歯科医師卒前臨床実習指針に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200111A
報告書区分
総括
研究課題名
歯科医師卒前臨床実習指針に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
江藤 一洋(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 野首孝祠(大阪大学)
  • 瀬戸晥一(鶴見大学)
  • 住友雅人(日本歯科大学)
  • 木村光江(東京都立大学)
  • 伊藤公一(日本大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
卒前臨床実習は、卒直後の最小限の歯科医師として必要な基礎的臨床能力(知識・技術・態度)を習得することを目的としてきた。しかしながら昨今、卒前の臨床実習に対する歯科医師法第17条の違法性を阻却できる範囲に関して、大学間等で認識に差が生じてきている。その結果歯科医師国家試験から実技試験がなくなったことと相俟って、多くの大学で卒前臨床実習の形骸化が進み、臨床実習といっても見学あるいは介助のみ、およびシミュレーションシステムによる実習体系に変わりつつあるのが現状である。そのため卒前における臨床実習の大学間格差を是正し円滑な卒前臨床教育を行うため歯科医師卒前臨床実習ガイドラインの早急な作成が必要となってきている。本研究の目的は、歯科における臨床実習の充実に係わる制度の整備について検討するために、国内外の臨床実習の現状調査を行い比較検討するとともに、診査、治療・術式のどこまでを臨床実習内容とするのかを再考し、さらに卒前臨床実習の法的な関係の整理を行うことである。
研究方法
我が国の歯科大学・歯学部における卒前臨床実習の現状を知るために、1)全国29歯科大学・歯学部に対して卒前臨床実習に関する現状をアンケート調査した。2)日本の現状と比較するために、諸外国の卒前臨床実習に関するアンケート調査を行った。3)全国歯科大学・歯学部のシミュレーション教育の現状についてアンケート調査を行うとともに、研究協力者の支援のもと、保存学、補綴学、矯正学領域のシミュレーション教育について詳細に調査した。一方、現行の歯科医師卒前臨床実習内容の基準である診査、治療・術式の水準1から4の内容については研究協力者の支援のもと、その改正案を作成するとともに、卒後臨床研修との整合性・連携に関して調査した。歯科学生が卒前臨床実習において歯科医的行為を行うことと、歯科医師法第17条との関係についても精査するとともに、歯学部附属病院における卒前臨床実習の現場を見学することにより、より具体的な法的解釈あるいは違法阻却の考え方について詳細な提言を作成した。卒前臨床実習実施における問題点を直接各大学の現場の責任者から確認するために、全国16大学に対してヒアリング調査を行って、上記調査事項を補完した。
結果と考察
わが国の全29歯科大学・大学歯学部の実態調査の結果、①モデル・コア・カリキュラムの水準1で示された歯科医療行為についてはほとんどすべての大学で実施されていること②水準2についても内容によっては多くの大学で実施されていること③これらの歯科医療行為は、いずれの大学においても、必ず各大学の基準を満たした指導医の指導・監視のもとに行われていること④実習対象者となる患者に対しては、歯科学生であることを伝え、口頭で同意を得た上で実施されていること、などが判明した。また、これらの調査時に各大学より指摘された問題点として、①水準1から4の内容はおおむね妥当であるが、個々の内容においては分類を変更すべきものがあること②大学により理由は様々であるものの、今後も水準1をすべての学生が自験することが困難であるとする大学が少数あること③学生用の患者確保が困難になっていること④歯科医師法第17条の阻却はすべての大学で望んでいること⑤臨床実習に出る学生の基準を明確にする必要があること、等が挙げられた。諸外国における卒前臨床実習の実態調査の結果、臨床実習の前提となる基礎教育と臨床予備実習のカリキュラム構成については、諸外国と比べ我が国でもほぼ類似した構成になっていた。しかし法律関係については諸外国では、指導者、学生、患者に
ついて国の保険でカバー、大学自体や公共医療機関が賠償保険に加入、あるいは医学生・歯科学生は指導教授などの医療人の指示監督の下で、一定範囲の医療行為を行うことが医療法の施行規則のなかで示されていた。臨床実習を補助するべく取り入れられているシミュレーション教育の実態調査では、各大学でその導入状況が異なっていることがわかった。また、臨床実習におけるシミュレーション教育自体の評価が未だ確立されていないことが判明した。さらに本研究では、作成する臨床実習の指針に記載するべき内容についても詳細に検討した。特に歯科医師法第17条の違法性の阻却については、一般論として、法的には、①患者の同意の下に、②正当な目的のための③相当な手段でなされれば、無資格者の行為であっても、無資格行為、民事の不法行為、そして刑事の犯罪行為についての違法性が阻却されると解されていること、しかし、正当な目的の相当な手段であれば、いかなる行為も許されるというわけではないこと、すなわち、④法益侵害性が当該目的からみて相対的に小さいこと(法益の権衡)、⑤当該目的から見て、そのような行為の必要性が高いこと(必要性)が認められなければならない。そして、これらの条件が整えば、行為の適法性が認められることとした。これを歯科医師臨床実習にあてはめた場合、⑤必要性は、正当な歯科医師養成目的でなされたものであれば、充足され、④法益の権衡は、患者の身体への重大な危険を伴わない侵襲があっても、歯科医師養成教育のためにより大きな利益が得られることにより、違法性が阻却されると解される。そして実質的に最も重要なのが、③手段の相当性が確保されることである。手段の相当性が確保されて初めて、歯科医師養成教育としての利益が認められ、正当な実習行為として違法性が阻却されることになる。このように、目的の正当性、手段の相当性が確保されることが、非常に重要である。
結論
卒前臨床実習の充実のために、歯科学生の臨床実習範囲を拡大していくことが必要であり、各大学が独自の臨床実習指針を作成するに当たり、本研究結果を利用することにより臨床実習実施基準の明確化、適正な実施のための条件整備が確実におこなわれることが期待できる。本研究結果に示した条件下であれば、歯科医師法の改正なくして実施することが可能であると考える。

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