レセプト情報の利活用と個人情報保護のあり方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200051A
報告書区分
総括
研究課題名
レセプト情報の利活用と個人情報保護のあり方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
小林 廉毅(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 岡本悦司(国立保健医療科学院)
  • 谷原真一(島根医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
7,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年の健康保険財政の逼迫は深刻さを増しており、医療・社会保障の効率化や保険者機能強化にむけた政策立案が急務となっている。診療報酬請求明細書(レセプト)情報は、医療費の動向や特定の疾患の流行等について全数かつリアルタイムに利用できるという特色を持ち、医療・社会保障政策へ様々な応用が可能な貴重なデータである。レセプト情報は行政通達により利活用が推奨されており、その調査研究体制の整備が必要と考えられる。昨年度報告においてレセプト情報を活用した調査研究の実態と動向について検討した。その結果、医療機関におけるレセプト情報を利用する場合のプライバシー保護対策に関するガイドライン作成の重要性が示唆された。保険者におけるレセプト情報の管理・利活用については次年度の課題とされた。そこで本年度の研究では、保険者におけるレセプト情報の利活用の現状と展望に加え、調査分析の外部委託に関する調査を実施した。また分担研究として、レセプトに記載された複数傷病名の客観的かつ自動的分類法であるPDM(Proportional Disease Magnitude)法の開発、ならびに地域の健康度指標としてのレセプト情報活用に関する研究を併せて行った。
研究方法
(1)保険者を対象とした調査:調査は独自に作成した調査票の送付により実施した。調査票送付・回収期間は2003年1月29日から2月28日までであった。調査対象は国民健康保険(国保)と組合管掌健康保険(健保)の全保険者とした。国民健康保険の3195保険者、健康保険の1,950保険者に調査票を送付した。データ入力方法は、数値入力部分についてはベリファイ入力(同内容を二度入力し、その結果をデータ照合。その際、合致しなかった箇所のみ修正入力)に基づいて行い、自由記載等の文字入力部分は目の子による校正を行った。統計解析には統計パッケージSAS 8.02 releaseを用いた。(2)レセプト傷病分類の原理と手法(PDM法):レセプトに記載された複数傷病名を客観的かつ自動的に分析する原理(PDM法)を考案し、パソコン上で使用できるプログラムを開発した。また開発したPDM法の精度を向上させるための補正法やシミュレーションデータを使った検証法の検討を行うとともに、PDM法の応用例としてM県N市におけるインフルエンザワクチン効果評価事業に適用を試みた。(3)地域の健康度指標としてのレセプト情報活用に関する研究:レセプトデータのリンケージによるレセプト情報活用の可能性について、K県のある国民健康保険保険者における1998年及び2002年の5月診療分レセプトデータを生年月日などでリンケージすることにより、各疾病による受診状況および重複受診の頻度と高血圧受診状況の推移を検討した。また地域の健康度指標へのレセプト情報活用について検討するため、S県のある自治体の2002年5月分の老人医療受給対象者のレセプト1人あたり件数、1人あたり受診日数、1人あたり費用額、1件あたり日数、1日あたり費用についてのデータを地区・年齢階級別に再集計した。倫理面への配慮として、本研究でレセプト情報を扱う場合は個人識別情報を削除した上で取り扱うこととした。
結果と考察
保険者を対象にした調査では2,017の保険者から回答を得た(回収率39.2%)。分析の結果、多くの保険者でレセプト情報を用いた調査分析を実際に実施していることが示された。他方、今後必要と思われる分析項目ではすでに行われている調査分析以外にも高い支持を得た項目が多く、レセプト情報を用いた調査分析に対する要求が潜在的に高いことが推測された。データ入力・分析作業の委託先外部機関として、国民健康保険では国民健康保険団体連合会が、他方、組合管掌健康保険では民間企業(シ
ンクタンク等)が多数を占めた。学術研究機関との連携はわずかであるが、前述のようにより高度で複雑な調査分析に対する要求が潜在的に高いため、今後、学術研究機関との連携を高めて行くことも課題と思われた。米国のメディケアの調査分析においても、保険組織だけでなく多くの研究機関が関わっていることが示されている。本研究で開発したPDM法は、レセプトに記載された複数傷病名を客観的かつパソコン上で自動的に分析する手法であり、その応用例としてM県N市におけるインフルエンザワクチン効果評価事業に適用を試みたところ、実用性の高い方法であることが確認された。また地域の健康度指標としてのレセプト情報活用に関する研究では、まずレセプトデータをリンケージして分析することが有用であることが示された。次にレセプト情報を用いて、地区別の医療費構造を比較したところ、個々のレセプト情報を用いることにより、従来行われてきた保険者別の医療費データの比較よりも、地域住民の生活実感に近い形で地域の健康度指標を提示できる可能性が示された。
結論
本研究により、多くの保険者でレセプト情報を用いた調査分析を実際に実施していることが示された。他方、今後必要と思われる分析項目については、より高度で複雑な調査分析に対する要求が潜在的に高いことが推測された。レセプトの電子化と分析プログラムの開発に伴い、データ入力・分析作業が簡便化されれば、保険者の調査分析能を高めることに重点をおいた態勢を整えて行く必要があると考えられる。委託先の外部機関として、国保では国民健康保険団体連合会が、他方、健保では民間企業(シンクタンク等)が多数を占めた。学術研究機関との連携はわずかであり、委託先の固定化が示唆された。分担研究で開発したPDM法は、レセプトに記載された複数傷病名を客観的かつパソコン上で自動的に分析する手法であり、その応用例としてM県N市におけるインフルエンザワクチン効果評価事業に適用を試みたところ、実用性の高い方法であることが確認された。同じく分担研究の地域の健康度指標としてのレセプト情報活用に関する研究では、レセプトデータをリンケージして分析することの有用性ならびにレセプト情報を地域の健康度指標を活用する可能性が示された。

公開日・更新日

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