公衆衛生活動・調査研究における個人情報保護と利活用に関する研究

文献情報

文献番号
200200061A
報告書区分
総括
研究課題名
公衆衛生活動・調査研究における個人情報保護と利活用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
玉腰 暁子(名古屋大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 石川鎮清(自治医科大学)
  • 小橋元(北海道大学大学院医学研究科)
  • 佐藤恵子(和歌山県立医大)
  • 杉森裕樹(聖マリアンナ医科大学)
  • 中山健夫(京都大学大学院医学研究科)
  • 丸山英二(神戸大学大学院法学研究科)
  • 武藤香織(信州大学医療技術短期大学部)
  • 山縣然太朗(山梨大学大学院医学工学総合研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
根拠に基づいた公衆衛生活動、社会保障政策形成のためには、その根拠を提供する疫学研究が不可欠である。疫学研究は人間集団を対象とし、その健康事象を観察、あるいは健康事象に介入する。したがって、疫学研究には、個人情報保護対策を十分に確立した上で、集団を構成する一人ひとりの理解と協力が重要である。厚生労働省と文部科学省が合同で策定した「疫学研究に関する倫理指針」では、個人情報保護について「研究責任者は、疫学研究の実施に当たり個人情報の保護に必要な体制を整備しなければならない。」と定めているが、その具体的方策は明らかでない。また、倫理審査委員会における審査が重視されているが、現在各所に設置されている倫理審査委員会の審査体制は統一されておらず、さらに地方自治体などで実施される調査研究に対しては倫理審査を行う体制そのものが不十分である。一方、研究の概要についての一般市民の理解を求めるにはまず、疫学研究そのものの周知が必要であるが、今のところ疫学研究の周知努力は十分ではない。本研究班では、疫学研究と社会とをつなぐ橋となる個人情報保護、倫理審査、インフォームドコンセント、そして結果説明を有機的に結びつけることを重視し、研究を進めている。 そこで、以下の調査研究を通じて、健康情報を含む個人情報を保護しつつ、その利活用を図る疫学研究を実施するための政策的提言をし、科学的な公衆衛生、社会保障政策の形成に寄与する調査研究を実施するのに必要不可欠な基盤形成を目指すこととした。1.疫学研究における個人情報保護のあり方の検討①情報漏洩防止システムの具体的構築②構築したシステムの実施と普及2.疫学研究の倫理性を担保するための方策の検討①倫理審査委員会の実態調査②倫理審査委員会の問題点の整理③模擬倫理審査委員会の実施④疫学研究を審査する倫理審査委員会の在り方の提言⑤疫学研究者および倫理審査委員の教育プログラムの開発⑥説明同意書作成マニュアルならびに雛形提示⑦疫学研究倫理審査申請書の提案
3.疫学研究の理解と周知方法の検討①疫学研究の社会への還元についての調査②疫学研究の周知方法の検討③周知の実践
研究方法
1.疫学研究における個人情報保護のあり方の検討 疫学研究では、個人情報、健康情報、医療情報など非常にセンシティブな情報を取り扱う。そこで、情報管理の専門家の協力を得て、ソフト、ハード両面から情報保護の在り方を検討する。①情報漏洩防止システムの具体的構築 対象者の理解を得て疫学研究を遂行するため情報漏洩防止システムを構築する。さらに利用上の問題点を明らかにするために疫学研究者、一般住民を対象に使い勝手や不安点に関する調査を行う。②構築したシステムの実施と普及 大学、研究所における疫学研究者のみならず、保健所、自治体が中心となって行う調査研究に対しても構築したシステムを普及することを目指す。2.疫学研究の倫理性を担保するための方策の検討 様々な研究手法、地域、対象者などの特性に応じたすべての研究パターンについて倫理指針でそのあり方を定めることは困難であることから、倫理審査委員会の役割は今後ますます増大すると考えられる。したがって、その倫理審査委員会が適切に機能することは、疫学研究が倫理的に遂行されるための必要条件である。そこで、倫理審査体制に関する調査と提言を行う。①倫理審査委員会の実態調査②倫理審査委員会の問題点の整理 委員会メンバーに対する詳細なインタビューならびに医学部、研究所、病院に設置された倫理審査委員会に対するアンケートを実施し、疫学研究に対する倫理審査委員会の姿勢や審査の過程で生じる具体的問題を把握する。③模擬倫理審査委員会の実施 具体的な研究事例(仮)に対し、実働している倫理審査委員会に審査を依頼し、討論過程を記録するとともに審査における問題点を整理する。④疫学研究を審査する倫理審査委員会の在り方の提言 上記①~③の成果をもとに倫理審査委員会ハンドブックまたはマニュアルの作成を目指す。⑤疫学研究者および倫理審査委員の教育プログラムの開発 上記①~④ならびに諸外国を参考に、疫学研究者と倫理審査委員に必要な教育プログラムを開発し、提供する。