地域特性からみた難病に対する医療・介護福祉提供体制に関する研究:東北地方のパーキンソン病重症患者をモデルとして(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200054A
報告書区分
総括
研究課題名
地域特性からみた難病に対する医療・介護福祉提供体制に関する研究:東北地方のパーキンソン病重症患者をモデルとして(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
齋藤 博(国立療養所西多賀病院)
研究分担者(所属機関)
  • 辻一郎(東北大学大学院)
  • 小野寺淳一(国立仙台病院)
  • 吉岡 勝(国立療養所西多賀病院)
  • 高田博仁(国立療養所青森病院)
  • 阿部憲男(国立療養所岩手病院)
  • 土肥 守(国立療養所釜石病院)
  • 小林顕(国立療養所道川病院)
  • 久永欣哉(国立療養所宮城病院)
  • 會田隆志(国立療養所翠ケ丘病院)
  • 関晴朗(国立療養所山形病院)
  • 宮澤幸仁(国立療養所米沢病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
2,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では高齢者に多いパーキンソン病をモデル疾患として、主に東北地方における難病患者の医療、福祉サービスならびに介護保険等の利用状況と関連諸問題を調査し、さらに都市部、町村部の状況を比較検討するすることにより、医療・福祉提供体制に関わる問題点ならびにその地域特性を明らかにすることを目的とした。
研究方法
政策医療ネットワークを活用し、各研究班員の所属施設、患者友の会および県の協力のもとにパーキンソン病患者(ヤール重症度:III度以上、生活機能障害度 II 度以上)の医学的背景、医療機関利用状態、療養形態、医療・福祉制度・介護保健等の利用等に関わる患者・家族の問題点など約130項目を調査した。研究概要は平成13年に主任研究者施設の倫理委員会にて審議、実施認定を受けた。主介護者の介護負担感の調査にはZarit SH, et al. による調査票(Gerontologist 20:649-655, 1980 )を用いた。目的と概要を患者・家族に文書で説明し、同意をえた。さらにプライバシーに配慮し、個人の特定につながる情報を除く調査結果を主任研究者施設でデータ・ベース化した。対象全体の解析に加え、人口10万人を基準として患者居住地を都市部と町村部の2群に分けて比較した。推計学的評価には t-検定、χ二乗検定を用い、p < 0.05 を有意水準とした。
結果と考察
平成15年2月末日までに新潟県を含む7県から合計541名(男性245名、女性296名、年齢:68±8歳、罹病期間:10±6年、ヤール重症度:III度 388名、IV およびV 137名、記載なし16名)の調査結果が集積された。主介護者の介護負担感に関する有効回答は342件であった。1)患者の性、年齢に地域差はなかったが、町村部で重症者が多かった(p<0.05)。2) 304名(62%)が受診上、何らかの悩みを有した。主な悩みは「付き添いなどで家族に負担をかけている」58%、「待ち時間が長い」36%(都市部およびヤールIII 度群に多い)、「交通費が負担になっている」29%(町村部、年収600万円以下の家庭で多い)、「近くに適切な病院がない」27%(町村部で多い)などであった。「病院における入院期間の制限が悩み」は重症者に有意に多かった。3) 介護保険理解度は、「良く理解している」15%、「大体理解している」68%、「まったく分からない」17%であった。介護保険導入前の各種福祉サービスの利用は町村部で低い項目が多かったが、導入後は地域差の減少傾向を認めた。ただし医療スタッフを含む人的サービスの利用は全体に低くかった。介護保険利用者は204名(40%)で地域差はなかった。ただし、「介護保険自体や申請方法などがわからない」との回答が全体および非利用者のそれぞれ17%を占めた。4)介護保険利用者の75%は要介護度の判定を妥当とし、81%が保険によるサービスに対して「満足~ほぼ満足」と回答した。他方、利用により介護負担が軽減ないしやや軽減したとの回答は62%にとどまった。5) 主介護者の介護負担感に地域差は検出されなかった。介護負担感と有意に関係した項目は患者の性別、重症度、罹病期間、精神症状、排尿障害・起立性低血圧などの自律神経障害、家庭総収入、患者以外の病人の有無、主介護者と患者との関係(配偶者、娘、嫁など)、介護保険の理解と利用等であった.6) 都市部と町村部で有意差を示し
た項目は重症度、同居家族数、通院時間、患者・家族の悩みとしての「近くに専門病院がない」、「待ち時間が長い」、主に介護保険導入前の福祉サービス利用率等であった。 パーキンソン病などの神経疾患では生命機能の低下に先行して、日常生活動作が大きく障害される。その結果、患者・家族の多くは経済的にも生活の質の面でも長期間困難な生活を強いられるため、医療サービスと同時に、介護福祉サービス提供のあり方はきわめて重要となる。平成12年度に導入された公的介護保険の中核をなすものは介護における人的サービスである。大都市とその近郊では余剰労働力が豊富で利用人口密度も高いため、介護サービス事業も成立しやすい。他方、東北地方のように、大都市が少なく、住民の高齢化・過疎化の進む小都市・山村地区の多い地域では、介護サービスに対する需要は大であっても、事業としての効率性はきわめて低い。そのため医療提供と同様に公的介護保険制度の提供体制(事業所数や人的資源)や利用状況にも地域格差が生じつつあることが指摘されている。本研究においても62%の患者が医療を受ける上での悩みを有し、とくに町村部では神経難病医療機関ならびに専門医が少なく、患者・家族は遠く離れた専門医療機関に通院している状況が示された。他方、介護保険制度導入後に福祉サービス利用は増加し、かつ患者・家族の満足度、負担軽減感に地域差は検出されなかったものの、都市部と町村部の違いは残存した。他方、全体の約17%の患者が介護保険を理解しておらず、これが同保険非利用の主因になっていた点は福祉行政サービスに関する情報提供のあり方に問題があることを示唆する。医療保険財政と同様に公的介護保険の財政も限られている以上、効率的な運用と同時に公平な配分が要求される。近年、医療分野では競争原理や市場原理の導入が論じられているが、まず第一に公的財源による一定レベルの社会保障基盤を維持すること、とくに地域格差を最小限に抑える政策が要求される。そのためにも難病患者・家族に対する公的支援の継続、長期療養の場の確保、十分な福祉情報提供に加え、病診連携ならびに医療・福祉機関の緊密な連携が必要と考えられる。
結論
東北地方と新潟県におけるパーキンソン病重症患者541名とその家族の医療・介護福祉サービス利用状況と関連諸問題を調査し、人口10万人を規準とした都市部・町村部の地域比較を含めて解析した。その結果、1)神経難病医療機関や専門医が人口10万以下の町村部で少ないこと、2)福祉サービスに関する情報提供がまだ不十分であること、3)介護保険導入後に福祉サービスの利用者は増え、地域差も減少したが、利用者の満足度は必ずしも高くはないこと等が明らかにされた。これらの結果から、4)介護保険制度下の福祉サービスとして、とくに長期療養の場の確保、人的サービスの充実が必要とされていること等が示唆された。

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