し、医療費推計を実施したことにより、経年的な比較可能性が向上した。これにより、介護保険導入の変化について検証が可能となった。③OECD Health DataはSHAの概念を導入している途上であり、2002年版から2003年版で報告項目の追加・変更が生じたが、平成14年度研究ではその追加・変更にも対応し、それに準じた推計結果をOECDに報告した。この項目変更に関しては、平成13年度研究で行った1995年度から1999年度の推計についても対応し、あわせてOECDに報告した。次年度以降も報告項目の追加、削除などが考えられるが、SHAの概念を基に構築した推計手法を用いて総保健医療支出を推計することにより、このような変更にも柔軟に対応できると思われる。④SHAの概念に基づく総保健医療支出の推計を行い、OECD Health Dataとして報告したことにより、各国の医療費について比較可能性が高められた。⑤SHAの概念に基づいた推計では、機能別分類・供給主体別分類・財源別分類の3次元分類を基本として包括的な推計を実施することから、本研究の推計結果は政策利用性を高める医療統計を提供していると考えられる。⑥介護保険導入により国民医療費は減少したが、総保健医療支出は例年並のペースで上昇していることが明らかになった。

公開日・更新日

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