地理情報システムを用いた地域人口動態の規定要因に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200071A
報告書区分
総括
研究課題名
地理情報システムを用いた地域人口動態の規定要因に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
小口 高(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 西岡八郎(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 江崎雄治(専修大学)
  • 小池司朗(国立社会保障・人口問題研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
2,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は地理情報システム(Geographic Information Systems: GIS)を用いて、わが国における人口動態とその変動の規定要因を解明することにあるが、平成14年度においては、以下の3点の個別課題を設定した。(1)都心とその周辺における過去20年間のメッシュ人口変動を観察することにより、近年の都心回帰の原因となっている主たる年齢層を特定する。さらに将来的にメッシュ単位の小地域人口推計を行うことを視野に入れ、各メッシュの自然増加、社会増加を推計し、その変動を分析する。(2)人口の都心回帰については、流入人口の年齢や前住地等についてなお不明瞭な点が多い。郊外において子育てを終えた熟年層が多く都心に移り住んでいるなどとする報告もあることから、郊外の一部地域において人口流出がみられるという仮説のもと、小田急線沿線地域を例に年齢別人口の変化について分析を行い、あわせてコーホート変化率法により、距離帯別の人口推計を行った。(3)都道府県あるいは市町村単位程度の地域スケールにおいて死亡率と気象条件の関係を分析することを目的として、GISソフトウェア等において利用が可能となるような気象観測データのデータベース開発を行った。ここでは地域気象観測システム(Automated Meteorological Data Acquisition System; AMeDAS)のデータを利用することとし、1976~2001年における全国約1,300ヶ所の観測データについてより利便性の高いデータベースを整備すべく、プログラムの開発を行った。
研究方法
年度前半においては、研究事業初年度および次年度における分析結果の吟味、分析手法の再検討等を行った。また、必要に応じて関連する既存研究についての文献の読み合わせを行い、今年度における研究の展開のための議論を行った。年度後半においては上記課題に関する具体的な分析作業を行った。メッシュデータをGISソフトウェア上で利用するにあたっては、必要となる集計項目、分析対象範囲に即してデータを整理、再編成する必要があるが、上記(1)および(2)においては分析対象地域が主として東京大都市圏であり利用するデータセットの一部が共通であるため、まずは必要とするデータセットの整理、再編成を行った上で、(1)(2)それぞれの分析作業へと移行した。一方で上記(3)については当面使用するデータがAMeDASの気象観測データであり、また分析範囲が全国に及ぶことから、上記(1)-(2)と平行してデータベース整備作業を行った。
結果と考察
(1)分析の結果、1995~2000年における都心の人口増加は、主に20~30歳代の純移動率の上昇によるところが大きいことがわかった。また、この期間の都心の人口増加はもっぱら社会増加によるものであり、自然増加は都心に近いほど小さく、さらに各距離帯とも年次とともに一律に漸減する傾向に変化がないことが確かめられた。また鉄道沿線別に社会増加率をみると、都心から北東方向と西南方向で異なっており、北東側が西南側に追随して変化しているようにも見受けられる。(2)小田急沿線の距離帯別人口変化から、1995~2000年においては都心付近で人口増加となっている一方、40km以遠では人口減少となっているメッシュが目立った。この期間の5歳階級別コーホート変化を観察すると、都心付近では20,30歳代の増加が大きい一方で、中高年の増減はほとんど見られないことがわかった。またこれと対応するように40km以遠では「25~29歳→30~34歳」および「30~34歳→35~39歳」の階級において比較的大きな減少を記録したメッシュが目立ち、一方でやはり中高年層には大きな変化が見られなかった。ここから郊外
の第2世代が都心回帰の担い手となっている様子が推測される。(3)例えば各都道府県の死亡発生データとその時の気象条件を示すデータとの対応関係を瞬時に知ることができるようにするために、以下のような仕様のデータベースの開発を目指すこととした。1)最初にすべてのAMeDASデータをメモリ上に読み込み、専用プログラムで必要なデータのみを高速に抽出できること。2)Windowsパソコンに2~4GB程度のメモリ増設を行うことで利用可能となること。3)DDL形式などの専用のプログラムを用意することにより、Microsoft Excelからこのプログラムを操作して必要なデータだけを高速に抽出できること。
結論
GISを用いた人口分析、とりわけメッシュデータを用いて地域人口動態の規定要因を探る研究は今後大いに発展が期待される分野であり、最終年度である平成14年度における分析作業においても、多くの知見を得ることができた。とくに人口の都心回帰現象については、これまでマスコミ等において「郊外で子育てを終えた熟年層が都心の高層マンション等に転居している」といった報告がみられたことから、中高年が都心回帰の主たる担い手であるかのような理解がなされることがあったが、本研究における分析の結果、都心の人口増加を支えているのは20,30歳代の転入超過であることが示され、一方で中高年層の寄与はほとんどみられないことがわかった。また、都心における人口増加が注目される一方で比較的取り上げられることの少なかった郊外の人口変化についても分析したところ、大都市圏周縁部においては都心回帰を担っているのと同じ20,30歳代の減少が目立ち始めており、ここから郊外第2世代が都心の人口増加の担い手となっている様子が推測される。また、こうした一方で親世代の年齢層には大きな人口変化がないことが確かめられた。このような「若年層の流出、親世代の居住継続」といった図式が続けば、大都市圏周縁部においては今後急速かつ大幅な人口高齢化の到来が不可避となると考えられる。

公開日・更新日

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