医療における政策評価の国際比較に関する調査研究

文献情報

文献番号
200200063A
報告書区分
総括
研究課題名
医療における政策評価の国際比較に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
野口 正人(株式会社UFJ総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 田極春美(株式会社UFJ総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
3,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成13年1月より、我が国の中央府省庁においては、政策評価の実施が義務付けられることとなった。厚生労働省においても、既に基本的な政策評価の枠組みが示されており、医療分野についても、実際に政策評価を行うことが義務付けられている。しかしながら、我が国に限らず、他の諸先進国についてみても、医療分野における政策を評価するための、基本的な概念枠組み、評価手法、評価結果の政策への反映の枠組みについては、未だ議論の多い領域として検討されているものである。アメリカにおいても、連邦政府の政策評価を体系的に取組むため1993年にGPRA(Government Performance and Results Act:政府業績結果法)を発効させ、既に1999年より政策評価活動が実施されているが、医療分野における政策を評価するために必要とされるデータの整備等の課題を含めて、多くの問題を残していると報告されていることがわかる。こうした背景から、アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリス(いわゆるNPM(New Public Management:新公的経営管理)の考え方に基づいたアングロサクソン諸国)を取り上げ、特に医療分野において、行政機関(我が国では厚生労働省)、政府全体における政策評価の実施機関(我が国では総務省)、そして最高検査機関(Supreme Audit Institutions(SAI):)等での政策評価の取組み状況を調査の対象とした。調査対象国での、これらの機関における政策評価の実態を把握した上で、その概念枠組み、評価手法、評価結果の活用の仕組み等を国際的な視点から比較分析することを本調査研究の趣旨としており、医療分野における政策評価の諸先進国での取組み状況を把握した上で、今後の我が国において政策評価を実施・推進していくための基礎的な資料整備を図ることを目的としている。中央省庁等改革基本法第4条及び第29条において客観的な政策評価機能の強化、評価結果の反映が規定されており、中央省庁における政策評価の具体的なあり方、評価結果の反映等の方法について検討を進めている。このような背景の下において、諸先進国における医療分野での政策評価の実態を把握し、その概念的枠組み、評価手法、評価結果の活用の仕組み等を国際的に比較分析することは、今後の我が国厚生労働行政の医療分野における政策評価を実施していく上での基礎資料整備としての価値があるものと考えられる。このような視点から、本調査研究事業では、アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリスの四か国を調査対象として、医療分野における政策評価の実態を把握した。
研究方法
本調査研究では、基本的な文書の入手については、インターネットを通じた所在情報検索、一般書籍による文献検索を通じて行った。あわせて、オーストラリア及びイギリスにおいて、医療政策担当省庁、会計検査院、その他へのインタビュー調査の実施を通じて、当該分野における政策評価の実態と問題点を明らかにした。
結果と考察
既に平成13年1月より、我が国の中央府省庁においては、政策評価の実施が義務付けられることとなった。厚生労働省においても、既に基本的な政策評価の枠組みが示されており、医療分野についても、実際に政策評価を行うことが義務付けられている。しかしながら、他の諸先進国についてみた場合、医療分野における政策を評価するための、基本的な概念枠組み、評価手法、評価結果の政策への反映の枠組みについては、未だ議論の多い領域として検討されているものである。アメリカにおいても、連邦政府の政策評価を体系的に取組むため1993年にGPRA(Government Performance and Results Act:政府業績結果法)を発効させ、既に1999年より政策評価活動が実施されているが、医療分野における
政策を評価するために必要とされるデータの整備等の課題を含めて、多くの問題を残していると報告されていることがわかる。このような背景から、アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリス(いわゆるNPM(New Public Management:新公的経営管理)の考え方に基づく先進国)を取り上げ、特に医療分野において、行政機関(我が国では厚生労働省)、政府全体における政策評価の実施機関(我が国では総務省)、そして最高検査機関(Supreme Audit Institutions(SAI):我が国では会計検査院)等での政策評価の取組み状況を調査の対象とした。調査対象国のこれらの機関での政策評価の実態を把握した上で、その概念枠組み、評価手法、評価結果の活用の仕組み等を国際的な視点から比較分析することを本調査研究の趣旨としており、医療分野における政策評価の諸先進国での取組み状況を把握した上で、今後の我が国において政策評価を実施・推進していくための基礎的な資料整備を図ることを目的としている。中央省庁等改革基本法第4条及び第29条において客観的な政策評価機能の強化、評価結果の反映が規定されており、中央省庁における政策評価の具体的なあり方、評価結果の反映等の方法について検討を進めている。