循環式浴槽システムにおける微生物管理手法に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200081A
報告書区分
総括
研究課題名
循環式浴槽システムにおける微生物管理手法に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
遠藤 卓郎(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 大井照(東京都板橋区保健所)
  • 古畑勝則(麻布大学 環境保健学部)
  • 杉山 寛治(静岡県環境衛生科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
入浴施設のレジオネラ防止対策については、現在、「新版レジオネラ症防止指針」に基づく環境衛生監視員による指導、パンフレットやマニュアルの配布により営業者に周知を図ってきたが、具体的な指導に際して必要となる情報が必ずしも準備されていない状況である。その中で、平成13年12月には浴槽等を清掃・消毒し、毎日完全換水したとされる銭湯でレジオネラ症の死亡事故が発生している。本研究では循環式浴槽の管理システムを確立することによって衛生面での安全性を確保しようと企画した。具体的には実証試験用の循環式浴槽を構築して問題点を再現するとともに、殺菌・洗浄方法、あるいは構造上の改良について実証試験を行った。また、掛け流し(溢水)式温泉浴槽水について、微生物汚染の実態調査と管理方法を検討した。
研究方法
本研究事業においては、実証試験用の循環式浴槽を構築して、継時的にレジオネラ等の循環式浴槽への定着、殺菌・洗浄方法の検討、塩素管理方法、紫外線による消毒効果、フィルターによる除去、過酸化水素洗浄、換水効果、配管材質に対するバイオフィルム付着等々の検討・解析を行った。また、掛け流し式浴槽水のレジオネラ汚染に関しては関東近県の掛け流し式の温泉設備を有する8施設の協力を得て、入浴施設の管理状況の調査と、実機でのレジオネラ、アメーバ及び従属栄養細菌の汚染状況を調査した。
結果と考察
新規の実証試験循環式浴槽に市水(水道水)を張り、42℃で稼動させた。継時的な微生物の検出により、アメーバは立ち上げ後7日目に10PFU未満/100mlであったものが、その後の3日間で103PFU/100ml程度まで上昇した。また、レジオネラ属菌は立ち上げ後8日目に10CFU未満/100mlであったものが、その後の7日間で104CFU/100mlに上昇した。実証試験循環式浴槽において、塩素を注入(0.3mg/L ~1.5mg/Lの範囲)しつつ、10日間にわたり本施設を延べ16名に利用させた後に塩素注入を中止して微生物の発生を継時的に観察したところ、残留塩素が枯渇した時点ですでに一般細菌が検出され、1日後にはほぼ上限(106CFU/100ml)に達した。宿主アメーバは2日目から、レジオネラは3日目から検出された。すなわち、塩素消毒(0.3 - 1.5ml/L)を行いつつ浴槽を使用しても系内には汚染が進行することが明らかとなった。微生物が定着した砂ろ過装置の出口側において残留塩素濃度を0.2~0.4ppmとなるように管理した場合、循環浴槽中に8,000CFU/100ml存在していたレジオネラ属菌は処理後に10CFU未満/100mlに激減し、240時間後まで10CFU未満を維持した。アメーバは22PFU/100ml検出されていたものが、塩素処理後には2未満~3PFU/100mlに間で減少し、240時間後まで維持された。一般細菌数は塩素処理により12,000CFU/mlから20CFU以下/mlにまで減少した。一方、人の入浴を含め有機物が混入することで浴槽水中の塩素濃度は急激に減少することが観察され、残留塩素濃度管理の困難さが明らかとなった。紫外線照射(波長253.7nm)によるレジオネラ(L. pneumophila SG1、およびL. bozmanni)の殺菌効果は照射量と直線関係が成立し、2mJ/cm2の照射条件で1-log10程度の増殖阻害、4mJ/cm2で2-logの阻害が認められた。また、蛍光灯下で2時間の照明により1-log 程度の光回復が観察された。実証試験循環式浴槽での紫外線照射実験では浴槽水のレジオネラ菌数を102CFU/100ml 程度以下に抑えることが可能であった。その一方で、ろ過槽内の菌数は104CFU/100mlに達することがあり、少なくとも浴槽水より10から100倍程度高い菌数で推移していた。砂ろ過装置の出口側にMF(ろ過精度0.45μm)を取り付け、M
