文献情報
文献番号
200200138A
報告書区分
総括
研究課題名
社会経済要因が地域健康に及ぼす影響を解明するための保健統計活用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 英樹(帝京大学)
研究分担者(所属機関)
- 田宮菜奈子(帝京大学)
- 山岡和枝(国立医療健康科学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 統計情報高度利用総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、社会経済的構造因子(特に経済的生活水準やジェンダー役割)が地域健康状態に及ぼす影響を検討する際に、既存保健統計を活用するための条件を吟味検討することを目的とする2年計画の研究事業である。具体的には社会経済的要因、性的役割や地域文化などの影響を受けやすい養育や介護の問題に注目した。初年度である平成14年度は、国民生活基礎調査平成10年調査健康票ならびに世帯票の個票目的外使用申請を行い、1)世帯ごとの養育・介護負担指標の作成の試みならびに指標と自覚的健康度の関連性の検討(橋本)、2)自覚的健康度地域指標の地域集積性の検討(山岡)、3)被介護者と介護者の世帯特徴の記述的検討(田宮)を行った。
研究方法
既存統計として国民生活基礎調査平成10年調査健康票ならびに世帯票の個票を選んだ。平成10年調査では詳細な介護に関する世帯情報が収載されており、2000年4月の介護保険制度開始前の慣習的な家庭介護重視を支える性的役割構造や文化・Normの影響が比較的強く見られるのではないかと思われたからである。個票の目的外使用を統計法の規定に基づき申請し入手した。合計で24万7662世帯、72万1478人分のデータを得た。1)負担指標;世帯票データをもとに世帯ごとの6歳未満児の数を集計し、これを世帯養育負担度の指標とした。介護を要するものの数をそのADLにより重み付けして世帯ごとに合算したものを世帯介護負担度の指標とした。健康票の自覚的健康度(5段階)を、2値変数(「あまりよくない」、「よくない」を不健康=1とした)に変換し、年齢、婚姻状況、家族構成(7分類)などを調整した上で、性別と上記2種の世帯負担量との交互作用項を含むロジスティック回帰分析を行った。2)自覚的健康度の地域集積性;健康票の5段階自覚的健康度をもとに2種類の2値変数(自覚的健康度と自覚的不健康度)を作成した。これを年齢・性別に集計し、都道府県ごとに間接補正を施したものを全国平均で割り、標準化死亡比に該当する指標を作成した。一方、この方法では都道府県ごとの人口サイズの格差による推計のばらつきを生じる可能性があることから、経験的ベイズ推定を用いて都道府県ごとに自覚的健康度・不健康度の標準化比を計算しなおした。その上で、地域集積性をTangoの方法ならびにKulldorffの方法の両者で検定を行った。3)記述的検討;世帯票データを用いて介護者ならびに被介護者の特性ごとに記述統計を求めたのち、介護者の性別と被介護者との続柄による介護サービスの利用のパターンを記述的に解析した。
倫理的配慮:指定統計の個票の取り扱いについては、規定に基づき個人情報流出を防止するために配慮し、個人をID番号のみにて識別し、個人が同定される情報を排除し、プライバシーが十分に確保されるように努めた。また別途実施された全国調査データについても、データを収集した研究グループに使用目的を伝え正式に使用許可を得た後、個人を同定できる情報を除去したデータを特定の分析者だけが一元管理し、個人レベルのデータ流出などの可能性を最小限にとどめた。
倫理的配慮:指定統計の個票の取り扱いについては、規定に基づき個人情報流出を防止するために配慮し、個人をID番号のみにて識別し、個人が同定される情報を排除し、プライバシーが十分に確保されるように努めた。また別途実施された全国調査データについても、データを収集した研究グループに使用目的を伝え正式に使用許可を得た後、個人を同定できる情報を除去したデータを特定の分析者だけが一元管理し、個人レベルのデータ流出などの可能性を最小限にとどめた。
結果と考察
1)世帯負担;世帯ごとの養育負担度と自覚的不健康の訴えの間に用量反応関係が認められた。すなわち年齢・婚姻状況・家族構成を補正してなお、6歳未満児を持たないものを基準として、児の数が増えるに従い、自覚的不健康の訴えのオッズ比は上昇した。その傾向に男女差は認められず、性別と世帯養育負担指数との交互作用項も有意とはならなかった。一方、介護負担度については、女性では介護負担度と自覚的不健康有訴率に有意な用量反応関係を見たが男性にはこうした関係が認められなかった。
