文献情報
文献番号
200200074A
報告書区分
総括
研究課題名
歯科医師の救命救急研修ガイドライン策定に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
前川 剛志(山口大学)
研究分担者(所属機関)
- 小林国男(帝京大学)
- 石原 晋(県立広島病院)
- 花岡一雄(東京大学)
- 金子 譲(東京歯科大学)
- 行岡哲男(東京医科大学)
- 堀 進悟(慶應義塾大学)
- 小村 健(東京医科歯科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
歯科医師は日常診療において患者が急変した場合やハイリスク患者に対して、救命救急処置を含む緊急対応が必須である。高齢者の人口比率が高くなるに伴って、中枢神経系、循環器系疾患の有病者や在宅介護による寝たきり患者等ハイリスクの患者に対して歯科治療を行うことも多くなり、また通常の診療でもショックや心肺停止がおこることもある。このような緊急事態を回避し、より安全な歯科医療を国民に提供するためには、歯科医師がこの分野の臨床研修を受ける必要性がある。これまで意欲ある歯科医師は医科医師との合議の下に、医師側医療機関の善意の協力を得て臨床研修を実施し、緊急事態に対処すべく努力してきた。これらの行為は歯科医療の安全性確保のためではあったが、法的な裏付けがなく容認されてきた。
本研究では歯科領域の日常診療における緊急事態を把握し、歯科における救命救急の卒前、卒後教育の現状や救命救急研修の実態を調査した上で、法的に整合性のとれた救命救急研修ガイドラインを策定して、より安全な歯科医療提供の基盤作りに寄与することを目的とする。
本研究では歯科領域の日常診療における緊急事態を把握し、歯科における救命救急の卒前、卒後教育の現状や救命救急研修の実態を調査した上で、法的に整合性のとれた救命救急研修ガイドラインを策定して、より安全な歯科医療提供の基盤作りに寄与することを目的とする。
研究方法
実態調査内容
1.歯科大学、大学歯学部における卒前の救命救急に関する教育の実態調査
2.日本口腔外科学会研修指定機関における卒後の救命救急に関する教育・研修の実態調査
3.都道府県歯科医師会における生涯研修としての救命救急研修の実態調査
4.救命救急センター等における歯科医師の救急臨床研修の実態調査
5.歯科医師の救急医療・研修内容の検討(歯科診療中に発生した救急患者の検討、歯科医師を対象とする教育プログラム、二次救命処置研修、歯科医師の救急部門研修)
6.院外診療所発生の救命救急医療における歯科症例の分析
1.歯科大学、大学歯学部における卒前の救命救急に関する教育の実態調査
2.日本口腔外科学会研修指定機関における卒後の救命救急に関する教育・研修の実態調査
3.都道府県歯科医師会における生涯研修としての救命救急研修の実態調査
4.救命救急センター等における歯科医師の救急臨床研修の実態調査
5.歯科医師の救急医療・研修内容の検討(歯科診療中に発生した救急患者の検討、歯科医師を対象とする教育プログラム、二次救命処置研修、歯科医師の救急部門研修)
6.院外診療所発生の救命救急医療における歯科症例の分析
結果と考察
1.歯科大学、大学歯学部における卒前の救命救急に関する教育の実態調査:歯科医師の卒前教育は救命救急に関して平均で14時間、回答のあった全ての大学で実施されていた。内容は歯科医療における全身的な偶発症と心肺蘇生法であり、講義と実習が行われていた。講義の内容はバイタルサインの評価、モニタリング、救急薬品に関するものであった。一次救命処置のみでは講義は35%、実習は39%の大学で行われ、二次救命処置まで含めると講義は100%で、実習は97%で行われていて、実習を行っていない大学が4%あった。これらの卒前教育は主に歯科麻酔学講座が担当していた。
