患者調査の客体設定の在り方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200135A
報告書区分
総括
研究課題名
患者調査の客体設定の在り方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
吉村 功(東京理科大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 統計情報高度利用総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
都道府県には、医療法によって、二次医療圏を設定し、当該地域における基準病床数を算定し、特定の病院が果たすべき機能も明らかにした医療計画を策定する必要がある。医療計画策定における医療需要の把握については、患者調査に基づくところが多く、特に二次医療圏ごとの調査データが重要となる。ところがその患者調査に対して、二つの問題点が統計審議会等で指摘されている。
第一は、現在の層化抽出調査法において、例えば二次医療圏で一つしかない二次救急病院や小児科標榜病院が客体から洩れる等、策定する医療計画の妥当性に影響する問題が生じ得ることである。第二は、調査協力を依頼する医療施設の調査票記入者の負担が、特に大きな医療施設において非常に大きいので、費用対効果の観点から負担軽減を図る必要があることである。
患者調査は、3年に1度行われる調査であり、次回は平成17年10月に予定されているが、その調査においては上記の問題点を考慮に入れた調査設計が必要である。すなわち、個々の疾病の患者数をおおむね精度良く推定でき、しかも費用対効果が良くて記入者負担が少ないように、層化抽出法の改善を図ることが緊急である。本研究の目的は、上記の背景の下で、医療施設静態調査と患者調査の過去の結果に基づいて、上記の問題点に対処できる層化抽出法を考案することである。
研究方法
「利用可能データ」 医療施設調査(病院、一般診療所、歯科診療所)(平成5年、平成8年、平成11年)(全国)及び患者調査(病院、一般診療所、歯科診療所)(平成5年、平成8年、平成11年)(全国)の一部が、平成15年の始めに目的外使用を許可されたので、これを用いる。データとしてのその大きさは、記録容量で約800MBである。病院の抽出率は70%と高いのに対し、一般診療所は抽出率が7.5%、歯科診療所は抽出率が2.0%と小さい。従って、後二者についての検討が本研究の目的では重要であるが、歯科診療所は疾患が限定されているので、本年度は一般診療所についての検討を行った。
「解析方針」 課題は二つあるが、今年度は各種疾病の患者数を精度良く推定することを検討した。平成8年度調査では、都道府県別に、1.内科(無床)、2.内科(有床)、3.小児科、4.外科(無床)、5.外科(有床)、6.整形外科(無床)、7.整形外科(有床)、8.産婦人科、9.眼科、10.耳鼻科、11.その他(無床)、12.その他(有床)、で層化して施設を抽出している。類似性のある疾病のクラスとこの層化が対応していれば、特定疾病の集積する医療施設が抽出率の小ささのゆえに漏れることがなくなる。層化においては、患者の主疾病とその患者が通院・入院した主たる診療科の関係が重要である。平成8年患者調査では、診療科が36であるが不明等も考慮すると、診療科は37になる。疾病分類は、厚生労働省が平成8年調査で採用したものを考えると143分類になる。これらのカテゴリーの併合による層の数の集約を試みるために、患者の通院・入院行動の類似性をコレスポンデンス解析することにした。
「コレスポンデンス解析」 コレスポンデンス解析は、2つの分類因子において、それぞれの因子の各カテゴリーに数値を付与し、その数値の相関係数がどの程度大きくできるかによって、2因子の関連性を評価する手法である。一方の因子のあるカテゴリーが他方の因子のあるカテゴリーと完全に対応していれば、適当に数値を付与することで、相関係数を1にできるし、そのような対応的関連が全く無ければ、どのように数量化しても相関係数を大きくすることができない。
「解析の算法」 具体的な手順としては、まず、eij=(fij-fi.f.j)/(fi.f.j)1/2を要素とする行列EをE=UDV'という形に特異値分解する。ここで、Dは対角行列、UはEE'の固有ベクトル、VはE'Eの固有ベクトル、「'」は転置である。Dの対角線要素(特異値)を大きさの順d1,d2,...とすると、d12,d22,...,da2がEE' の固有値になる関係で、tr(E'E)= d12+d22+...+dm2+... +da2=X2という関係がなりたつ。X2は2つの分類因子の独立性のカイ二乗統計量なので、これはカイ二乗統計量の加法的分解という意味を持つ。(d12+d22+ ...+dm2)/X2 が1に近ければ、m次元の数量化で2つの分類因子の対応関係が把握できることを意味する。その上で、各固有値に対応する固有ベクトルU1,U2,...Um (あるいはV1,V2,...,Vm)に基づいて、カテゴリーの併合を行えばよい。併合においては、医学的意味も資料として利用し、試行錯誤的な層化を行うのが普通である。
