医療機関における室内空気質に関する実態調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200072A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機関における室内空気質に関する実態調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
松村 年郎(財団法人 東京顕微鏡院立川研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 池田耕一(国立保健医療科学院)
  • 山崎省ニ(国立保健医療科学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
11,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
室内空気汚染問題(いわゆるシックハウス症候群)については、国民の関心が高く、住宅等を対象としてこれまでに様々な調査研究や対策が実施されてきている。一方、医療機関については、清掃や消毒、医療処置に起因するものなど、一般建築物とは異なる特殊な揮発性有機化合物(VOC)の発生源が存在するものの、室内空気質の実態はほとんど把握されていない。今回の研究で医療機関における室内空気質の実態を把握することにより、医療機関特有の室内空気汚染の問題点の検証が可能となり、こうした成果の積み重ねにより、医療機関においてより良好な室内空気が提供されれば、医療の質の更なる向上を図ることができる。今回の調査研究では、室内空気質の実態を医学的・建築学的な視点から総合的に検討することを目的とした。
研究方法
本調査研究は、医療機関におけるホルムアルデヒドや揮発性有機化合物の室内空気中濃度を測定し、室内空気質の実態把握を目的として実施された。調査は、全国の国立病院と労災病院のうち20の医療施設で外来・病棟・検査・管理・集中治療・供給の各部門毎に揮発性有機化合物と一酸化炭素、二酸化炭素、浮遊粉塵、室内温度・湿度の実態を把握した。このうち7施設では病室・外来・集中治療室で、給気口から供給される空気と室内の空気中での浮遊微生物と浮遊粉塵を調査し、病院室内における微生物汚染の実態を明らかにした。また、1つの施設では透析室・内視鏡検査室・病理検査室の24時間のホルムアルデヒド・VOCの時間変動の調査を行い、24時間の揮発性有機化合物の濃度変動を調査した。病院職員を対象にした健康に関するアンケートをあわせて行い、建物環境が人に及ぼしている影響について検討を行った。
倫理面への配慮
実測調査に際しては協力病院の意向を十分に尊重し、十分な説明と同意が関係各所で得られてから実施を行った。調査実施の際は、医療従事者および患者に必要に応じ、調査の主旨説明を行い、同意を得た上で行った。また、調査実施に当たっては病院関係者、医療従事者、患者に迷惑がかからないように調査手順などには細心の注意と配慮を行った。
結果と考察
医療施設20施設の屋内375ヶ所で揮発性有機化合物濃度調査を行った。ホルムアルデヒド、トルエン、エチルベンゼン、アセトアルデヒド、m-,p-キシレンは、90%以上の測定ポイントで定量下限値以上であったが、そのうちホルムアルデヒドとキシレンについては、室内濃度指針値を超えていた箇所が確認され、そのほとんどが「病理検査室」であった。グルタルアルデヒドについては、38室(約10%)で定量され、「内視鏡室」は6室含まれていた。なお、「病理検査室」ではホルムアルデヒド、アセトン、n-ブチル、m-,p-キシレン、o-キシレン、クロロフォルム、d-リモネン、スチレン、エチルベンゼンなどが他の部屋と比べて濃度が高い傾向にあった。
モニタリングした温度・湿度が建築物衛生管理法基準内であったのは約33%であり、屋内は乾燥していた。
一酸化炭素濃度基準10ppmは、3回(設置時・中間時・回収時)のいずれも超えた部屋はなかった。二酸化炭素濃度の基準1000ppmでは、設置時で約6.5%(測定365室中24室)、中間時で約4.3%(測定348室中15室)、回収時で約4.6%(測定367室中17室)で超えていた。二酸化炭素濃度の基準1000ppmでは、設置時で約6.5%(測定365室中24室)、中間時で約4.3%(測定348室中15室)、回収時で約4.6%(測定367室中17室)で超えていた。このうち、3回とも1000ppmを超えていた部屋が3室、2回超えていたところは9室であった。
アンケート調査で、業務中に感じる不快なニオイや強いニオイについてのたずねたところ、部門別で回答内容に特徴が見られた。「病棟」では排泄介助、オムツ交換、嘔吐物処理などの時に不快と感じるとの意見が多く、「検査課」では切り出し、病理標本作成時(キシレンなどにおい)など、「中材・手術室」では消毒薬を使用しているとき(消毒薬の臭い)や手術後のかたづけ(血液臭)、「薬局」では調剤時(特に錠剤粉砕時)に不快と感じるとの傾向が見られた。また、このうち7つの医療施設では、病室・外来待合・集中治療室の微生物粒子を中心とした室内環境の調査も行った。調査した結果、空調設備が備えていないA病院内の浮遊微生物粒子数は他の病院に比べ、総じて高い値を示した。また、B~G病院の全測定対象室における測定結果から、浮遊総菌数と黄色ブドウ球菌数の間に有意な相関関係が認められ、総菌数中に黄色ブドウ球菌が30%程度を占めていたことが判明した。
また、病理検査室における24時間ホルムアルデヒドのモニタリング結果より、医療行為による揮発性有機化合物の汚染発生は非定常的であり、設計換気回数を確保する等の対応が必要である。
結論
医療機関は、医療という目的を達成するための建築物であり、建築構造や建築設備、必要な維持管理の手法が一般建築物とは大きく異なっている。例えば、消毒、病理標本作製など医療行為に必要不可欠な様々な薬剤が使用されており、一般建築物とは異なる特殊な揮発性有機化合物の発生源が存在する。従って、一般建築物を対象として定められた維持管理基準を医療機関に直接適用することは困難であるかも知れない。
いずれにしても、本研究により医療機関の空気質の実態が明らかとなり、今後、医療機関における空気環境の維持管理の在り方を検討するに当たり、不可欠な資料を提供することができる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-