Fの前後、及び循環浴槽中のレジオネラ属菌の挙動を検査したところ、104~105CFU/100mlオーダーのレジオネラ属菌がMF通過後に102~103CFU/100mlまで減少した。浴槽水中にはろ過開始時点で80,000CFU/100mlのレジオネラ属菌が存在していたが、連続通水期間中は103~104CFU/100mlオーダーで推移し、240時間後には25,000CFU/100ml検出された。アメーバはろ過前に4~40PFU/100ml存在していたものが2未満~9PFU/100mlとろ過による効果はあまり認められなかった。また、ろ過開始後150時間前後でMFの差圧が0.15MPa、240時間後で0.21MPaまで上昇し、MFの閉塞が示唆された。レジオネラ汚染が確認された実証試験循環式浴槽のろ過槽を、6%過酸化水素、あるいは 10 mg/L程度の塩素剤を用いて殺菌・洗浄効果を比較した。その結果、過酸化水素は高い殺菌効果が得られたが、塩素処理ではバイオフィルムの除去が不完全との結果が得られた。なお、過酸化水素による洗浄では洗浄後の過酸化水素の完全な除去(消費)が重要であることが明らかとなった。すなわち、残留した状態ではその後の塩素消毒が無効(中和される)となった。循環浴槽系では103CFU/100ml程度のレジオネラを含む浴槽水を換水した後に循環を開始したところ、2時間後ですでにほぼ同レベルの菌が検出され、ろ過槽等を汚染源として速やかに供給される実態が明らかとなった。10種類の異なる材質、すなわち鉄・銅・sus304・アルミニウム・抗菌剤含有のアクリル板・アクリル板・透明塩ビ(PVC)・塩ビ(PVC)・ライニング管(内面PPコーティング)・サニタリー配管(sus316L)の板を浴槽内に7日間浸漬し、1cm2当りに付着する菌数を求めた。その結果、レジオネラ属菌は銅に対する付着が最も少なく、1cm2当り15CFUと、他種材質に付着した菌数(102~103CFU/100ml)に比べて少ない事が確認された。次いで、塩ビ(PVC)及びサニタリー配管(sus316L)も菌数付着が比較的に少なかった(100CFU前後)。逆に、材質の表面が腐食を起こしていた鉄では1cm2当り2,300CFUのレジオネラ属菌が付着していた。掛け流し式温泉浴槽水(循環系および追い炊き機能をもたない浴槽で、1日あたりの溢水量が浴槽容量以上の浴槽水)では汚染の有無あるいは多寡は偏に換水回数とその際の洗浄等の管理状況に依存していたが、総じてレジオネラの汚染が低レベルで推移しており、推奨される方式と考えられた。
結論
実際の循環式浴槽と同様の挙動を示すモデルを、物理的封じ込めが出来る施設内に設置した。浴槽水中にレジオネラ属菌が存在する条件で、入浴者の感染を心配することなくレジオネラ属菌処理対策を検討した。今回の試験の結果、各種材質のうち、銅はバイオフィルム付着量が少ない結果となっており、銅表面のイオンが溶出する近傍での殺菌効果が示唆された。一方、鉄管のように酸化鉄の腐食生成物が嵩高く生じるものは、付着物に付随してバイオフィルムが多く定着する危険性があることが判明した。紫外線殺菌器は、13mJ/cm2の照射線量において装置出口でレジオネラ属菌を効果的に殺菌でき、今回の試験期間10日間では効果の低下も見られないことから、実用的に浴槽水のレジオネラ属菌等の殺菌に使用できる可能性が示された。但し、残留効果が無いことによる浴槽や壁面汚れの影響を受けることが示された。精密ろ過膜によるフィルター効果は、処理後の浴用水に対して残留効果が期待できないこと、容易に膜の閉塞(目詰り)が生じることなどから循環式浴槽水の衛生管理の手法として単独での使用は無効であった。塩素剤(次亜塩素酸ナトリウム)による殺菌処理は有効であり、浴槽水中の遊離残留塩素濃度を0.2~0.4mg/Lの範囲に維持することで、浴槽水中の浮遊性レジオネラ属菌を不検出の状態に維持できることが示された。遊離残留塩素濃度の測定は比較的簡便に測定できることから、浴槽水の衛生管理指標として有用と考えられた。今後の課題として、塩素剤の殺菌効果が低下するpHの高い水質での殺菌効果の評価及び、浴槽水中のレジオネラ属菌がVNC(viable but nonculturable)状態であるかどうかの評価が必要である。掛け流し式の浴槽では貯湯槽を含む衛生管理(定期的
な殺菌・洗浄)により比較的容易にレジオネラ属菌等の微生物対策が可能であることが示された。源泉の湧出量如何によって積極的に推奨できるシステムであると判断された。レジオネラ汚染がない掛け流し式施設の管理状況で共通している点は、源泉または貯湯槽が汚染されていないこと、浴槽の換水、清掃時に4ないし6%次亜塩素酸ナトリウムで殺菌洗浄していることなどであった。

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