原子爆弾の放射線に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200077A
報告書区分
総括
研究課題名
原子爆弾の放射線に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
平良 専純(放射線影響研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 児玉 和紀(放射線影響研究所)
  • 鈴木元(放射線影響研究所)
  • 藤田正一郎(放射線影響研究所)
  • 藤原佐枝子(放射線影響研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
この調査の目的は、1) 2002年に新しく構築された原子爆弾による放射線被ばく線量の評価システム(DS02)をまとめること、2)放影研から報告された論文をもとに原爆放射線とがんに関する最新の知見を検討すること、3)米国における被ばく訴訟を検討し、被ばく健康障害の損害回復の基準を調べることである。
研究方法
1)DS02に関して:DS86が決定されて以来、懸案の広島における中性子不一致問題を解決するために、日本の厚労省と米国エネルギー省の実務研究班が取り組んできた測定および計算について、特に、日本側の役割分担である測定を中心に、その結果を計算値との比較をも含めてまとめ、新しく構築されたDS02と従来のDS86を比較した。2)放影研における約12万人からなる寿命調査集団におけるがんと原爆放射線被ばくとの関連性の有無についての文献レビューし、最新の調査結果のまとめを行った。
3)米国の原爆開発に伴う健康被害訴訟記録を入手し、実際の訴訟において被ばく健康障害の認定基準あるいは損害回復の基準となった要点を抽出した。
(倫理面への配慮)本研究は基本的には、被ばく試料の測定および計算からの線量評価と、文献および米国の公開されている訴訟記録の検討であり、倫理的問題はない。
結果と考察
研究結果=1) DS02に関して:DS86からDS02への大きな変更は、計算の基礎となるパラメータとしての広島における爆弾の出力を15ktから16ktに、爆発高度を580mから600mに修正したことである。この修正に基づいて計算したDS02はDS86に比べると格段に精密な計算となっているものの、特に、空気中線量全般に関して大幅な変更はない。日・米・独によるガンマ線(熱ルミネッセンス)および中性子(放射化による残留放射能)に関する測定値は、爆心地から少なくとも1.2kmの地点までは、DS02の計算値と全般的に極めて良く一致している。爆心地から1.2-1.5km以遠での中性子の測定値と計算値の相違については、線量の絶対値が小さくバックグランドとの区別が困難なことなど測定値の不確実性によるものと判断されている。今後、空気中線量に関する結果を被ばく者各人に適用した臓器線量の計算が行なわれる予定である。
2)LSSにおける発生率調査ならびに死亡率調査で放射線被ばくの影響が認められたがん(悪性腫瘍)は、胃がん、結腸がん、肺がん、乳がん、膀胱がん、および白血病など、発生率調査で影響が認められたものには、肝臓がん、皮膚がん、甲状腺がん、卵巣がんなどがあげられた。病理学的検討では神経系腫瘍であるシュワン腫の発生に放射線被ばくとの関連が示された。食道がんと多発性骨髄腫は死亡率調査においてのみ、放射線被ばくとの関連が見られた。
3)米国における放射線障害訴訟における原因決定の法的基準を確立したと称されているALLEN訴訟では、被ばくの認定に当たり、以下の要件が必要とされた。要件とは、①被ばく線量が防護基準を超していることが証明できること、②放射線被ばくに起因する障害の存在(障害の種類に関してはBEIR-III報告書に準拠)。もし、通常放射線により誘発されない障害であるなら損害回復はない。③障害の発生が通常認められている潜伏期間中に発生していること、④過剰リスクモデルあるいは相対リスクモデルに基づく当該被ばく線量における発がんリスクの程度とバックグランドの発がんリスクおよび他の発がん物質(タバコなど)への暴露時の発がんリスクを算定し、⑤次に、被ばくが原因らしいか否かを検定する。放射線以外の原因による発がん確率が、放射線が原因である発がん確率より高い場合は、損害回復はなされない。
結論
本研究は、1)2002年に新しく構築された原爆放射線線量の評価システム(Dosimetry System 2002,DS02)をまとめ、2)原爆放射線とがんの関連について最近の知見を整理するとともに、3)海外の放射線被ばく事故・災害における訴訟の文献調査を行った。
1) DS86が決定されて以来、懸案であった中性子線量に関する理論値と測定値の不一致に関して、日米独の研究者があらゆる方向で計算と測定の方法に改善を加えながら研究を続けてきた結果、新しい線量の評価システム(DS02)が作成された。DS86からDS02への大きな変更は、広島における爆弾出力および爆発高度の修正であったが、その修正にもとづいて計算しても、空気中線量全般に関して大幅な変更はなかった。今後、今回得られた空気中線量を被爆者ひとりひとりに適用した臓器線量の計算を行なう予定である。
2)放射線影響研究所の寿命調査集団におけるがん罹患ならびに死亡に関する最新の報告をレビューした。胃がん、結腸がん、肺がん、乳がん、膀胱がん、白血病などは、発生率ならびに死亡率調査で放射線被ばくの影響が認められたが、発生率調査のみ、あるいは死亡調査のみで影響が認められたがんもあり、解釈には慎重を期す必要がある。今後、新しいDS02を使用して、更なる研究の進展が必要である。
3)米国の被ばく訴訟6件の裁判で使われた法令・規則、および参考文献を検討した。ALLEN訴訟の過程において、現在の米国の裁判所の判断基準が確立された。すなわち、①被ばく線量が防護基準を超していることが立証できること、②放射線被ばくにより誘発されやすい障害であること、③潜伏期間が妥当であること、④被ばく線量による発がん寄与リスク算定およびバックグランドにおける発がんリスクの算定、さらに他の発がん物質への暴露時による発がん寄与リスクを算定し、⑤被ばくの寄与リスクがすべてのリスクの総和の50%を超す場合に被ばくが原因らしいと判断される。

公開日・更新日

公開日
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