当事業では、諸先進国における医療分野での政策評価の実態を把握し、その概念的枠組み、評価手法、評価結果の活用の仕組み等を国際的に比較分析することは、今後の我が国厚生労働行政の医療分野における政策評価を実施していく上での基礎資料整備としての価値があるものと考えられる。研究事業一年目に実施したアメリカ合衆国及びカナダでの医療分野の政策評価の実態把握を経て、二年目として、オーストラリア及びイギリスを調査対象とし、医療分野における政策評価の実態を把握した。1.オーストラリアでの政策評価  オーストラリアは、ニュージーランドとほぼ同時期からNPM(New Public Management)の国際的旗手としての公的サービス部門の改革を実行した。(OECD-PUMA: On-line Document)そのため、医療政策の評価についても、他の公的サービスと同様に、Public Service Act 1999に則り実行されている。具体的には、Public Service Commissioner(省庁長官)は、公的サービスに責任を持つ大臣に対して、オーストラリアの公的サービスの状況について、毎年報告するよう要求されている。大臣はそのレポートを、議会に提出する。このレポートの主要な焦点は、APSエージェンシーが「APSの価値基準」、すなわちアカウンタビリティや、顧客サービス、パフォーマンスマネジメント、功績とリーダーシップなどをいかに踏襲しているのか、という点を明確に示すことが義務付けられている。具体的な医療政策についてみると、NHSとして医療サービスを提供している所管省庁DoFAでは、① 持続的な政府財政―連邦政府の予算や、政府全体の財政報告などを準備することにより、政府の財政目標の達成を助けること、② 政府の運営を改善し、より効率的にすること、効率性を増すためのアドバイスを提供しいくつかの業務を商業ベースで経営管理すること、③ 議会を効率的に機能させることを基本使命として掲げ、高い業績を達成するための四つの中心的な価値基準を設定している。(`私たちの大臣が私たちの顧客である。パフォーマンスに動機付けられること。変化をおそれず、それに対し反応が早く順応性があること。絶対的な整合性と最高の倫理基準を設定すること'に価値基準をおいている。)これら基準は、本源的にはオーストラリアにおける民主主義の具体化を重視したために設定された価値判断基準であることが明らかになった。この価値判断では、政治プロセスによって任命された大臣がNHSサービスに対する国民の満足を高めることを示し(PA)、その公約を実行し、達成していることを確認するための役割としてDoFA家庭高齢者省(仮)が施策を展開する政策体系をとっている。したがって、政策評価の結果によって、想定していた医療プログラムが十分な成果を生み出していない場合、大臣と省庁との契約によって、改善命令が下される原理となっている。しかしながら、現実としては、特にこ
うした強制的な命令は公式には未だ下されていない。一方において、会計検査院(ANAO)は、医療政策提供について、以下の点から監査・評価することが規定さている。連邦政府の公的セクターの、全部または部分のパフォーマンス監査の目的は、連邦政府の行政運営の経済性・効率性・有効性について報告すること、そして、それらが改善されるかもしれない方法を勧告することである。また全てのパフォーマンス監査のコピーが議会に提出され、担当の大臣に提供される。こうした基本的役割を担う会計検査院の活動によって、オーストラリア医療サービス提供の業績を改善するための評価レポートは幾多作成されている実績があることが判明した。また更に、オーストラリア会計検査院では、財政情報についての評価を厳密に行っているとみることができる。具体的には「望ましいフォローアップモデル」としてエージェンシーが検査院長(Auditor-General)のレポートにて挙げられた問題をフォローアップしレポーティングする際の、望ましいモデル(手順等)を表している。以上のように、オーストラリアにおける医療分野の政策評価実態は、アメリカやカナダと比較した場合に、一層NPMの概念を具体化した政策評価システム体系となっているとみることができる。2.イギリスの政策評価  1997年に発行されたThe New NHSによって、イングランドでは、(地域)保健当局(Health Authority)から、プライマリケアグループ・トラスト(Primary Care Trust(PCT))へ予算管理の権限が移り始めた。PCTは1999年から発足、2004年までにNHS予算の75%以上をPCTが管理することになる。95のHealth Authorityは28に統合されて、Strategic Health Authorityとなり、地域保健医療サービスの戦略作成と、質の確保を担うことになっている。また政府内での評価としては財務省(HM Treasury)による財政コントロールPublic Spending Review (Comprehensive Spending Review)をみることができる。省庁から出された公共支出計画を財務省は、各省庁から出された公共サービス合意(PSA)を参考に査定する。また、DIS(Departmental Investment Strategies)各省庁の資本投資計画が示されている。2000年からはPSAのより詳細な目標を定めるものとしてSDA(サービス供給合意)が導入され、さらに資源会計(resource accounting)の観点が用いられている。こうした中央政府内部での活動以外に、政府からは独立し議会下院(決算委員会)の下で、会計検査院(NAO)による財務監査及びVFM監査がなされており、実質的な意味で政策評価活動を行っている。財務監査によって90の省庁歳出勘定(departmental appropriation accounts)と関連する550の他の会計の年次監査し、確かな実績評価システムの発展と、主目標に対する進歩を確認するための助言を与えている。