2.日本口腔外科学会研修指定機関における卒後の救命救急に関する教育・研修の実態調査:日本口腔外科学会指定の研修機関では89%で歯科・口腔外科、歯科麻酔科で研修が実施され、それ以外にも50%の機関では医科に研修を依頼して実施されていた。歯科における救命救急の卒後教育は受講者の60%が歯科大学卒業後1年以内に研修を受け、期間は3ヶ月未満で実習の割合は低かった。医科における研修は歯科卒業後2-5年目が多く、期間は半数以上が3ヶ月間以上、12ヶ月間を超えるものもあり、ほとんどが実習か実習を伴うものであった。院内、院外の他科卒後研修目的と意義に関しては、アンケートを日本口腔外科学会研修指定機関に対して行ったこともあり、全身管理・周術期管理能力の習得、救急対応能力の習得、専門科・専門医の指導享受、全身麻酔の知識・技術の習得の順に高いが、院内、院外の救急部、救命救急センター、麻酔・蘇生科での研修に限るとこれらは救急対応能力の習得、専門科・専門医の指導享受で約80%を占めていた。
3.都道府県歯科医師会における生涯研修としての救命救急研修の実態調査:歯科医師会における調査では各都道府県で年平均1.6回、救命救急に関する生涯教育を実施し、平均50人/回の参加者を得ている。研修方法は講義と実習で、内容は歯科診療時の全身的な偶発症と心肺蘇生法に関するものが多かった。一般歯科診療を行っている歯科医師が救命救急研修を必要かつ有意義であるとする理由として、偶発事故への対応、高齢化社会への対応、増加する有病者への対応、全身管理知識の順に高く、これらに対応するために定期的学習・反復学習の重要性をあげていた。
4.救命救急センター等における歯科医師の救急臨床研修の実態調査:各施設が歯科医師の研修を受け入れる要件として、歯科医師免許取得後1~3年が最も多く、他科の研修を必ずしも必要としないが、医科または歯科麻酔科、歯科・口腔外科の研修後が望ましいとする施設がそれぞれ27%あり、期間はそれぞれ3ヶ月以内、1年以上が最も多かった。歯科医師派遣元は77%が歯科・口腔外科であった。医科救急部門における研修期間は3ヶ月以内が41%、3~12ヶ月が45%であり、1施設あたりの年間受け入れ人数は平均3人であった。受け入れ施設として、医学部附属病院救急部、救命救急センター、日本救急医学会認定医指定施設などがあった。
研修方法はa:指導医の監督下に自ら、b:指導医の補助のもとに実施、c:指導医が行うのを介助、d:見学のみ、として4者選択でアンケートの回答を得た。
バイタルサインの取得、頭頸部診察、胸部診察、腹部診察、四肢診察、神経学的診察:aが60%以上、aとbを合わせると70~80%以上となり、モニター装着もaのみで80%以上であり、患者に侵襲の加わらないものについては歯科医師自ら実施する傾向が見られた。超音波診断はその特殊性もあり、aとbで40%強であった。
気道確保に関しては用手的、経口、経鼻エアウェイはaが80%弱で、a、b合わせると90%近くになった.気管挿管はaが50%の施設で、a、b合わせて約80%の施設で実施されていた。気管切開、経皮的気管切開、緊急気管穿刺など侵襲性の高いものは、a,b合わせても50%以下であった。バッグ・バルブ・マスク、麻酔器・マスク、気管挿管下用手による基本的な人工呼吸はaが約70%、a,b合わせて約80%の施設で実施されていたが、人工呼吸器の接続・設定についてはaが40%に満たず、a,bで60%強であった。
心臓マッサージはaが80%であった。開胸心臓マッサージはc,d,無回答で80%を超え、aはなかった。ていた。除細動は通常の除細動器によるもの、同期除細動、自動除細動器(AED)によるもの、それぞれでaが40%、0%、40%で、aとbを合わせると、約70%、45%、50%であった。ペースメーカー使用についてはaが経皮的は約20%で、経静脈的はなかった。
末梢静脈路の確保はaが80%以上であったが、内頸静脈、鎖骨下静脈、大腿静脈からの中心静脈路確保はaが約40%、a,bで約70%となった。緊急を要するが侵襲度のより強い胸腔穿刺、胸腔ドレナージの実施率は低く、心嚢ドレナージでaとしたものはなかった。
動脈血採血、観血的動脈圧測定はaではそれぞれ約70%と60%であったが、a,bと合わせると約80%であった。肺動脈カテーテル挿入は侵襲的かつ特殊なもののため、aでは約20%、a,b合わせても40%であった。導尿はa,bで約80%であった。
