わが国における臨床研究の基盤整備に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200075A
報告書区分
総括
研究課題名
わが国における臨床研究の基盤整備に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
岡本 悦司(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
目下「臨床研究の基本指針」の作成が厚生科学審議会において進められており、その基礎資料とするとともに、わが国臨床研究の動向を国内外に情報提供することを目的に、主要臨床研究機関を対象に各種倫理委員会において承認された臨床研究のテーマ、対象疾患、研究の形態等を調査し把握する。わが国では医療機関、大学等において活発な臨床研究が実施されているが、薬事法にもとづく臨床試験等を除いてその実態は統一的には把握されておらず、インターネット上での情報提供も全ての機関に普及していないのが実情である。またEBM(根拠に基づく医療)実践のためには学術雑誌に掲載された研究内容を検索するだけでは公表バイアス(有効な結果は発表されるが無効な結果は公表されない)は避けられず、あらゆる臨床研究を偏りなく把握するためには研究開始時点で着手された研究の内容をレジストリ(目録)化することが必要とされる。そこでわが国における臨床研究の実態を統一的に把握しレジストリ化する初の試みとして本研究は企画された。本研究によって得られた結果はインターネット[jmedicine.com]上でも公表し、世界のEBM研究者らの利用に供する。そのため最終的にできあがるウェブサイトのホームページは英文で作製した。
研究方法
本調査にあたって一つの困難は、臨床研究を実施している医療機関の把握の困難さであった。薬事法に基づく治験は、GCPによる基準が定められているが、本調査が対象とするそれ意外の臨床研究については施設基準も登録制もなく、確実な把握は不可能に近い。そこで対象のカバー率をあげるため2つのアプローチをとった。ひとつは大学病院、臨床研修指定病院およびGCP適合病院リストより1456病院を抽出し、院長あてに調査票を郵送した。もうひとつは本調査のための専用サイトを設けてサーチエンジン等に登録し、気付いた医療機関からの自主的な報告を促すというものであった。調査票の作製にあたっては、診療ガイドラインに詳しい長谷川友紀東邦大学助教授および臨床試験とGCPに詳しい小野俊介金沢大学助教授ら研究協力者のアドバイスを受け、記入者の負担を極力少なくするため調査項目を精選した。基本的な方針としては、各機関の倫理審査委員会担当者が手元の承認結果のリストからそのまま転記できる内容とし、いちいち各研究者に問合わせなくてもいいように配慮した。また研究テーマや対象疾患の報告書やウェブサイト上での公表の可否をたずねた。調査対象は原則として薬事法に基づく臨床試験以外の臨床研究としたが、小規模病院等で両者を区別していないところもあることを考慮し、まぎらわしい場合は一括して記入してもらった。調査項目は、医療機関の基本情報(名称、所在地、電話・FAX番号、記入者名とEメールアドレス、ウェブサイトがあればURL)に加えて、個々の研究ごとの承認年(原則として2001年以降承認分とし、それ以前の分については任意)、研究テーマ、対象疾患、費用負担そして研究形態である。公表の可否は、1)全回答の報告書およびインターネットへの掲載に同意、2)報告書への掲載のみ同意し、インターネットには同意しない、3)医療機関名および件数については同意するが個々の研究テーマの公表は同意しない、4)匿名での集計のみ同意し、機関名や研究テーマの公表には同意しない、5)その他、であった。2003年2月初にウェブサイトをたちあげ、調査票を料金受取人払いの返信用封筒と共に郵送した。提出期限は2月末としたが、最終的には3月20日の料金受取人払の有効期限である3月20日到着分までを集計対象とした。
結果と考察
1456病院に対し調査票を郵送し、334通の調査票の回答を得た(うちEメールによる回答は25通)。郵送した調査票のうち配
達不能で返送されたもの10通あった。また医療機関によっては医局単位で調査票をコピーして記入したところや、ウェブサイトの調査票(Excelファイル)に記入してEメールで返送してきたものもあったので、正確な回収率の算定はできないが、かりに334通を1446でわると23%であった。334通の調査票のうち220通の調査票(204機関)で3645件の臨床研究が実施されていた。【費用負担・研究形態別分析】3645件の研究を費用負担、研究形態別の割合をみた。費用負担では自主研究の割合が最も多く30.3%を占め、企業委託20.8%を上回った。 国等の公的助成を受けた研究は件数では17.5%であった。研究形態別では、いずれにも分類されない「その他」が39.9%で最も多く、ついで薬事法による臨床試験22.8%、 ゲノム・遺伝子解析12.2%、疫学研究7.8%と続いた。【図1-2】いずれの分析でも、無回答や不明が回答全体の4分の1近くを占めた。【機関別分析】回答のあったうち報告書での機関名公表に同意したのは139機関のベ2859件あり、うち2555件で研究形態が記載されていた。【テキストマイニング】本研究で分析が困難だったのは研究テーマと対象疾病である。いずれも自由記載なので、記載法が統一されていないからである。そこで、研究形態ごとに研究テーマと対象疾病についてテキストマイニングの手法を用いて分析した。分析にあたっては奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科自然言語処理学講座(松本研究室)が提供する「日本語形態素解析システム茶筅(ChaSen)」を使用した。【公表の可否】機関情報や研究テーマに関する公表の可否を調査票別ならびに研究テーマ別に示した。概して件数の多い機関ほど意思統一の難しさのためか公表に消極的な傾向がみられる。調査票単位では55.5%が報告書への掲載に同意したが、研究テーマ件数では45.7%と半数以下であった。また掲載に同意した医療機関についても薬事法に基づく臨床試験は、委託企業との契約で守秘義務が定められているものが多いこと、また既に国において把握されていることから本研究の対象にする必要はないとの判断から掲載から除外した。機関名のみならず、研究テーマについても報告書への掲載に同意した1051件を報告書にリストとして収録した。
結論
わが国がEBMにおいて世界に貢献してゆくためには、2つの条件が必要となる。ひとつは臨床研究を実施するための制度的裏付けである倫理指針であり、もうひとつは全国の臨床研究を着手段階で把握するレジストリである。臨床研究指針については厚生科学審議会において熱心な討議が行なわれ、2003年3月のパブリックコメントを経て近く公示される見込みである。もうひとつの臨床研究レジストリについては、2002年4月に発足した国立保健医療科学院において技術評価部が設置され、その中の研究動向分析室が「保健医療福祉に関する政策及び研究動向の分析及びこれらに関する調査研究」を所掌することにより体制が整えられた。今回の調査は、発足した研究動向分析室の業務としてわが国初の本格的な臨床研究レジストリの作製を目的として実施された。国もEBM推進策の一環として学会等による診療ガイドラインの作製を支援している。診療ガイドライン作製のため不可欠であるメタ分析のためには学術雑誌を検索するだけでなく、未発表の成果も含め、幅広く臨床研究の事例を収集することが必要であり、研究者そうした未発表資料収集の足掛かりを得るためにもレジストリの存在は重要となる。このような調査事業は経常的に継続し、全国の医療機関や研究機関の倫理審査委員会が新しい臨床研究を承認するごとにEメール等の電子媒体で届出て登録してゆくことが重要であり、本研究においては紙媒体の報告書だけでなくインターネット上にホームページも設置し、継続的な情報収集を行ってゆく(http://jmedicine.com)。末尾ながら今回の調査に御協力いただいた関係機関各位に深く感謝するとともに、今後の調査事業の継続のためいっそうの支援を期待したい。

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