医学研究及び先端医療のパブリック・アクセプタンスの向上に関する研究(総合研究報告書)

文献情報

文献番号
200200103A
報告書区分
総括
研究課題名
医学研究及び先端医療のパブリック・アクセプタンスの向上に関する研究(総合研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
河原 和夫(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 信友浩一(九州大学)
  • 水谷修紀(東京医科歯科大学)
  • 中山健夫(京都大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先端医療及びその技術研究等は、世界的規模で日進月歩の勢いで進められている。従来、研究者や医療遂行者側は、研究等の遂行に当たり細々と単発的に各種指針を作成してきたが、ここに来て研究倫理・生命倫理等の問題とも絡み、大規模な指針等が系統的に作成され公表されるなど急速に整備されつつある。しかし、指針等があるにもかかわらず、それらが十分に専門家や国民に理解・受容されず、先端治療や研究が先行し国民の意識(認識)が置き去りにされるなど、その間に大きなギャップが生じる事態が短期間で生じることが懸念される。本研究は、このように「研究者・研究組織という集団の意思形成結果が、共同作業を求められつつも、理念や利害が対立する場面も想定される国民に、いかに広く受け入れられる形で伝播していくか。あるいは逆に、国民の認識や受け入れ態勢がいかに研究者側に還元されていくか。」という点について、その手法開発を行っていくことが目的である。
研究方法
先端医療技術研究に対する研究者も含めた国民全体のパブリック・アクセプタンスの向上を図るために解決すべき問題点の解明や向上のための方法等を以下の観点から研究した。
(1)まず、こうした先端医療技術議論の出発点である「遺伝子治療臨床研究に関する指針(案)」と「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(案)」の意見の集約方法及び寄せられたパブリックコメントの実情、及び広く研究者・国民のパブリックアクセプタンスを向上する問題についての分析を行った。
(2)原子力発電事業と都市計画事業の国民(住民)への情報提供や民意の集約方法の特徴を示しながら、これと対比する形で疫学や生命科学分野での同問題について分析した。
(3)専門科学技術の展開に関して、国民と専門職の間の不安、懸念事項についてのミスマッチがあることを指摘することにより、国民の立場に立った医学研究及び先端医療のパブリック・アクセプタンスの向上に必要な条件を分析した。
(4)真の当事者でもある患者に対する先端医療技術のパブリック・アクセプタンス向上について「日本白血病研究基金や英国白血病研究基金」の事例等を参考にしながら、先端医療技術等の啓発普及手法の開発に関する研究を行い、内外の白血病患者団体の形成過程がパブリック・アクセプタンスの向上に与える影響についての分析を行なった。
(5)疫学研究の倫理指針の策定過程を分析することにより、広く国民のパブリック・アクセプタンスを向上するために必要であるにもかかわらず、未だ解決されていない問題点などについての分析を、疫学研究指針作成の際に参考にされた過去の厚生科学研究班(玉腰班、丸山班)の研究報告等も参考にした分析をおこなった。同時に、浅井、長尾両研究協力者の協力のもと、活字情報データベースを用いた関連記事の分析を行うことにより、マスコミや国民のパブリック・アクセプタンスの現状についての分析も行なった。
結果と考察
(1)パブリック・アクセプタンスという用語が頻出する分野
活字情報データベースを用いて、1988年から2002年までに出版された記事を対象に、結論や論調、PA方法の提示などの分析を行なった結果、パブリック・アクセプタンスをキーワードにして1168件の記事が検索された。1989年301件、1990年201件をピークに記事数は徐々に減少していた。なお、一般紙は全38件の記事が検索された。記事のテーマのほとんどは原子力に関するもので、ほか遺伝子組み換えなどが取り上げられていた。論調は一般紙ではほとんどが中立、業界紙はほとんどが推進的であった。また、パブリック・アクセプタンスの手法については教育や対話、情報を共有するための情報センター、キャンペーン活動など、様々な手法が実施されていた。
(2)わが国のパブリック・コメントの特徴
パブリック・コメントとは、行政機関が政策の立案等を行おうとする際にその案を公表し、その案に対して広く国民・事業者等から意見や情報提出の機会を設け、行政機関は、提出された意見等を考慮して最終的な意思決定を行うものである。特に、国の行政機関が新たな規制を設けようとしたり、それまで行っていた規制の内容を改めたり、規制を廃止しようとする場合には、パブリック・コメントを募集する機会を設けなければならないことが閣議決定(平成11年3月23日)され、平成11年4月から実施されている。パブリック・コメントは、パブリック・アクセプタンスの入り口と位置付けられるものである。
本手続は、国民・事業者等の多様な意見・情報・専門知識を行政機関が把握するとともに、行政の意思決定過程における公正の確保と透明性の向上を図ることを目的としている。
本研究において、①「遺伝子治療臨床研究に関する指針(案)」と「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(案)」の作成にあたって寄せられたパブリック・コメントの実態について分析した結果、真の個人(国民)からの意見は少なく、民意の反映の方法に問題を残していた。
(3)原子力発電の広報活動
国策としての原子力発電事業は、関連学会も含めて情報公開や国民にいかに専門的知識を伝達していくかについて、少なくとも先端医療分野よりも進んだ取り組みがされていた。国民を含めて専門家に対する先端科学技術ガイドライン等の啓発・普及及び成果の社会への還元方法について、さらに検討を行っていく必要がある。
パブリックアクセプタンスを要する活動は、情報の発信者(研究者、事業者等)と受け手である国民の間の情報量の差が歴然として存在する。提供者(専門職)と受け手である国民との間の情報量の乖離ならびにその是正手段がうまく機能していないこ、これらを改善するために原子力発電事業を中心としてさまざまな取り組みが行なわれていることが本研究で明らかとなった。
結論
パブリック・アクセプタンス向上のための具体的手法としては、マスメディアの「情報代理人機能」の充実と提供者(専門職)に「情報スポークスマン的機能」を設定させることに尽きると考える。特に、科学部を中心とするマスメディアの専門知識・資質の向上は不可欠である。しかし将来的には、国民の側にも従来のパターナリズムの殻に閉じこもることなく積極的に専門領域に足を踏み入れていく必要がある。こうすることにより、活動の主体が「市民」の側に存在することになる。パブリックアクセプタンスの向上は、市民主体の活動の萌芽により初めて現実のものとなる。

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