生薬規格の国際調和に関する研究事業

文献情報

文献番号
200200076A
報告書区分
総括
研究課題名
生薬規格の国際調和に関する研究事業
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
合田 幸広(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 関田節子(国立医薬品食品衛生研究所筑波薬用植物栽培試験場)
  • 川原信夫(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 渕野裕之(国立医薬品食品衛生研究所筑波薬用植物栽培試験場)
  • 酒井英二(岐阜薬科大学附属薬用植物園)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Western Pacific Regional Forum for the Harmonization of Herbal Medicines (FHH)は、西太平洋地区の5カ国6地域(日本、中国、韓国、ベトナム、シンガポール、香港)のregulatory authorities と the relevant research institutionsの関係者により2002年の3月に設立されたフォーラムで、生薬の安全性、有効性、品質に関連した試験法等の技術的な問題について話合い、関係者にとって有用なtechnical documentsとconsensusを得ることを目的とする。本研究は、このFHHの活動に日本として対応、参加し(主催を含む)、国際調和を目的として、名称、品質規格、試験法、栽培基準(GAP)等の比較を行い、資料並びに具体案の作成等を行う。FHH は、各国の生薬規制の関係者が参加するフォーラムであるため、その活動を支援する本研究により、FHH参加国に対し、日本の生薬の規格について積極的に発信できることになる。さらにFHHから、西洋に対し積極的に漢字文化圏の生薬規格を発信することが可能となる。
研究方法
結果と考察
Nomenclature and Standardizationに関するFHH Sub-C Meetingの主催:平成14年5月21日から、24日に国立医薬品食品衛生研究所、会議室で開催された。参加者は、5カ国6地域、1国際機関からの33名(オブザーバー1名)で、別に厚生労働省、医政局研究開発振興課及び医薬局審査管理課の担当官に一部傍聴頂いた。本会議では、お互いの局方について比較を行い、局方間の類似点と差違について、各国が良く認識する必要が議論され、そのためのExpert working group (EWG) を設立することが了承された。さらに平成14年度の活動として、①各国の局方中に収載されている生薬の、名称と基原植物の比較、②各国の局方中の生薬のモノグラフ中の分析方法の比較、③各国の局方中の生薬及び、生薬分析に関する分析標準品のリスト化、④各国の局方中のvalidationされた生薬分析法のリスト化、⑤生薬の一般試験法に関する情報集積(局方収載、未収載を問わず)に関する5つのEWGが設立されることになり、各EWGの責任者と、各国のcontact personが決定された。各国の生薬の其原植物に関する研究:日本薬局方(JP)と中華人民共和国薬典(CP)に、韓国薬局方(KP)、ベトナム薬局方(VP)を加えた4ヶ国の局方について、収載される植物由来生薬を、基原植物にもとづいて書き出し比較表を作成した。JPでは植物由来の生薬は、183品目あり基原植物としては256種が収載されていた。CPでは植物由来の生薬は、450品目あり基原植物としては624種が収載されていた。VPでは植物由来の生薬は、244品目あり基原植物としては314種が収載されていた。KPでは植物由来の生薬は、136品目あり基原植物としては160種が収載されていた。4局共通に含まれていた基原植物は56種で、生薬としては52品目になる。また、範囲を3局共通に広げると、104品目の生薬が該当したため、この104品目を共通生薬として選定した。生薬の表記方法には、生薬ラテン名と生薬英名と母国語が使用されているが、国際規格としては生薬ラテン名と生薬英名が必要になる。今回、生薬ラテン名について比較を行ったところ、CPとVPでは使用部位+基原植物の順で記載されていたのに対し、JPとKPでは記載順序が逆になっていることが明らかになった。従って、生薬規格の国際調和としては、まず名称の規則作りが示唆された。また、基原植物が同じでも使用部位や加工方法が異なっていたり、別の名称で同属植物が記載されているものもあり、生薬の誤使用防止のために類似生薬リストの構築も必要と考えられた。