生活環境におけるレジオネラ感染予防に関する研究

文献情報

文献番号
200200118A
報告書区分
総括
研究課題名
生活環境におけるレジオネラ感染予防に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 眞一(九州大学)
研究分担者(所属機関)
  • 江崎孝行(岐阜大学)
  • 宮本比呂志(産業医科大学)
  • 藪内英子(岐阜大学)
  • 大井田隆(日本大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究課題である「生活環境におけるレジオネラ感染予防」を実現するためには、生活環境におけるレジオネラの生態を把握し、正確で迅速に環境中のレジオネラを検出する方法を開発して普及し、レジオネラの環境中での増殖をコントロールしなければならない。また、感染が起こった場合には重症化を防ぐことが大切であり、そのためには、迅速で正確な臨床検査法を開発・普及し、早く正しい治療を開始できる医療環境を整備することが必要である。これらを実現するために研究班が組織され研究が行われた。
研究方法
1.レジオネラ属菌自身がバイオフィルムを形成できるかどうか実験した。総計38種50株のレジオネラ属菌をBYE (Buffered Yeast Extract) 培地で静止培養し、25度、37度、42度の温度下でガラス壁にバイオフィルムを形成するか否かを観察した。レジオネラ属菌に対する熱殺菌効果はL. pneumophila Pliladelphia-1株を用い、単独浮遊菌体、アメーバ内、バイオフィルム内の菌に対する熱殺菌効果を検討した。
2.L. pneumophilaに特異的な検出法を作成するために、Legionella属の各菌種の DnaJ遺伝子配列を網羅的に決定した。また属の中でよく保存されている16S rDNA配列から属内のほとんどの菌種を増幅する検出系を作成した。これらの方法が、実用的な感度と特異性があるかどうかを調べるために Legionella属40菌種、およびL. pneumophilaの15血清型、および 類縁の非発酵性グラム陰性菌20菌種を使って特異性と感度の実験を行った。
3.環境由来株に病原性があるかどうかを評価するために「アメーバ寒天法」を開発し、使用した。その他、レジオネラのエアロゾル曝露実験系を考案し、モルモットを使用して肺炎原因菌株とポンティアック熱原因菌株の感染実験を行なった。臨床症状、肺組織所見などを肺炎原因菌株とポンティアック熱原因菌株で比較した。
4.レジオネラ検査の精度管理に関する実態調査をするために、参加各施設に対して菌液検体(3種1組)を発送した。北海道から九州に至るまで搬送中の温度が一定になるよう、民間宅配業者のクール宅配便で輸送した。各施設(1施設を除く全参加施設)からは3月28日までに試験成績が報告されたので、それを解析し報告書をまとめた.
5.レジオネラ感染症の診断のために最も有効な検査法を明らかにするために、民間の臨床検査機関(全国シェアーの約10%を占める)から、レジオネラ検査に関わる4つの項目(培養法、PCR法、血清抗体価、尿中抗原の検出)について、資料の提供を求め、培養法(8751検体)、PCR法(461検体)、尿中抗原検査(5126検体)について、それぞれの陽性率を調べた。また、環境中の水約4000検体についても培養法による陽性率を調べた。
結果と考察
1.バイオフィルム形成能は、調べたL. pneumophila13株(血清群1-11)のすべてが形成し、一方、その他の菌種は調べた35株のほとんどが形成しなかった。L. pneumiphilaが他菌種よりも環境中から高率に検出され、かつヒトから分離される率も高いことの理由の一つと考えられる。このことはL. pneumophilaを中心に感染源対策を行うことが重要であることを示した。また、熱殺菌は菌が浮遊状態、バイオフィルム内、アメーバ内であっても70C、1分でほぼ完全に行われるが、バイオフィルム形成した菌はわずかに熱殺菌抵抗性が上がっており完全な殺菌には75C、1分により達成されることがわかった。これは配管内にバイオフィルムを形成したレジオネラの熱殺菌に必要なデータであり、現場での活用が期待される。
2. L. pneumophilaに特異的で高感度の迅速検出法を作成することができた。Legionella属、および L. pneumophilaの特異的検出方法が完成したので、この方法を用いて環境水の汚染を迅速に検査する方法を作成することができ、検出キットなどの実用化に向けた民間との共同研究に進展させている。
3.多数の環境分離株の病原性を迅速かつ正確に判定することができる「アメーバ寒天法」は、感染源同定のために有効であるだけでなく、どの生活環境水が危険かを評価でき、レジオネラ症予防対策に役立つと思われる。また、研究の結果、ポンティアック熱原因菌を弱毒株による感染症と考えて生活環境水の衛生管理を怠ることは非常に危険であることも明らかにした。
4.レジオネラ検査精度管理調査の結果、L. pneumophila血清群7-15に対する抗血清が入手可能であるにも拘らず一部の施設でしか使用されていないこと、レジオネラ症防止指針に明記されているDNA-DNA hybridizationを実施していない施設があることなどが分かった。これらの方法の導入を啓蒙しなければならない。
5.尿中抗原検出法と他の検査法では陽性率に大きな差が見られ、尿中抗原検査法がレジオネラ感染症の診断に最も有効であることが明らかとなった。これまで保険適応があった培養検査のみでは感染者を見逃している可能性があることを示唆した。平成15年の4月より簡便な尿中レジオネラ抗原検出検査に保険適応(230点)が認められ、より正確なレジオネラ感染状況の把握が期待される。
結論
Legionella pneumophilaはレジオネラ属の細菌種では唯一バイオフィルムを形成すること、バイオフィルム内では加熱殺菌に対する抵抗性が上がっているとの知見は生態と殺菌に関する新知見である。レジオネラ属特異的、L. pneumophila特異的プライマーも決定し、迅速遺伝子診断への道を開いた。レジオネラ検査の精度は検査機関による格差がみられ、そろって向上させる必要性がある。レジオネラ症の臨床診断では尿中抗原検出がもっとも陽性率が高いことが判明した。

公開日・更新日

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