二次救命処置、緊急時に使用する薬剤および、医薬品全般に関してaが約40%であり、a,b合わせて70~80%であった。緊急輸液はaが約60%、a,bで約80%であり、輸血、経腸栄養はそれぞれaが約20%、a,bで50~60%であった。創処置、骨折の副子固定はaが40~50%、a,bでそれぞれ約80%と約45%であった。胃洗浄はaが約40%、a,bで約70%であり、処置に関して創処置以外自ら行うものは少なかった。
指示簿、処方箋、診療録の記載はaが30~40%の施設で、a,bでは約60%であった。説明と同意文書作成に関しては、cとdで約半数を占めたが、aも約20%あった。死亡診断書と死体検案書およびその他の診断書の作成はa,bで20%に満たなかった。
標準化プログラムの履修は、一次救命処置は全施設で必須とされていた。二次救命処置は必須が14施設、望ましいが8施設、小児二次救命処置も必須が8施設、望ましいが14施設で、全施設で望ましい以上の必要性があるとしていた。
市立札幌病院救命救急センターにおける歯科医師研修につき、医師法違反の疑いで関係者が起訴(平成14年2月)された前後の変化は、この報道前では18施設(82%)が歯科医師研修を受け入れていたが、報道後には12施設(54%)と減少した。今後も受け入れるとした施設は13施設(59%)であり、不明とした施設が7施設(32%)であった。また、ほとんどの研修項目はa,bが減少し、c,dが増加して歯科医師が自ら実施研修できない方向となり、特に侵襲性の高い項目でこの傾向が顕著であった。
5.歯科医師の救急医療・研修内容の検討(歯科診療中に発生した救急患者の検討、歯科医師を対象とする教育プログラム、二次救命処置研修、歯科医師の救急部門研修)
歯科診療中に発生した救急患者の検討では、特別な救急対応が必要な事例の発生頻度は文献的に0.004~0.007%とされ、偶発症の大半は歯科麻酔に伴う血管迷走神経性反応による失神などの軽症例で、歯科医師自らの対処で対応できている。これは、歯科医師側からの報告で少し古いものではあったが、全国規模の調査であり、重症例も少ないとは言えず、死亡例も昭和60年から平成7年までの11年間に24例が報告されている。その大半は、歯科麻酔に関連して発症した急性心不全、脳血管障害、アナフィラキシーショックなどが疑われていた。
6.院外診療所発生の救命救急医療における歯科症例の分析:福島県立医科大学麻酔科学教室が中心となり、福島県の県北地域を対象に、1978年4月より院外医科および歯科診療所で発生した救命救急症例に対して、救命救急医療対応体制が取られている。2003年1月までの24年9ヶ月の間に180症例に対応し、歯科関連症例は35例で19%を占めていた。歯科症例のうち、1例が死亡している。
歯科救命救急症例の1988年1月以後(21例)では詳細な検討が行われ、浸潤麻酔後が13例(62%)で女性が12例と大部分を占め、その内訳はショック3例、気分不快3例、胸内苦悶2例、頭痛、痙攣、呼吸困難、チアノーゼ、動悸が各々1例であった。浸潤麻酔後以外では低血糖2例、一過性脳虚血発作、めまい、抜歯後出血、抜歯後疼痛が各々1例、義歯誤嚥が2例であった。歯科救急症例は局所麻酔薬や血管収縮薬に関連するものが多く、医科のものに比べて軽症が多かったが、死亡例は皆無ではなかった。
局所麻酔薬や血管収縮薬使用時、高齢者や有病者の診療時、偶発症の早期発見、早期対応、応援要請の判断に簡便なモニターが有用で、モニター使用の検討を薦めている。
また、開業歯科医院で救急時に必要な薬剤としてエピネフリンと亜硝酸薬(ニトログリセリン)をあげているが、後者は狭心症発作時にのみ、舌下投与やテープ剤を貼付し、緊急避難用として使用が許され、非常に有効としている。今後、他の緊急時使用薬剤についても検討する必要がある。
2.日本口腔外科学会研修指定機関における卒後の救命救急に関する教育・研修の実態調査:日本口腔外科学会指定の研修機関では89%で歯科・口腔外科、歯科麻酔科で研修が実施され、それ以外にも50%の機関では医科に研修を依頼して実施されていた。歯科における救命救急の卒後教育は受講者の60%が歯科大学卒業後1年以内に研修を受け、期間は3ヶ月未満で実習の割合は低かった。医科における研修は歯科卒業後2-5年目が多く、期間は半数以上が3ヶ月間以上、12ヶ月間を超えるものもあり、ほとんどが実習か実習を伴うものであった。院内、院外の他科卒後研修目的と意義に関しては、アンケートを日本口腔外科学会研修指定機関に対して行ったこともあり、全身管理・周術期管理能力の習得、救急対応能力の習得、専門科・専門医の指導享受、全身麻酔の知識・技術の習得の順に高いが、院内、院外の救急部、救命救急センター、麻酔・蘇生科での研修に限るとこれらは救急対応能力の習得、専門科・専門医の指導享受で約80%を占めていた。
