診療報酬政策における医療の費用とパフォーマンスをケースミックス分類に基づき評価する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200064A
報告書区分
総括
研究課題名
診療報酬政策における医療の費用とパフォーマンスをケースミックス分類に基づき評価する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
今中 雄一(京都大学大学院医学研究科 医療経済学分野 教授)
研究分担者(所属機関)
  • 石崎達郎(京都大学大学院医学研究科 医療経済学分野 助教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
10,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
診療報酬制度・医療資源配分政策や病院マネージメントを効果的に推進するには、重症度を補正・層別化したうえでの臨床的パフォーマンスの測定が鍵となると同時に、医療の原価の推計も重要な鍵となる。その際、ケースミックス分類(日本の診断群分類に相当)の活用も重要である。本研究目的は、ケースミックス分類を活用し、日常的・継続的に、より妥当な臨床的パフォーマンスと医療の原価を測定するしくみを開発していくこと、さらに、医療の質や効率性の影響要因を解析していくことにある。
研究方法
【Ⅰ.臨床パフォーマンスの測定】既に収集した30万件のデータを用いて、医療のプロセス、アウトカムの側面から、臨床パフォーマンスの測定、解析を行った。本研究における対象疾患は、外科系疾患として白内障(眼内レンズ挿入術)、胆石症(胆嚢切除術)、肺癌(肺切除術)、大腸・直腸癌(結腸切除術、直腸切除術)、くも膜下出血(クリッピング)、乳癌(乳房切除術・乳房温存術)を、そして内科系疾患として虚血性心疾患(急性心筋梗塞・狭心症)、気管支喘息、肺炎、慢性閉塞性肺疾患、消化管出血、慢性腎不全、TIAを除く脳血管疾患である。臨床パフォーマンスとして、院内死亡率、手術施行件数、入院期間、入院医療費、手術時間、等を調べ、重症度補正やリスク階層化を行いながら、施設間比較を行い、ばらつきの要因についても検討した。【Ⅱ.医療の原価の測定】患者別原価計算のフレームワークを理論上構築した。構築の際のポイントは、以下の3点である。1)できうる限り直課する。費消のデータが得られない場合には材料等の同定に診療報酬明細書内のデータも活用する。2)活動量によって配賦する必要のあるサービス原価に関しては、出来るだけ細かい部署を設定し、サービス区分ごとの原価を把握する。3)病院会計準則に則した勘定科目毎と、サービス区分毎の2次元のコンポーネントに関して原価の算出を行う。このフレームワークに基づいて原価を測定すべく、具体的なシナリオに基づく小規模な仮想病院をコンピュータ上に構築し、原価測定方法の検証を行った。
結果と考察
【Ⅰ.臨床パフォーマンスの測定】 臨床的パフォーマンスの測定においては、前述のように多疾患で多指標の解析を行った。くも膜下出血の例では、10施設(総症例数975件)における死亡率は平均35.1%(26.4~50.0%)であり、クリッピング術施行530例における死亡率は平均16.6%で、病院ごとの死亡率は6.9~33.3%と大きなばらつきが認められた。手術施行割合が低く件数も少なく死亡率も高い2施設以外では、手術施行件数と死亡率は一定の関係を見ず、手術施行割合とは死亡率とはやや負に相関する傾向が見られた。また、4年間5施設の乳癌手術患者614例で乳房温存手術の施行割合をみると、各病院とも年々増加傾向にあるが、9.1%から50.0%に大きくばらつき、新しい技術の普及に差のあることが示唆された。その他のケースミックス分類での記述統計例を特に死亡率を中心に示す。白内障の眼内レンズ挿入術では、6施設2097例の中で2施設では症例の0.3~0.4%で死亡が認められた。胆石症の胆嚢切除術では、10施設925例における院内死亡率は開腹による胆嚢切除では0~5.9%であった。腹腔鏡下胆嚢切除術施行例のあった9施設1732例では、1施設のみで687件中1例のみ死亡例が認められた。虚血性心疾患については、CABG施行例8施設1162件では死亡率4.5%(病院ごと0~8.5%)、PTCA施行例9施設1402件では死亡率2.4%(病院ごと0~7.1%)、そしてステント施行例7施設758件では死亡率2.6%(病院ごと0~3.4%)となっていた。ま