⑥説明同意書作成マニュアルならびに雛形提示 対象者にわかりやすい説明・同意文書の作成マニュアルを開発するとともにコホート研究を例に文書の雛形を提示する。⑦疫学研究倫理審査申請書の提案  倫理審査委員会が疫学研究を審査する際に必要事項を容易に把握し、また研究者が必要事項を認識することを目的として、申請書チェックリストを作成し、実際の審査で用い改変する。3.疫学研究の理解と周知方法の検討①疫学研究の社会への還元についての調査 疫学関係国際誌に発表された論文の著者を対象に、研究成果の社会への還元について調査する。②疫学研究の周知方法の検討 様々な方法(リーフレット、プロモーションビデオなど)、対象(地域、職域、学校など)に対し、疫学研究を伝える方策を検討する。特に高齢者や若年者といった情報から取り残されがちな人々、健康に関心を持ちにくい人々に対してもアクセスが容易で、理解のしやすい方法を検討する。③周知の実践 疫学研究に実際に携わる人を対象としたリーフレットを作成し、実践の現場である市町村に向けて普及活動を行う。本班の研究は、健康情報を含む個人情報を保護しつつ、その利活用を図る疫学研究を実施するのに必要な具体的な政策提言を行い、それを通じて科学的な公衆衛生、社会保障政策の形成に寄与する調査研究が行われるための基盤を形成するものである。
結果と考察
以下の研究調査を実施した。1.疫学研究における個人情報保護のあり方の検討 HIPAA(Health Information Portability and Accuntability Act)などの国内外の他分野を参考にしたほか、IT関連企業のシステムエンジニア等を研究協力者に迎え専門的知識の提供をうけ、インターネットを利用した疫学研究を遂行する上で必要となる情報漏洩防止システムを構築、研究者ならびに一般対象候補者に依頼し、実際にそのサイトから情報を入力後、不安点や使い勝手を調査した。今後、より適切な仕組みの提案へとつなげる
。2.疫学研究の倫理性を担保するための方策の検討○ 倫理審査の体制 遺伝子解析研究を含む疫学研究の倫理審査の過程で、倫理審査委員会は、ヒトゲノム・遺伝子解析研究の倫理指針と疫学研究の倫理指針、いずれか一方の指針 に則った審査体制しか取りえない現状を把握した。今後、疫学研究において遺伝子解析を実施する場面は増加すると考えられることから、より適切な審査体制のあり方を早急に検討する必要性が示唆された。来年度は、全国的な調査を行ないつつ、必要に応じて委員会に専門家を召集すること、あるいは遺伝子解析研究を審査する委員会と疫学研究を審査する委員会の合同開催など、具体的な審査の体制や、どういった点を審査するべきかについても包括的に提言する。また、子どもを対象とした研究についての倫理審査項目はわが国では明確な指針がなく、米国のProtections for children in researchを参考に倫理審査での検討課題を抽出した○説明同意書作成マニュアルならびに雛形提示 研究意義、内容、方法などの説明と同意のための文書作成マニュアルを作成すると同時に、コホート研究を例に文書例を示した。○ 倫理委員会申請書チェックリストの作成 倫理審査委員会が疫学研究を審査する際に必要事項を容易に把握し、また研究者が必要事項を認識することを目的として、名古屋大学医学部倫理委員会と共同で申請書チェックリストを作成した。3.疫学研究の理解と周知方法の検討 ○疫学研究を紹介する印刷物の作成 昨年度までのベータ版に寄せられた意見を基に疫学研究に関わる人を対象とした「疫学研究を行う前に(対象者への説明のためのガイド)」を作成し、全国の市町村へ配布したほか、班のHPに掲載し、ダウンロードできるような体制を整えた。○疫学研究成果の社会への還元についての調査 2000年に疫学関係国際5誌に発表された論文の著者を対象に、研究成果の社会への還元について、その方法、頻度などを問う調査を行なった。 これらの研究をさらに進め、健康情報を含む個人情報を保護しつつ、その利活用を図る疫学研究を実施するための政策的提言をし、科学的な公衆衛生、社会保障政策の形成に寄与する調査研究を実施するのに必要不可欠な基盤形成を目指す。
結論
適切な個人情報保護の方策を確立し、疫学研究の周知と理解を通じて倫理的な研究の実施を可能とするため、疫学研究における個人情報保護のあり方の検討、疫学研究の倫理性を担保するための方策の検討(倫理審査体制の検討、説明同意書作成マニュアルならびに雛形提示、倫理委員会申請書チェックリストの作成)、疫学研究の理解と周知方法の検討(リーフレットの作成、社会への還元に関する調査)を実施した。最終年度は、疫学研究と社会とをつなぐ橋となる個人情報保護、倫理審査体制、インフォームドコンセント、そして結果説明の具体的方法をさらに発展させ提案することを目指す。
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