3.都道府県歯科医師会における生涯研修としての救命救急研修の実態調査:歯科医師会における調査では各都道府県で年平均1.6回、救命救急に関する生涯教育を実施し、平均50人/回の参加者を得ている。研修方法は講義と実習で、内容は歯科診療時の全身的な偶発症と心肺蘇生法に関するものが多かった。一般歯科診療を行っている歯科医師が救命救急研修を必要かつ有意義であるとする理由として、偶発事故への対応、高齢化社会への対応、増加する有病者への対応、全身管理知識の順に高く、これらに対応するために定期的学習・反復学習の重要性をあげていた。
4.救命救急センター等における歯科医師の救急臨床研修の実態調査:各施設が歯科医師の研修を受け入れる要件として、歯科医師免許取得後1~3年が最も多く、他科の研修を必ずしも必要としないが、医科または歯科麻酔科、歯科・口腔外科の研修後が望ましいとする施設がそれぞれ27%あり、期間はそれぞれ3ヶ月以内、1年以上が最も多かった。歯科医師派遣元は77%が歯科・口腔外科であった。医科救急部門における研修期間は3ヶ月以内が41%、3~12ヶ月が45%であり、1施設あたりの年間受け入れ人数は平均3人であった。受け入れ施設として、医学部附属病院救急部、救命救急センター、日本救急医学会認定医指定施設などがあった。
研修方法はa:指導医の監督下に自ら、b:指導医の補助のもとに実施、c:指導医が行うのを介助、d:見学のみ、として4者選択でアンケートの回答を得た。
バイタルサインの取得、頭頸部診察、胸部診察、腹部診察、四肢診察、神経学的診察:aが60%以上、aとbを合わせると70~80%以上となり、モニター装着もaのみで80%以上であり、患者に侵襲の加わらないものについては歯科医師自ら実施する傾向が見られた。超音波診断はその特殊性もあり、aとbで40%強であった。
気道確保に関しては用手的、経口、経鼻エアウェイはaが80%弱で、a、b合わせると90%近くになった.気管挿管はaが50%の施設で、a、b合わせて約80%の施設で実施されていた。気管切開、経皮的気管切開、緊急気管穿刺など侵襲性の高いものは、a,b合わせても50%以下であった。バッグ・バルブ・マスク、麻酔器・マスク、気管挿管下用手による基本的な人工呼吸はaが約70%、a,b合わせて約80%の施設で実施されていたが、人工呼吸器の接続・設定についてはaが40%に満たず、a,bで60%強であった。
心臓マッサージはaが80%であった。開胸心臓マッサージはc,d,無回答で80%を超え、aはなかった。ていた。除細動は通常の除細動器によるもの、同期除細動、自動除細動器(AED)によるもの、それぞれでaが40%、0%、40%で、aとbを合わせると、約70%、45%、50%であった。ペースメーカー使用についてはaが経皮的は約20%で、経静脈的はなかった。
末梢静脈路の確保はaが80%以上であったが、内頸静脈、鎖骨下静脈、大腿静脈からの中心静脈路確保はaが約40%、a,bで約70%となった。緊急を要するが侵襲度のより強い胸腔穿刺、胸腔ドレナージの実施率は低く、心嚢ドレナージでaとしたものはなかった。
動脈血採血、観血的動脈圧測定はaではそれぞれ約70%と60%であったが、a,bと合わせると約80%であった。肺動脈カテーテル挿入は侵襲的かつ特殊なもののため、aでは約20%、a,b合わせても40%であった。導尿はa,bで約80%であった。
二次救命処置、緊急時に使用する薬剤および、医薬品全般に関してaが約40%であり、a,b合わせて70~80%であった。緊急輸液はaが約60%、a,bで約80%であり、輸血、経腸栄養はそれぞれaが約20%、a,bで50~60%であった。創処置、骨折の副子固定はaが40~50%、a,bでそれぞれ約80%と約45%であった。胃洗浄はaが約40%、a,bで約70%であり、処置に関して創処置以外自ら行うものは少なかった。