た、年間CABG施行件数の多い施設では死亡率が低い傾向にあることがうかがわれた。気管支喘息(16歳以上)の10施設7473例における入院死亡率は0.4%で病院ごとの死亡率は0~1.2%、肺炎の10施設における死亡率は、16~64歳の患者212例で5.2%(病院ごと0~19.1%)、65歳以上の患者745例では31.9%(病院ごと0~51.9%)。となっていた。慢性閉塞性肺疾患では、10施設2051例における死亡率は14.5%(病院ごと7.6~17.5%)であった。これらの領域では施設間比較を妥当なものとするために重症度関連情報を追加していく必要がある。CABGならびにPTCAの院内死亡率については、患者の年齢、重要副病名の併存症、手術の緊急性などを考慮したリスク階層に分けると、施設間格差はより大きくなる傾向にあった。次年度には、リスクや重症度による補正や階層化をさらに進め、ばらつきの要因について詳細な検討を行っていく。【Ⅱ.医療の原価の測定】架空のシナリオに基づく小規模な仮想病院をコンピュータ上に構築した。このシナリオの中では、個々の入院患者について様々な状態と診療行為を設定し、他の必要なデータとして、タイムスタディー結果を伴った個々の医療従事者の人件費や20以上の部署、数十種類の材料や数百に及ぶ医療行為(臨床検査、画像検査、手術、リハビリテーション等)とそれらの費用を設定した。仮想病院でのシミュレーション実施段階を通じ、当初作成した患者別原価計算のフレームワークに対する根本的な変更は特に発生しなかった。その過程で、細部の定義や仕様の明確化を行うことができた。また、最終的には、勘定科目毎と部署(サービス)毎の2次元のコンポーネントに対して、設定された期間内(一ヶ月間)の患者別原価が算出された。原価計算方法適用のシミュレーションの結果が得られた上で、病院の協力を得て実地に適用し、患者個別の原価を勘定科目内訳で算出するべく情報システム構築に適用した。その結果、病院の実地で患者個別の原価を勘定科目内訳で算出するに至り、解析の情報基盤の確立に至った。【考察】病院の診療パフォーマンスの評価指標に関する研究は国際的にこの数年で急速に進んでいる。ケースミックス分類はその鍵を担うものであり、米、英、豪など複数の国々で制度上でも用いられている。国内においても関連しうる研究はなされているが、本研究の特色は、以下の如くである。 (A)国際標準との整合性を保ち、我が国の現状(症例データの格納および情報インフラ)に根差して、ケースミックス分類に基づき「日常的に」管理指標と診療のコストとパフォーマンスを指標化する標準的システムを開発する点である。 (B)ケースミックス分類の利点としては、一般の臨床研究とは異なり、あまねく病院で利用されている共通データセットに基づき、各診療領域にわたりコストとパフォーマンス指標を得られる点である。標準方法の確立に向けてさらなる研究を進める。急速に進む情報技術の発展と医療関連情報の標準化の動きを取り入れて、これらの測定並びにデータベースのしくみをシステム化し、日常的に評価指標が得られる段階まで開発を進めていくものである。 (C)さらに独創的な点として、多軸的な重症度関連情報に基づき重症度を補正して施設間比較の妥当性を高める。本年度の研究ではその具体例として、さまざまな外科系・内科系疾患ごとに入院死亡率や手術施行割合などを病院間で比較した。その結果、病院ごとで死亡率や手術施行割合の大きなばらつきが認められ、手術適用率や件数などいくつかの関連要因が示唆された。 これまでの研究成果を適用する際に社会的な状況と適用方法を十分に配慮することにより、以下の社会的貢献が期待される。 (1)各医療機関での診療の質および効率の内部評価や改善活動に資する。 (2)第三者による病院機能評価・認定事業への活用も考えられる。 (3)多施設の評価指標をもって参照データベースを構築し、医療者への公開により一層の質評価・改善活動を促進しうる。 (4)診療のパフォーマンスと支払との関係を再構築する上で支払者が活用しうる。 (5)指標の妥当性を高め公開手法を検討した上で、医療のパフォーマ
ンスや原価の一般への情報公開に活用しうる。 (6)「原価」と「パフォーマンス」にもとづく診療報酬制度の実現化に活用しうる。 (7)上記の潜在的な利用方法を通じ、社会における医療の質と効率性の向上のための情報基盤および推進力として資する。
結論
『臨床的なパフォーマンスの評価』においては、アウトカムの視点として、外科系・内科系のさまざまな疾患に対する入院治療における死亡率などの指標を病院間で比較することによって、病院間に死亡率のばらつきがあることを示した。同時にプロセスの視点では、乳癌の手術における乳房温存術の導入割合が施設により大きく異なることを示した。一部で重症度指標を考慮した解析を行い、今後、重症度・リスクを考慮したより妥当なパフォーマンス指標化をさらに進める基盤をつくることができた。
『医療の原価の測定』においては、患者別の原価を正確に測定する方法論を理論的に開発した。多くの研究者や開発者から理想的ではあるものの実施は不可能と言われたが、以下の手法により課題をクリアし原価測定の実施に至ることができた。シナリオを伴う仮想病院をコンピュータ内に構築し、その仮想病院を用いて患者別の勘定科目別の原価を測定し、原価計算のモデルの妥当性を検証した。その上で、病院の実地に適用し、勘定科目の内訳つきの患者個別の原価を算出するに至り、医療原価の解析のための情報基盤の確立に至った。

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