2)自覚的健康度の地域集積性;都道府県レベルでは最大でも人口サイズ格差が鳥取と東京の間の20倍弱であったが、ベイズ推定による結果と従来の標準化比計算の結果では若干の違いが見られた。また地域集積性の検討の結果、Tangoの検定法では健康度は宮崎・沖縄県で高く、Kulldorff法では宮崎・鹿児島などで健康度が高い一方福岡・大分で低い結果となった。
3)被介護者と介護者の世帯特徴の記述的検討(田宮)
介護者の性別と被介護者との続柄による介護サービスの利用のパターンに違いがあることを確認した。今後橋本の分担研究とあわせ世帯による介護負担と健康影響の関連性を検討する上で、続柄と性役割の問題について、検証すべき仮説を探索した。
考察:自覚的健康と養・介護の世帯負担量との間に有意な関係を認めたことは、世帯負担を支える社会的システムの必要性を裏付けるものとなった。一方、養育では男女差が見られなかったのに対して、介護では男女差が見られた、介護者と被介護者の続柄、介護者のジェンダーがサービスの利用パターンの違いと関係をもっていることなどから、ジェンダーの問題と世帯負担の密接な関係が、地域一般住民を対象とした我が国の代表的サンプルで確認された。また自覚的健康度に基づいて簡易的な地域健康指標の作成を試みた。介護などの世帯機能の問題に代表される社会的・経済的要因の個人レベルの健康影響だけでなく、社会資源による地域レベルでの健康影響を検討する上で、この簡易的地域指標の活用性を今後さらに検討を深めてみる余地があると思われた。また従来問題とされていた人口サイズの格差による推計のばらつきを、経験的ベイズ推定を用いることでコントロールしたところ、予想外に都道府県レベルですら格差の影響が見れらたことは、今後の厚生統計のまとめ方に影響しうる知見となった。
2)自覚的健康度の地域集積性;都道府県レベルでは最大でも人口サイズ格差が鳥取と東京の間の20倍弱であったが、ベイズ推定による結果と従来の標準化比計算の結果では若干の違いが見られた。また地域集積性の検討の結果、Tangoの検定法では健康度は宮崎・沖縄県で高く、Kulldorff法では宮崎・鹿児島などで健康度が高い一方福岡・大分で低い結果となった。
3)被介護者と介護者の世帯特徴の記述的検討(田宮)
介護者の性別と被介護者との続柄による介護サービスの利用のパターンに違いがあることを確認した。今後橋本の分担研究とあわせ世帯による介護負担と健康影響の関連性を検討する上で、続柄と性役割の問題について、検証すべき仮説を探索した。
考察:自覚的健康と養・介護の世帯負担量との間に有意な関係を認めたことは、世帯負担を支える社会的システムの必要性を裏付けるものとなった。一方、養育では男女差が見られなかったのに対して、介護では男女差が見られた、介護者と被介護者の続柄、介護者のジェンダーがサービスの利用パターンの違いと関係をもっていることなどから、ジェンダーの問題と世帯負担の密接な関係が、地域一般住民を対象とした我が国の代表的サンプルで確認された。また自覚的健康度に基づいて簡易的な地域健康指標の作成を試みた。介護などの世帯機能の問題に代表される社会的・経済的要因の個人レベルの健康影響だけでなく、社会資源による地域レベルでの健康影響を検討する上で、この簡易的地域指標の活用性を今後さらに検討を深めてみる余地があると思われた。また従来問題とされていた人口サイズの格差による推計のばらつきを、経験的ベイズ推定を用いることでコントロールしたところ、予想外に都道府県レベルですら格差の影響が見れらたことは、今後の厚生統計のまとめ方に影響しうる知見となった。
結論
既存厚生統計を用いて介護・養育などの世帯機能負担と健康の関連を検討した。次年度以降はさらに複合的な個人・世帯・地域要因のエコロジカルな健康影響を検討することが必要である。まず介護と世帯機能の記述的結果をもとに、仮説の精緻化を行い、さらには世帯所得などの経済的因子や地域の介護社会資源量などの構造的因子もモデルの中に含めた多階層共分散構造分析を行い、社会経済指標と自覚的健康状態・地域厚生指標との関連を包括的に取り扱う予定である。
公開日・更新日
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