研修医の臨床実技能力評価にかかる研究

文献情報

文献番号
200200110A
報告書区分
総括
研究課題名
研修医の臨床実技能力評価にかかる研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
畑尾 正彦(日本赤十字武蔵野短期大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医師の資格認定にあたって、現行の医師国家試験では基本的知識のみが評価され、基本的技能の評価はなされていない。医学部卒業時点での医学生、すなわち研修医になろうとするものが身につけているべき臨床実技を評価することが、医師国家試験に求められていると考えられ、医師国家試験レベルで期待されるOSCEをAdvanced OSCEとして、その指針(課題、評価表、評価マニュアルの例等)を作成することを目的とする。
研究方法
医学教育、特にOSCEに係る有識者からなる研究班を組織し、全国の大学医学部・医科大学におけるOSCEへの取り組みの状況を調査して、卒前教育のOSCEの実態を把握するとともに、諸外国の国家試験・資格認定のOSCEを踏まえて、本邦の医師国家試験レベルで期待されるOSCE(Advanced OSCE)の指針を作成した。まず電子メールによる意見交換または研究班会議において、医師国家試験レベルのOSCEの在り方を協議し、個別の実技は主に卒前臨床実習前のOSCEで課題とされるもので、医師国家試験レベルではcase-basedの課題とすることが合意され、班メンバーが分担して、各ステーションのcaseのシナリオ、課題、評価表、評価マニュアルからなる「Advanced OSCEの指針」を策定した。「Advanced OSCEの指針」の一部は、医学生や研修医の参加によるトライアルの結果を踏まえて作成したものである。
結果と考察
1)本邦の卒前教育における取り組み状況:全国80の大学医学部・医科大学にアンケート調査を行い70大学(回収率88%)から回答があった。①臨床実習開始前のOSCEは70大学のすべてで実施されていた。②臨床実習後OSCEを実施しているのは27大学(実施率41%)であった。まだ実施していないが、実施検討中の大学は17校で、1~2年以内に半数以上の医学部で臨床実習後のOSCEが実施されると期待される。
2)諸外国の状況:①カナダの医師国家試験はコンピュータのよる多肢選択試験とOSCEによる実技試験の2段階で行われている。a)病歴を聴取する能力、b)身体診察を実施する能力、c)患者のかかえる問題に対応する能力、d)コミュニケーションスキル の4点を評価するのがOSCEの目的とされている。1992年に導入され、現在は14ステーションを3時間かけて行っている。②アメリカの医師資格試験はステップ1~3で行われるが、ステップ2に臨床技能試験を導入する方針を採択し、模擬患者を対象とする実技(医療面接、身体診察など)を15分間、病歴・身体所見記録部分を10分間で構成するステーションを10か所としてトライアルを行っている。
1)医師国家試験レベルで期待されるOSCE(Advanced OSCE)の指針:①基本方針:現在、本邦の医学部の卒前教育で行われているOSCEでは個別の実技が課題とされているが、医師国家試験レベルのOSCEではcase-based の臨床実技を評価するものとした。a)ステーションの設定:ステーション時間を15分間とし、各ステーションに2~3課題を用意する。第1課題で模擬患者に医療面接を行い、第2課題で必要と判断される身体診察を模擬患者またはシミュレータに対して行う。第3課題では面接と診察で得られた情報を踏まえた診断や検査計画、治療計画を立案することを基本とする。b)課題:日常の診療でしばしば遭遇すると考えられるありふれた疾患や病態のcase(症例)を、卒前教育の臨床実習前のOSCEならびにクリニカル・クラークシップの臨床実習や2004年4月から必修化される卒後臨床研修において研修医に経験することが期待される症候、病態、疾患との整合性を図って設定する。外科系実技については個別の基本的手技を課題とすることもある。c)評価法:ステーションで課題の実技を評価者が評価する際に使用する評価表では、0・1の2段階評定を基本とし、必要に応じて0・1・2の3段階評定も用いる。さらに6段階で評定する課題全体としての概略評価も併せて行うこととした。評価の客観性を高めるための評価マニュアルも用意することが必要である。合否判定基準として一般に採用されている得点加算法以外の判定方法を検討することも必要である。②Advanced OSCE の課題・評価表・評価マニュアル:本研究班では上記の基本的な考え方を踏まえた具体的な課題を検討し、シナリオ、評価表、評価マニュアルを12ステーションについて例示した
「Advanced OSCEの指針」として本研究班が例示した12ステーションについてトライアルを実施し、それぞれのステーションの課題の実施可能性、医師国家試験レベルとしての課題の妥当性、評価の信頼性などを検証することが必要である。
研究班が主導する全国レベルのトライアルだけでなく、研究班が支援して、各大学ごとに臨床実習後のOSCE として「Advanced OSCE の指針」のステーションを活用し、検証に参画することが期待される。
医師国家試験改善検討委員会でOSCEを導入する方向性が決められているが、平成14年の全国医学部長病院長会議の調査において、医師国家試験にOSCEを「導入するべきである」とする大学は58校中30校(52%)、「検討を要する」が22校(38%)、「導入すべきでない」が3校(5%)と、大学関係者のOSCE導入に対する理解がやや不十分なところがうかがえるが、各大学で「Advanced OSCEの指針」を活用してOSCEを実施すれば、医師国家試験レベルのOSCEの概要が把握できて、理解が深まることも考えられる。
また卒前教育における臨床実習はクリニカル・クラークシップが望ましいといわれているが、「Advanced OSCEの指針」を活用したOSCEが普及すれば、卒前に修得すべき臨床能力を学習する臨床実習の在り方、進め方を構築する際の手がかりともなるであろう。
また卒後臨床研修において、「Advanced OSCEの指針」を参考に、研修医の採用時、研修のローテーションの節目の評価、研修修了時の評価などに活用することもできる。さらに各学会の専門・認定医の認定の際の実技評価にも「Advanced OSCEの指針」のステーション構成は参考になるものと考えられる。
医師国家試験としてOSCEを行う場合には、評価者の確保、会場の設定、SPの確保、備品の整備などの実際的な準備が必要であり、「Advanced OSCEの指針」によって、医師国家試験レベルのOSCEが枠組みが具体的になって、導入への対応、準備が加速することが期待される。
結論
「Advanced OSCEの指針」によって医師国家試験レベルのOSCEの枠組みが具体的示された。今後、トライアルを通じて、実施可能性、医師国家試験レベルとしての妥当性、評価の信頼性などを検証することが必要である。
トライアルを繰り返すことによって、医師国家試験のみならず、卒前医学教育の特に臨床実習や卒後臨床研修、さらに学会専門・認定医制度など、医学教育の各ステージのそれぞれ関わるすべての方々にとってOSCEへの認識と関心が深まり、OSCEが望ましい形で導入されて、臨床医学教育がより良いものとなることが期待される。

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