医療費データと接合された検診データ等による検診の効果分析(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200053A
報告書区分
総括
研究課題名
医療費データと接合された検診データ等による検診の効果分析(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
小椋 正立(法政大学経済学部教授)
研究分担者(所属機関)
  • 泉田信行(国立社会保障・人口問題研究所研究員)
  • 角田保(大東文化大学経済学部講師)
  • 河村真(法政大学経済学部教授)
  • 佐藤雅代(国立社会保障・人口問題研究所研究員)
  • 鈴木玲子(日本経済研究センター主任研究員)
  • 山田武(千葉商科大学商経学部助教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
健康診断を受診することにより,生活習慣病の発症を早期に察知し,治療を受ければ,重症化を避けることが可能になり,医療費の適正化に資することが期待できる。また,健康と判断された個人は自らの生活の中から,健康リスクとなる要因を十分に除去していることについて,不安なく生活できる。これも健康診断事業の効用と言えよう。これらの点を明らかにするためには,個人にとって,健康診断の内容に関する情報と医療費の情報が,分析者にもリンケージされている必要がある。本研究班では健康診断のデータと医療受給データを接続し,パネルデータを作成し,分析することによって,健康診断の効果の分析を行うことを目的とする。本年度は2年計画の2年目として,健診と医療の結合データベースの豊富な情報量を十分に活用するために医療機関への受診と,健康診断の関連をエピソードごとに分析し,また基礎調査の世帯データを用いて,生活習慣と生活習慣病および健康診断の受診行動の関連を分析した。
研究方法
「健康診断と医療費」,「健康診断と健康管理」,「喫煙の経済分析」と3つのテーマに沿ってそれぞれ分析を行った。「健康診断と医療費」では,鈴木玲子分担研究者が健康診断受診によって入院リスクをどれほど引き下げられるかということについて,異なる4業種の健康保健組合のデータを用いて実証分析した。小椋正立主任研究者は健診の高血圧症の判定によって,個人の医療の受診行動がどのように影響を受けるかを生存分析を適用して分析を行った。泉田信行分担研究者は,精神疾患と他の傷病を比較することにより精神疾患に関する外来受診行動について分析を行った。「健康診断と健康管理」では,泉田信行分担研究者が,健診事業について先行研究の整理,既存資料・統計の整理から健康管理事業の現状に対する検討を行った。山田武分担研究者は,健康診断の情報としての価値という側面から,消費者が健康診断を受診するかどうかの意思決定モデルを構築し,それをもとに実証分析を行った。鈴木玲子分担研究者は,健康状態の改善に健康診断が有効かどうかをはじめ,健康状態が何によって決定されるかについての実証分析を行った。角田保研究分担者は,成人の所得・健康状態・自己管理に焦点をあてて,所得と自己管理が自覚症状に与える影響を分析した。佐藤雅代分担研究者は,個人レベルで社会保障の負担と給付を認識評価できるシステムの導入に関して,現役世代の被用者保険の被保険者に関する医療保障について分析を行った。「喫煙の経済分析」では,泉田信行分担研究者が,喫煙時の副流煙に関する分析を行い,家族の健康水準を考慮に入れて禁煙の意思決定を行う理論モデルを構築して被保険者の喫煙の意思決定に関して基礎的な推計を試みている。河村真分担研究者は,健康状態と生活習慣の相関について分析しており,健康状態を示す情報として,検診時の検診結果票と健康調査票をマッチしてデータセットを作成し,それらから17項目の判定結果と喫煙の有無および判定結果と飲酒の程度,喫煙の有無および飲酒の頻度を組み合わせた生活習慣の事象と健康状態に関するクロスタビュレーションをそれぞれ行った。また,この関係を判定項目ごとに健康状態と生活習慣との相関を統計学的に確認している。
結果と考察
「健康診断と医療費」について,鈴木論文では,(1)4組合で本人分の入院医療費は1年間に約22億円であるが,仮に全員が健診を受けた場合には,健診をまったく実施し