指示簿、処方箋、診療録の記載はaが30~40%の施設で、a,bでは約60%であった。説明と同意文書作成に関しては、cとdで約半数を占めたが、aも約20%あった。死亡診断書と死体検案書およびその他の診断書の作成はa,bで20%に満たなかった。
標準化プログラムの履修は、一次救命処置は全施設で必須とされていた。二次救命処置は必須が14施設、望ましいが8施設、小児二次救命処置も必須が8施設、望ましいが14施設で、全施設で望ましい以上の必要性があるとしていた。
市立札幌病院救命救急センターにおける歯科医師研修につき、医師法違反の疑いで関係者が起訴(平成14年2月)された前後の変化は、この報道前では18施設(82%)が歯科医師研修を受け入れていたが、報道後には12施設(54%)と減少した。今後も受け入れるとした施設は13施設(59%)であり、不明とした施設が7施設(32%)であった。また、ほとんどの研修項目はa,bが減少し、c,dが増加して歯科医師が自ら実施研修できない方向となり、特に侵襲性の高い項目でこの傾向が顕著であった。
5.歯科医師の救急医療・研修内容の検討(歯科診療中に発生した救急患者の検討、歯科医師を対象とする教育プログラム、二次救命処置研修、歯科医師の救急部門研修)
歯科診療中に発生した救急患者の検討では、特別な救急対応が必要な事例の発生頻度は文献的に0.004~0.007%とされ、偶発症の大半は歯科麻酔に伴う血管迷走神経性反応による失神などの軽症例で、歯科医師自らの対処で対応できている。これは、歯科医師側からの報告で少し古いものではあったが、全国規模の調査であり、重症例も少ないとは言えず、死亡例も昭和60年から平成7年までの11年間に24例が報告されている。その大半は、歯科麻酔に関連して発症した急性心不全、脳血管障害、アナフィラキシーショックなどが疑われていた。
6.院外診療所発生の救命救急医療における歯科症例の分析:福島県立医科大学麻酔科学教室が中心となり、福島県の県北地域を対象に、1978年4月より院外医科および歯科診療所で発生した救命救急症例に対して、救命救急医療対応体制が取られている。2003年1月までの24年9ヶ月の間に180症例に対応し、歯科関連症例は35例で19%を占めていた。歯科症例のうち、1例が死亡している。
歯科救命救急症例の1988年1月以後(21例)では詳細な検討が行われ、浸潤麻酔後が13例(62%)で女性が12例と大部分を占め、その内訳はショック3例、気分不快3例、胸内苦悶2例、頭痛、痙攣、呼吸困難、チアノーゼ、動悸が各々1例であった。浸潤麻酔後以外では低血糖2例、一過性脳虚血発作、めまい、抜歯後出血、抜歯後疼痛が各々1例、義歯誤嚥が2例であった。歯科救急症例は局所麻酔薬や血管収縮薬に関連するものが多く、医科のものに比べて軽症が多かったが、死亡例は皆無ではなかった。
局所麻酔薬や血管収縮薬使用時、高齢者や有病者の診療時、偶発症の早期発見、早期対応、応援要請の判断に簡便なモニターが有用で、モニター使用の検討を薦めている。
また、開業歯科医院で救急時に必要な薬剤としてエピネフリンと亜硝酸薬(ニトログリセリン)をあげているが、後者は狭心症発作時にのみ、舌下投与やテープ剤を貼付し、緊急避難用として使用が許され、非常に有効としている。今後、他の緊急時使用薬剤についても検討する必要がある。
結論
歯科医療の安全性および質の向上を図るために、歯科医師の救命救急研修は重要であり、確実に実施できれば歯科医療において国民の損するところを減じ、益するところを増大しうる。研修といえども診療行為を伴う場合には、法令を遵守しながら適切に実施する必要がある。特に歯科および歯科口腔外科疾患以外の患者に対する行為では、慎重な取り扱いを期すべきである。本ガイドライン(案)はこのような観点から、歯科医師の救命救急研修の在り方に関する基準、特に医科救命救急部門における研修の在り方に焦点を当てた基準を定めるものであり、二段階方式とした。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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