各国の生薬規格の比較及び標準化合物に関する研究:日本、中国、韓国、ベトナムの4カ国の生薬に関する試験法並びに規格値を精査し、共通生薬(約100種)の比較表をもとに各国の確認試験、純度試験、乾燥減量、灰分、酸不溶性灰分、エキス含量及び定量法(精油含量を含む)の各項目について試験法の設定の有無、試験方法、規格値について比較表を作成した。また、JP、KP、VPについて、各試験法で用いられる化学標準品及び基準薬用植物について、その化合物名、純度、機器分析値、TLCデーター、入手先、使用目的、適用、参考文献についてまとめた(CPに関しては、いまだ返答がなく、現段階ではまとめることが不可能であった)。4カ国共通生薬約50種に関して試験法の比較を行ったところ、確認試験、純度試験、灰分の3項目についてはすべての国においてほぼ設定がなされており、特にTLC法を用いた確認試験が普及していることが明らかとなった。一方、乾燥減量、酸不溶性灰分、エキス含量等は設定されていない国が多かった。今回の検討の結果、VPとCP、JPとKPとの間にはそれぞれ共通点が多く認められた。これは局方作成に当り、VPはCPを、KPはJPをそれぞれ参考にして作成されているためと推測された。また定量法に関してKP及びJPはHPLCを用いた試験法が設定されているのに対し、CP及びVPでは吸光度法や滴定法を用いた試験法も多く設定されており、今後の調和へ向けたテーマとなりうるものと考えられた。生薬の品質規格と情報伝達に関する研究:本研究では、まず生薬の品質規格に資するため、局方中に生薬サイシン中のアリストロキア酸Iの純度試験を
新規設定するための検討を行った。アリストロキア酸は、生薬として用いられるウマノスズクサ科の植物に含有されている成分で、腎障害を引き起こすことが疑われている。また発がん性があるとの報告もある。従って、アリストロキア酸の分析法は、生薬を利用する各国で共通の課題となっている。さらに、トウガシについても、局方中の確認試験法についての検討を行った。トウガシは、日本をはじめ、韓国や中国でも用いられている生薬である。日本薬局方外生薬規格に収載されており、韓国薬局方にも収載されているがいずれにもその確認試験法に関する記載がない。そこで薄層クロマトグラフィー法による確認試験法を確立し、本生薬における品質規格を各国に提唱するべく検討を行った。さらに、本生薬中に含まれる指標物質となりうる化合物を探索し、確認試験法を検討した。また、FHHでのEWGに課せられた課題として、生薬の一般試験法に関する情報集積(局方収載、未収載を問わず)があり、本研究班では、一般試験法の比較のための情報提供を行った。各国の生薬の栽培規準に関する研究:薬用植物資源の栽培化の推進に伴い、WHOから薬用植物の栽培基準(Good Agricultural Practice:GAP)のガイドライン作成の提案がなされ、現在、そのDraftが提示されている。FHH参加国でも、中国、韓国はGAPの作成を行っている。日本版GAPとしては、厚生科学研究費「薬用植物実態調査、栽培品質評価指針作成等の事業」及び「薬用植物栽培・品質評価指針作成に関する研究事業」をもとに作成された「薬用植物栽培と品質評価」10冊が、そのままそれぞれの薬用植物の各論にあたるものと考えており、本研究において、一部の生薬について、その英語版作成をスタートした。また、GAP基準に合致するモデル栽培場として、ホッカイトウキの栽培地域の特定を行った。さらに、総論の原案を作成し、ソウルで開催されたFHH Sub-C meeting で各国に提示を行った。
結論
FHHの活動について平成14年度に日本として対応することを主目的として本研究を遂行した。FHHは、単年度で終了するものではなく、今後、継続されるフォーラムである。平成14年12月27日に医薬局審査管理課長通知で出された「今後の日本薬局方のあり方」においても、国際調和の推進が上げられ、その中に、本フォーラムへの支援が述べられている。また、世界各国で、ハーブを中心にHerbal materialの医療への積極的利用が行われつつある現在、諸外国で天然薬物に関する規格が唐突に出現する傾向がみられる。西洋ハーブと漢方で利用される日本の生薬には、規格のあり方と使用法に大きな違いがある。従って、我々はFHH 等を利用して、西洋に対し積極的に漢字文化圏の生薬の規格について、さらにFHH参加国に対しては、日本の生薬の規格について発信する必要がある。そのためにも、本研究の発展的継続が望まれるものである。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-