福祉・介護分野における情報化の今後のあり方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200050A
報告書区分
総括
研究課題名
福祉・介護分野における情報化の今後のあり方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
生田 正幸(立命館大学)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋紘士(立教大学)
  • 森本佳樹(立教大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
4,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
実態の体系的な把握が遅れている福祉・介護分野の情報化について、先進事例を中心に実態把握を行い、その分析と評価を踏まえて今後のあり方及び推進方策に関する検討を行い、わが国における福祉・介護サービスの向上に資することを目的とする。
研究方法
研究会の設置による検討、先進事例等に関する情報の収集とヒアリング調査、事例レポートの作成、グループインタビューの開催、グループディスカッションの開催、実態調査の実施
結果と考察
研究結果として、①福祉・介護分野の情報化を推進するにあたっては、社会福祉基礎構造改革との関連等に配意しつつ政策と制度・施策を戦略的に展開する必要があり、そのためにも情報化の必然性と効果について体系的な整理を進めねばならないこと、②福祉・介護の現場における情報化は未だ多くの課題を抱えており、先進的な一部の施設・機関、自治体とそれ以外の格差が広がりつつあること、③先進的な施設・機関などにおいても横の連携や協同などを進めるきっかけや基盤が未成熟であること、④情報化について現場の求める機能・役割は、それぞれの地域・施設・機関等の状況によって異なり、各々にふさわしい情報化への対応が必要とされること、⑤地域・施設・機関等における福祉情報化の推進にあたってはリーダーシップの発揮とキーパーソンの確保・養成が重要な要素であること、⑥福祉・介護現場における情報化は「効率」の観点だけで推進することに限界があり、サービスの質の向上など「質」の問題と絡めた推進が必要となっていること、⑦福祉現場における情報化に際しては、情報システムの導入だけではなく、業務のあり方の再構築が不可欠であること、⑧現場の求める機能と操作・運用条件を妥当な価格で満たすことのできるソフトウェアが乏しいこと、⑨サービスの質の向上を図る上で、処遇記録の高度化に対応しうる処遇管理用情報システムが求められていること、⑩情報システムの導入が進んだことより、地域などにおけるデータ共有が可能となったが、システム間のデータ互換性に課題が多く、システムやデータの標準化が必要とされていること、⑪地域あるいは施設・機関間における情報の共有と利用が進展しつつあり、個人情報の利用と保護に対する標準的なガイドラインの必要性が高まっていること、⑫公と民、施設・機関相互間の情報ネットワークの接続が進みつつあることから、これに関する標準的なガイドの必要性が高まっていること、⑬情報化を担う人材が不足しており、教育と養成のあり方が課題となっていること、⑭情報化への取り組みについては、財政・企画・人材など様々な点で、個々の施設・機関等の自主的な努力と負担が大きく、導入と活用を成功させる大きなハードルとなっていること、⑮高齢者福祉の領域のみならず、障害者福祉の領域についても、新たな制度の展開にともないIT化・情報化が急速に進展しつつあること、⑯障害者福祉施設においては、長期の入所生活を余儀なくされ社会的に孤立しがちな入所者に情報通信の利用意向が活発化しつつあること、⑰施設サービスの提供を支援する業務用ソフトウェアについて、施設職員自らによる自主開発の動きが見られるが、様々な課題を抱えていること、⑱制度の改定などが頻繁でありシステム開発や修正に費用と手間がかかることもあり、福祉・介護分野はベンダー等にとってはそれほど魅力的な市場ではないこと、⑲介護保険制度の導入にともなう市場の期待と熱気は薄れ、システム開発業者等の意欲と関心が低下しつつあること、⑳福祉・介護関係の資料・情報を収集・蓄積し各種情報の発信やネットワーク化の核でもある情報センターや資料センタ
ー等が経費面で厳しい立場に置かれ、一部では閉鎖される等の動きも見られること、などを把握することができた。
結論
本研究の基礎には、IT化・情報化の必要性と効用が広く叫ばれているなかで、福祉・介護分野における実態はどのような状況にあり、また如何にあるべきかとの疑問がある。また、福祉・介護をめぐる制度・政策が、少子高齢社会への対応、新しいあり方をめざして大きく変化していくなかで、今後の福祉・介護をより良いものへと展開させるためには、IT化・情報化をどのように方向付けるべきかという疑問もある。これらの疑問を踏まえ、本研究は、福祉・介護分野における情報化の先進事例を収集し、その実態把握を行うことを軸として展開された。しかしながら、この種の事例は、その把握が容易ではなく、各種の資料、インターネット上の情報、関係者からの伝聞などを頼りにひとつずつ掘り起こしていくことが必要であり、福祉・介護分野の情報化が、個々に分断された状態であり連携が脆弱であることを改めて認識させられた。また、個々の事例への訪問ヒアリング調査においては、先進的な施設・機関の意欲と意識の高さに触れたが、反面、他の施設・機関の大きなギャップにも驚かされた。多くの場合、そうしたギャップを生んでいる最大の要素は、人的な要素であり、施設長やキーパーソンの個人的な資質と膨大な努力に追うところが大きい。そして、そうした人材を確保することができ、情報化への取り組みを進めることができた施設・機関の多くは、サービス提供や経営のあり方についても、積極的な改革が進められており、次世代型のサービス提供施設・機関へと変貌しつつある印象を強く受けた。とりわけ、注目したのは、IT化・情報化を単なる効率化だけではなくサービスの質の向上に活かそうとする問題意識の強さと明確さであった。つまり、福祉・介護分野における情報化は、わが国における福祉・介護サービスのあり方を変革させる契機あるいは手段として大きな可能性を秘めていると言っても過言ではない。また、情報システムについても、ベンダーによる商品としてのシステムに満足することができず、素人といってもよい施設職員が自主的にシステム開発に取り組み、当該施設・機関における日常業務の基盤として、さらにはサービス改善のツールとして十分に活用されている事例を見出すことができたことも大きな成果であった。福祉・介護関係の施設・機関等において利用される情報システムは、システムそのものとしてはそれほど複雑ではなく、むしろ利用や運用に関するノウハウが大きな意味を持つ。それだけに、実践現場に一職員として身を置き、自らが用いるツールとして、現場ニーズを的確に見極めながら開発を続ける姿から、多くを学ぶことができた。さらに、こうしたシステムについては、比較的高価な市販の商品とは別に、無料のフリーソフトあるいは安価なシェアウエア(Shareware)としての可能性も見られるが、 サポートや開発の体制に大きな課題があることも事実である。最後に、IT化・情報化が、入所施設などのサービス利用者に関して大きな課題を提起していることを指摘しておきたい。今回、調査を行った身体障害者療護施設のように長期にわたる入所を余儀なくされ、ともすれば社会的な孤立に陥りやすい入所型施設の利用者においては、福祉情報機器はもちろんのことパソコンやゲーム機、携帯電話などの利用意欲が高く大きな期待が寄せられており、積極的な対応が必要である。以上のように、本研究においては、福祉改革の進行過程における福祉・介護分野の情報化の現状を把握し、先進事例等に関する情報の共有を図ることで、様々な立場にある関係者の問題意識を方向付けるとともに、現状認識を踏まえた検討によって、福祉・介護分野における情報化の中・長期的な方向を見定め、今後における政策的な課題等に関する認識を明確化することができた。これらを活用し、今後における政策的な展開の検討に、さらに取り組んでいくこととしたい。

公開日・更新日

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