コンポーネントの標準化による電子カルテ開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200115A
報告書区分
総括
研究課題名
コンポーネントの標準化による電子カルテ開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
中井 幹爾(保健医療福祉情報システム工業会:JAHIS)
研究分担者(所属機関)
  • 堀内 一(東京国際大学)
  • 永井 肇(JAHIS)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
電子カルテシステムの高品質確保、導入容易化、短納期化、低コスト化を通して電子カルテ普及を推進するために、以下の通りモデルおよびコンポーネントを用いた電子カルテシステム開発の技術的な基盤作りを行うことを研究目的とした。(1) 電子カルテの普及要件の把握と、普及要件をみたすために情報技術の面から貢献できる方法を提案する。(2) 電子カルテ導入において高品質確保、導入容易化、短納期化、低コスト化等のメリットが得られるような「コンポーネント開発」、「コンポーネント共有」が行われるための技術的基盤の整備を行うための方法論を整理する。(3) 提案した方法によるモデルおよびコンポーネントを用いた電子カルテシステム開発の手法を体系化した。① 電子カルテを利用して診療を運用する場合の業務フローモデルを試作する。② 診療情報の国内および国際的な標準化に対応するために、HL7(Health Level Seven)の参照情報モデルに準拠した電子カルテシステム用参照情報モデル開発の方法を確立する。③ モデル、コンポーネントを用いて電子カルテシステムを開発する場合の実装モデルを試作する。(4) モデルからコンポーネント開発・実装までスムースに行われることを確認するために、実験システムの準備を行う。① 実験システム開発計画案の作成、実験システム用業務モデルの開発を通じた開発方法を具体化する。② 実験システムの一部をパイロットシステムとして開発することを通じて、開発技術の基本的な検証を実施する。
研究方法
以下の方法で研究を行った。(1) 電子カルテの急速な普及が求められているにもかかわらず普及が遅い現状を打開する手段を見つけるための検討を行った。① 永井がこれまでの経験をベースに電子カルテシステムの普及要件を整理した。② 研究協力者手島文彰が開発方法を整理した。③ HL7(Health Level Seven)の重要性から、研究協力者長谷川英重が情報技術国際標準化動向の中でのHL7の位置付けを評価した。(2) モデル・コンポーネントの共有技術の標準化をISOに提案している堀内が技術動向を整理した。(3) 成果の共有および開発効率化のために、モデル開発、方式の検討を行った。① モデル技術面ではビジネスオブジェクト推進協議会(CBOP)、(財)情報処理相互運用技術協会(INTAP)の協力を得て、ISOのオープン分散処理参照モデルおよびOMGの複合システム用モデル記述言語を利用した。② ISO標準のオープン分散処理参照モデルおよびOMG(Object Management Group)の複合分散処理システム記述方式に基づき、保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)メンバが今まで電子カルテシステムを開発してきた経験を通して得られた病院業務・運用に関する知識を十分活用して電子カルテ業務フローモデルを研究協力者成松亮らが開発した。③ 国内での互換性の観点、さらに国際的な標準化の観点から、研究協力者藤咲喜丈らがHL7の参照情報モデルとの互換性を確保した電子カルテ用参照情報モデルのプロトタイプの試作を行った。④ 手島が電子カルテシステムの実装モデルを開発した。(4) 新しい技術を安定して利用するためには、実験システムの開発、実験による検証の案を作成した。① 手島らが実験システムを構築するための方式概略設計を行った。② 成松らが実験システムの機能範囲を対象とした業務モデルを開発した。③ 業務モデルの一部について基本的な技術の検証を行うために、永井らが.NET環境でパイロットシステムを開発し、実験を行った。
結果と考察
以下のように、研究結果に関する考察を加えた。(1) 普及推進の観点からは、モデルとコンポーネントを利用した開発方法を実用化すること
が有効と考えられた。① 作成した電子カルテシステムの普及のための要件を、今後ユーザサイドの評価を得てより質の高いものにすることが望ましい。② モデルおよびソフトウェアのコンポーネントを標準化する方法は現時点での最先端技術が展望されており、モデルの長期利用、コンポーネントの中期的利用という目的に適している。③ モデルおよびコンポーネントを活用した電子カルテの開発方法を実用段階まで具体化した。(2) モデルおよびコンポーネントの標準化の動向、共有技術の動向、共有基盤の動向をまとめたことで、本研究で採用する手法が世界的標準化動向の中で適切な位置付けにあることを検証できた。(3) モデルの試作を通して方法論を確立した。① 業務フロー実用化のため、(財)全日本病院協会の協力を得て、詳細化作業の検討を行った。これにより、ユーザとの共同作業によって実用になるモデルが開発可能との見通しを得た。② HL7の参照情報モデルに準拠して電子カルテ用参照情報モデルのプロトタイプを試作した。この作業を通じて、HL7参照情報モデルは電子カルテ用参照モデル開発の強力な拠り所となることを確認すると共に、HL7が臨床文書アーキテクチャを参照情報モデルに融合する作業中であるため、この作業への参加を強化する必要性を確認した。③ 試作した実装モデルは非常に可視性が高く、また機能の層別が明快に行われているために、システム設計において強力な拠り所となることが認識された。(4) モデル、コンポーネントを利用した開発としては、実験システム開発の準備としてパイロットシステムを試作し、基本的な項目を確認した。① 開発した業務モデル(業務フローモデル、情報モデル、処理モデル)は他の設計手法に比較して可視性が高く、機能の検討を行う際に内容を共有する強力な道具になることが確認された。② 実験システムの一部をパイロットシステムとして実際に開発し、モデルからの開発、コンポーネントを利用した開発の有効性を検証した。(5) 本研究を実用レベルのスキルに深めるには、周辺技術やコンテンツに関して、各種の関連機関との連携が必要とされる。① 電子カルテへの要求事項についてはJAMI、各医学会、ユーザ団体との協力が必要である。② HL7のどのメッセージを選ぶかは重要な決定であり、HL7メッセージの適用を検討あるいは検証・普及しているIHE-JやJAHISの各委員会との協力が不可欠である。③ 情報項目はHL7参照情報モデル準拠を基本とするが、日本で使われている情報項目の整理は不可欠であり、JAMIやユーザ団体、個別に見識・情報を蓄積している先進ユーザとの連携が重要である。④ 新しい情報技術に関してはebXMLやOMG、CBOP、INTAPなどのIT技術団体との連携を深めることが必要である。
結論
以上の結果からモデルおよびコンポーネントの開発、共有による電子カルテシステムの開発は以下のように、電子カルテ普及の大きな推進力になり得るものと考えられる。(1)本研究成果を生かして、モデルおよびコンポーネントを開発し、ベンダ間およびユーザ間で共用すれば、電子カルテを高品質確保、導入容易化、短納期化、低コスト化に大きく貢献し、利用効果の高い電子カルテの普及促進に役立つと考えられる。(2)電子カルテ導入の目的をよりよく達成するためと、導入および運用を容易化するために十分に貢献できるように、当研究では直接取扱っていない課題に関して、関連する国内外の各種の活動と連携して実用化を推進することが重要である。

公開日・更新日

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