ない場合に比べて約2億4千万円の入院費削減効果が期待できる。(2)組合によって入院リスクにばらつきがある要因は,健康保険組合の健診後フォロー体制などの違いが,健診効果を左右する可能性が高い,ということを明らかにした。小椋論文では,受診確率は(1)共通して健診と同じ月を始めのピークとするU字型の分布を示している。(2)二番目の山が始まる時点については6ヶ月から12ヶ月まで,企業間でかなりの差があった。しかしもっとも大きな違いは,被用者が健診前に高血圧症のために医療機関に受診しているかどうかであり,(3)すでに受診していた被用者に比べ,そうでない者は受診が遅れる傾向が認められ,(4)中高年者に対して,若年者の受診は遅れる傾向が認められた。(6)高血圧症のために受療中であることを条件としている場合、それが認識されていないものも相当数あった,という結論を得た。泉田論文では,(1)精神疾患と他の傷病に関して,外来受診の構造は異なる可能性がある。(2)検診受診は精神疾患とその他の傷病に関して逆向きの効果を持つ。(3)検診受診によって精神疾患に関連した外来受診は増大しないが,他の傷病に関連した受診は増大する,ということを明らかにした。また,精神疾患について、食欲不振や睡眠不良を訴える場合には受診確率を引き上げる効果が大きいが,他の傷病については小さいという結論も得ている。「健康診断と医療費」について,泉田論文では,健康管理事業には,(1) 個人のライフサイクルに沿った健康管理のあり方の必要性と,(2)健康管理を選択して実行する個人の側にも適切な誘因が働かない可能性について対処する必要性があることを指摘した。その対策として,個人の健康管理を重視した政策を実施するのであれば,医療サービスの保険カバー率を相対的に小さくする保険カバーの見直しを提案している。山田論文では,(1)50歳ぐらいまでは健康診断の受診確率が増加するものの,それ以降は受診確率は減少する。(2)所得の増加による機会費用の増加が健康診断の受診を抑制している。(3)入院日数が長いほど受診確率は低下するが,外来日数や歯科日数が増加すると受診確率は増加する。(4)慢性疾患の種類によって,健康診断の価値に与える影響は異なる,という結果を得た。鈴木論文では,(1)過去1年間に健診を受けた人は受けない人より健康状態が悪い確率が3.5%高い。(2)1人当たり所得が高い個人ほど健康状態がよい確率が高い。しかし,その効果は非常に小さい。(3)居住する地域住民の所得格差が大きいほど,個人の健康状態が悪くなる,という結果を得ている。また,鈴木論文では,(1)現在、所得不平等による健康水準の影響は限定的であるものの,今後さらに格差が拡大するならば,国民の健康水準に与える影響は無視できなくなる可能性がある。(2)個人の所得水準の影響度は極端に小さいことから,地域の不平等を縮小させるような所得分配政策の方が健康増進効果としては有効である,という結論を出した。角田論文では,(1)所得の内生性は支持されること,(2)所得の増加が有訴率を引き上げる方向に働くこと,(3)健康管理する人は有訴率を引き下げる効果があり,(4)節酒に比べて禁煙の効果が大きいこと,(5)単独世帯の男性の有訴率が高い,という結論を得た。 また,推定結果から,健康21で示された日常生活における健康管理の重要性は,この結果からもサポートされるとし,これらの結果は高齢化社会を迎える日本にとっての政策の一助になりうると示唆している。佐藤論文では,(1)大部分の被保険者本人に関して,給付に比べて負担が大きく,(2)高額療養費支給の対象となるケースは相当数発生している,ということが分かった。また,佐藤論文では上記の結果を,(1)分析期間を通じた医療機関受診が少ない人の割合が多いため,(2)個人或いは世帯単位では給付超となっているケースがあり,多数でリスクヘッジする保険の機能が働いている,と分析している。「喫煙の経済分析」について,泉田論文では,被保険者を,1.煙草を吸わない,2.煙草を吸う(1日20本以内),3.煙草を吸う(1日20本以上)の3カテゴリーに分類して入院日数・外来日数を比較した結果,本人についても家族についても,被保険者がカ
テゴリー1に入る場合には,カテゴリー2に入る場合よりも医療費が安いことがわかった。しかし,カテゴリー2に入る場合にはカテゴリー3に入る場合よりも医療費が高い場合があり,必ずしも医療費が喫煙本数に依存していないケースがある,ということが示した。河村論文では,その結果,(1)各判定項目に関して,喫煙および高頻度の飲酒と悪い健康状態に関して必ずしも明確な相関が得られないものが多く,ほとんどの項目で,喫煙しかつ高頻度の飲酒を行うグループは高リスクグループ,非喫煙で低頻度の飲酒のグループは低リスクに分類でき,また喫煙し低頻度の飲酒を行うグループや非喫煙で高頻度の飲酒を行うグループは,検査項目により高リスクグループにも低リスクグループにもなることを明らかにした。
結論
これまでは一人一人の健康診断の受診データとその後の受診行動データが接合されたかたちで提供されにくかったため、健康診断に関する分析例は数少ない。したがって本研究の成果は、今後の健康診断のあるべき姿や制度改善の模索、または健康診断と国民の健康状態の関係を分析する上でも大きく寄与することは間違いないであろう。

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