またVFM監査を通じて3(Economy(経済性)、Efficiency(効率性)、Effectiveness(有効性))の観点から政府プログラムの改善勧告・評価報告を行っている。一方で、医療政策であるNHSを評価する視点には、実際の医療サービス提供の観点から多くの評価活動が行われている。例えば監査委員会(AC:Audit Commission)による業績評価が行われているが、公的資金の効果的な管理を補助し強化するとともにNHSが患者に提供するサービスを改善するために寄与することを目的としており地域事務所によって業績評価の管理機能を強化を図っている。ACではNHSを取り巻く環境要因の評価とACの活動によるNHSの業績向上への働きの強弱を把握する必要性を示しており、医療分野での一層の業績評価機能の拡充の必要性から、CHI(Commission for Health Improvement:2000年4月設立)の創設を勧告した。イギリスの医療分野における業績評価・政策評価は、以上のように重層的な機関による評価システムが組み立てられていたが、複雑化する傾向にあったため、これらの機関での評価活動を一本化していく動きが現れている。Audit CommissionのNHSに関するVFM業務、CHI、NCSC(National Care Standards Commission)の民間医療セクター業務を統合するものとしてCHAI(Commission for Health(care) Audit and Inspection)
の創設が計画されている。CHAIは2003年中に機関要件が示され、2004年4月に設立されることとなっている。今後のイギリスの医療政策に関する評価は新設されるCHAIで実施されていくことが判明したが、主な役割として、全国規模のNHSのVFM監査を行う、待機者リストを含む発行されたNHSのパフォーマンス評価統計を検証する、継続的な問題に対し特に優れた解決方法を有しているNHS関連機関に対する認証格付けを発行する、NHS組織の業績について個別または集合体に報告を発行する、独立して患者の苦情を調査する、保健医療の国家的な進歩と、資源活用について、議会に年次報告を発行する、といった役割が求められている。オーストラリア及びイギリスにおける医療分野の政策評価システムを明らかにすると共に、具体的な評価報告を数多く取り扱った。
結論
平成13年度アメリカ合衆国及びカナダ、平成14年度オーストラリア・イギリスについて、医療分野での政策評価の実態を明らかにしており、具体的な政策評価報告及び評価システムについての知見を得られた。アメリカでの連邦レベルではGPRAを中心とした省庁での業績評価・業績計画が会計年度単位で作成されている。特に行政管理予算局による、連邦省庁に対する業績測定指針の提示(Circular No.A-11 Part2)や、GAOによる業績評価内容についての評価・議会証言、シンクタンクによる積極的な関与など多くの点で"重層的"評価システムが構築されていることが明らかとなった。しかしながら、医療分野における政策評価では、プログラム効果を定量的に測定する際に必要とされる実証データに限界がある場合が多く、成果指標を実際に用いての評価活動には限界があることが示された。 カナダでの評価システムについてみると、中央政府では基本的な考え方や用語を提起する等、評価活動の基盤的貢献が大きいとみることができる。その一方、具体的なプログラム評価活動では、民間シンクタンクや地方政府での取組みの役割が大きいとみることができる。ただし、プログラムの財政管理や省庁に対する議会コントロールの仕組みを整備しているとみることができる。オーストラリアの政策評価システムでは、医療提供についての財政管理は、政府全体での財政目標との関連性を明確かつ持続的なつながりを持っていることが求められていること、またプログラムの達成については、最終的には大臣が責任を持つものの、担当大臣と省庁との間での合意が必要とされている。1999年に成立したPublic service Actによってアカウンタビリティ・対顧客(=大臣)サービス、業績管理(Performance Management)功績とリーダーシップといった価値基準をもとに評価されている。オーストラリア会計検査院は、政府から独立した機関として、政府のプログラムについて経済性・効率性・有効性についての報告を行い、改善方法を提示・勧告している。イギリスでは、財務省による財政コントロールや会計検査院(NAO)による報告のほか、Audit Commissionが地方での医療サービス提供についての評価を積極的に行っている実態が明らかとなった。今後医療分野については、評価活動の重複を回避するため、VFM業務、NCDSC、CHI等を統合し、新たな機関としてCHAIが評価活動を一本化して実施していくことが判明した。これらの各国の状況については、実態把握として政策科学における具体的な政策評価の事例として取り上げることができる。また、2年間4か国の実態を明らかにする中で蓄積された各国の医療政策関連情報や政策評価のあり方に関する基礎的資料整備を図り、今後の研究を行っていくための環境整備を図ることができた。 各国での医療分野の政策評価システムを概観した場合、政治システムの相違やアカウンタビリティの要請、評価に対する役割の相違、評価結果の活用方法等多くの点で異なっているものの、プログラムの評価指標の設定の難しさや評価指標を測定するために必要なデータ整備についての諸問題を残していることでの類似性は認められている。今後、各国では業績測定を行うための臨床指標の策定や地域健康水準等を測定するための調査分析方法の確立に向けて取
り組みが整備されていくことが求められている。なお、当事業によって得られた各国の政策評価の実態については、インタビュー協力機関へのフィードバックを待たれているため、適宜我が国を含む実態として各国比較を行った上で、各国への情報提供を行うものである。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)