「層化抽出における精度評価の方針」 層化抽出においては、各疾病の患者数を比推定で推定する。その精度の評価式には、調査で推定すべき未知母数が含まれるので、机上で計算することはできない。しかし例えば平成8年のデータに基づいて、未知母数についての想定を行えば試算は可能である。時間の関係で平成14年度にその試算を十分に行うことは無理であったが、単純な場合についての試算で、新しい層化抽出で精度の改善が図れるかどうかを検討した。精度評価の規準には相対標準誤差を用いた。
結果と考察
「コレスポンデンス解析」 休診等の影響があって、実際に解析に利用できた施設数は設計数より少なく、次の通りであった。平成5年:5,107、平成8年:5,054、
平成11年:4,891。このデータに対してコレスポンデンス解析を実行したところ、たとえば平成8年度では、X2 = 1,722,960が37診療科目と143疾病の間の独立性のカイ二乗統計量の値となった。年度によって疾病分類や、診療科目が異なっているので、特異値をどこまで評価してカテゴリーの併合に利用するかを、機械的に行うことはできないが、総合的には10位より先の寄与率がおおむね3%以下となるので、10位までを考慮すればよいことになった。10個の特異値までをカテゴリーの併合に使うことは、10次元空間に診療科を付置させてクラス分けを行うことである。それには各特異値に対応する数値化が何を特徴的に表すか、医学的知識を背景にして個別に評価することが必要である。しかしその作業には時間不足だったので、平成14年度には統計的に現れていることだけから検討を行った。その結果の一例としては次の層化が考えられる。
1.眼科、2.歯科・口腔外科、3.耳鼻咽喉科・矯正歯科、4. 皮膚科・婦人科、5.産科・産婦人科、6.精神科・心療内科、7.泌尿器科、8.アレルギー科・呼吸器科・小児科、9.肛門科、 10.その他
「患者数の推定精度についての試算」 層化については、まだ十分信頼できる結論が出ていないので、コレスポンデンス解析で比較的明確に特徴が現れた診療科の有無で医療施設を次の4層に分けた。(A1)眼科を持つ施設、(A2)産科・産婦人科・婦人科を持つ施設、(A3)泌尿器科を持つ施設、(A4)その他。患者数を調べたい疾病としては、(B1)白内障、(B2)乳房及びその他の女性性器の疾患、(B3)前立腺肥大、(B4)糖尿病、(B5)高血圧。これらについて過去の調査結果に基づいて、モデル母集団を用意し、これに対して、従来の層化抽出法と、新しい層化抽出法を適用したモデル試算を行った。一例として、標準相対誤差率の変化を調べると次のようになる(括弧内は想定患者数)。B1: 4.61% => 0.86%(150,654人)、B2: 5.51% => 1.86%( 31,236人)、B3: 5.71% => 2.81%( 14,552人)、B4: 0.96% => 0.93%(144,296人)、B5: 0.62% => 0.37%(766,829人)。
試算には過ぎないが、推定精度向上の可能性は期待できそうである。診療科と疾病がある程度対応するのは自明であるが、診療科をいくつの層に併合するかについては、本研究で採用した解析が有効と思われる。解析が終了していない、病院と歯科診療所のデータ解析からも、疾病の集中性について新たな知見が得られるものと思われる。層化が行われた後には、各層からの最適抽出率を定めることが必要である。試算では、全体の患者数が少なくて特定な診療科に患者が集中するような場合に、施設抽出率を上げることが有効であった。しかしその最適性についての検討は次年度の課題である。本研究の目的は2次医療圏における患者数の精度良い推定である。その検討も次年度の課題である。
結論
統計データの解析がまだ一部分しか行えていないため、本研究では、まだ明確な定量的な結論が得られていない。しかし試算によれば、層化抽出法を改善することで、患者数の推定精度の改善が図れることになる。医療施設の特性と患者の集積傾向をさらに詳しく調べることで、次回の患者調査のための改善案が提出できるものと思われる。

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