バイオテロに使用される可能性の高い細菌の迅速診断法及び消毒法に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200100A
報告書区分
総括
研究課題名
バイオテロに使用される可能性の高い細菌の迅速診断法及び消毒法に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
山田 章雄(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 井ノ上逸朗(東京大学医科学研究所)
  • 渡邊治雄(国立感染症研究所)
  • 高木弘隆(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
炭疽菌、野兎病菌、ペスト菌は天然痘ウイルス、出血熱ウイルス、ボツリヌス毒素と並んでバイオテロに使用される可能性の最も危険度の高いカテゴリーAとされている。炭疽菌に関しては昨年度の科学振興調整費「炭疽菌等生物テロに使用される可能性のある病原体の検出法および滅菌法並びに疾病の治療法の実用化に関する緊急調査研究」でリアルタイムPCRの有用性が示されたが、他の細菌についても迅速検出法を確立しておくことは喫緊の課題である。また、リアルタイムPCRは極めて優れた方法といえるが、高価な機器を必要とすることなどから、普及が困難である可能性がある。そこで本研究では汎用性のある病原体検出法の確立も目指す。また、昨年度非病原性菌をモデルに方法論を確立したパイロシーケンシング法についても本研究で継続的に炭疽菌等の病原性菌で実用化をはかる。一方、炭疽菌は芽胞形成すると除染がきわめて困難だとされている。本研究では芽胞に対する有効な消毒法を予め検討しておくことも目的とした。
研究方法
野兎病のreal-timePCRは野兎病菌に共通なFopA遺伝子を検出できるようプライマー及びプローブを設計し、LichtCyclerを使用した。マルチプレックスPCRには炭疽、ブルセラ、ペスト、野兎病の各菌を検出できるようプライマー設計を行った。薬剤感受性試験はMIC法によった。消毒薬については精製炭疽菌芽胞を用い二酸化塩素、次亜塩素酸ナトリウム,過酢酸について検討した。DOP-PCRはdegenerate oligonucleotideをプライマーとした。
結果と考察
(1)高感度の迅速遺伝子検出法としてReal-time PCR法を用いて野兎病菌の共通遺伝子(FopA)の検出を行った。その結果、FopA遺伝子10コピーが検出可能で、反応開始後1時間以内の結果が判定でき、さらに今回検査した日本国内分離5株およびRussian Vaccine株でも抗原遺伝子を検出できたことより、野兎病の迅速診断法としては有用性が高いと判断された。(2)炭疽菌、ペスト菌、野兎病菌、ブルセラ属菌について、1反応チューブで同時に検出するためのプライマーの組み合わせおよび反応条件を検討した。炭疽菌ではBA813、ペスト菌および仮性結核菌では invと caf1、野兎病菌では TUL4、ブルセラ属菌では BCSP31をプライマーミックスとして用い、シャトル法にて反応させることで、比較的短時間で非特異的反応もなく各々の菌が特異的に検出できることが示された。(3)Rolling circle amplification(RCA)法による微量の炭疽菌検出を試みた。RCA 法によりサンプル DNA の増幅を行い、その後、炭疽菌特異的遺伝子を増幅・検出する方法を検討した。RCA の時に酵素付属のランダムヘキサマープライマーや PA および CAP 特異的プライマーを用いて、時間を増加させても、その後の PCR による検出では感度が増すことはなかった。このキットはすでにランダムヘキサマープライマーが酵素に混入しているので、目的の遺伝子のみ増幅させるのは困難であるように思われた。酵素のみ入手する方法を検討している。(4)炭疽菌では多型性に富んだ遺伝子マーカーが非常に少ないため遺伝子型別が困難とされているが、近年ゲノム遺伝子に変異の少ない病原性細菌の遺伝子型別を可能とするマーカーとしてゲノム遺伝子のVNTR多型性が報告されている。本研究ではvrrA遺伝子内のVNTR領域と病原性プラスミドpX01とpX02にあり株間の多型性に富む2種類のVNTR領域をPyrosequencing法により塩基配列決定し多型性解析を行った。その結果この方法により迅速に株鑑別が可能であることが明らかになった。(5)DOP-PCRで増幅した全ゲノムから特定の
病原体に特異的プライマーを用いたPCRで更に増幅した産物をPyrosequencing法で塩基配列決定した。この配列をブラストサーチにかけたところ予想される病原体であることを示す結果が得られた。(6)炭疽菌のシプロフロキサシン以外のニューキノロン系抗菌薬に対する薬剤感受性を検討した結果ノルフロキサシン、オフロキサシン、スパルフロキサシン、フレロキサシンではMICが0.5~2mg/mlと高い値を示す株が存在することが明らかになった。これらの株に感染した場合にニューキノロン剤が有効であるか検討する必要がある。(7)精製炭疽菌芽胞に対する過酢酸,次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素の消毒効果を比較検討したところ、過酢酸は0.05%~0.1%で10分、次亜塩素酸ナトリウムは1,000ppmで20分、活性化二酸化塩素は500ppm、10分作用させることにより、芽胞を不活化できることが明らかになった。
結論
バイオテロに使用される可能性が高いとされる炭疽菌、野兎病菌、ペスト菌などについて迅速検出法並びに炭疽菌についてはPyrosequencing法を用いた迅速な株鑑別法を確立した。また、ユニバーサルに使用できる病原体検出法として、DOP-PCRとPyrosequencing法を併用した方法を確立した。炭疽菌の薬剤感受性を検討した結果、MICの高いニューキノロン系薬剤が存在することを明らかにした。二酸化塩素並びに過酢酸が炭疽菌芽胞の消毒法に関して有効であることを明らかにした。

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