準市場原理及びITを使った保育サービス配分マッチングに関する実証的研究

文献情報

文献番号
200200049A
報告書区分
総括
研究課題名
準市場原理及びITを使った保育サービス配分マッチングに関する実証的研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
駒村 康平(東洋大学経済学部)
研究分担者(所属機関)
  • 和泉徹彦(千葉商科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
2,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
少子高齢化の進展のなか,女性の労働市場の進出が一層期待される。一方で,その環境整備として不可欠な保育サービスの不足が問題となっている。特に都市部における保育サービスの受給のミスマッチが指摘される。これを解決するサービスバウチャー制を採用する準市場原理及び情報通信技術(IT)の活用が考えられる。本研究は、保育サービス市場への準市場原理導入、とりわけバウチャーについて理論的、実証的研究、さらに、情報コストを引き下げ、保育所と親の協力を可能にさせるITの導入が準市場メカニズムに与えるインパクトについて研究することを目的とする。
研究方法
研究方法は、保育政策に関する準市場原理の可能性についての文献研究及び国内保育サービス事業者調査、海外事例調査とITを使った保育サービスの利用実験のふたつから構成される。前者については、従来の文献研究に加え、スウェーデン、フィンランド、ノルウェーといった諸国へのヒアリング調査、国内の保育事業者へのヒアリング調査を行った。後者のITを使った実験については、以下の通り進めた。実験は2年計画であり、研究段階は4段階から構成される。第1フェーズは保育サービスを巡る当事者や研究者からヒアリング、第2フェーズは,サービスバウチャー制とITを絡めたシステムの全体設計、第3フェーズはシステムの開発を進め,実験を開始、第4フェーズは,システムの評価・分析、という内容である。平成14年度は第3・第4フェーズを進めた。競争的な制度が導入されたときの保育サービス事業者の組織・経営により深く踏み込んだ分析のため、東京都認証保育所を運営するサービス事業者等の協力を得て,実証実験を実施した。
結果と考察
本研究は、①「保育サービスにおける準市場メカニズム、特に保育バウチャーに関する理論的実証的研究」と②「保育サービスにおけるIT利用の可能性およびその実験」という二つの研究項目を結びつけた点に特徴がある。①「保育サービスにおける準市場メカニズム、特に保育バウチャーに関する理論的実証的研究」 就学前教育と保育の統合は、知識経済社会で国民の基礎的能力拡大という視点で「エデュケア」という形で、スウェーデン、フィンランド、ニュージーランド、英国などで進んでおり、国際的な潮流である。就学前教育・保育は私的財の側面とともに児童に対する良好な育成環境の保障という意味で、準公共財・価値財的側面をもっている。そのため、就学前教育・保育を統合したシステム下で、家計による選択の保障とサービスへのアクセス保障、一定のサービス水準の保障について、政府が関与する必要がある。しかし、サービスの生産・提供まで公が直接行う必要はなく、多様な事業者に競争的に供給させた方が望ましい。このように、公的なフレームワークの中に、多様な事業者によるサービス提供と家計の保育サービスを選択を保障する仕組みを準市場原理と定義して、通常の市場メカニズムと峻別する必要がある。準市場原理のひとつの形態であるバウチャーは慎重に設計されることにより、再分配や質の保障など望ましい効果を達成できる。こうした選択システムに加え、利用者がサービス内容について参加・意見を述べる参加システムの導入によって、よりサービスの質を高めたり、情報の非対称性の問題を克服できる。②「保育サービスにおけるIT利用の可能性およびその実験」保育協同支援システム(NCSS)の実証実験は,サービス事業者と利用者が日常的にITを媒介にしてやりとりを行うことを,ペーパーレスの保育バウチャー決済システムを構築するときの導入モデルの一部として提示する目的で実施された。NCSSの機能は,現時点では利用者と保育サービス事業者の
コミュニケーションを円滑にする機能に限定されている。これは保育バウチャー導入前に行政が日常的に利用者と接触する必要性が無いためである。もちろんNCSSがそのままバウチャー決済システムに移行できるということではなく,従来存在しなかったITによる手続きが日常的に実現可能であることを実証することに意味があった。本研究は,ITシステムに馴染みのない保育の現場にて実証研究を行う先駆的な試みであったため,利用者や保育士から十分な理解を得られたとは言えない。技術的,人的,運用的に残された課題も存在する。しかし,日常的に保育所でITシステムを運用するという大きな目標は達成することができた。
結論
報告書全体のインプリケーションをまとめる。・準市場原理、バウチャー方式による保育サービスの選択システムは、慎重な設計を行えば、十分機能する。・保育サービスと幼稚園教育を就学前ケア・教育として統合する。・バウチャーの使用対象は、認可保育所、幼稚園、無認可、その他一定の質的条件を満たしてれば使用可能とする。・バウチャーはすべての児童が受給可能とする。専業主婦世帯の児童も、就学前教育、子育て相談、援助のために一定額のバウチャーを受給できる。ただし、障害などの特別にニーズのある場合や親の就業等の実態にあわせて給付額を変動させる。また、補助率は世帯収入によって複数率とする。・バウチャーを使うことのできる保育サービス提供主体は、公立、企業、NPO、親の協同組合、地域の多様な組織体など多様な形態を認める。・バウチャー導入とともに、親が保育所経営に参画する仕組みを導入する。・ITを利用したバウチャー決済システムの導入。・保育協同支援システム(NCSS)の実証実験は保育の現場で日常的にITシステムを運用する意味で成功した。・Webカメラを保育所に導入することは,防犯措置を講じたい・保育サービスの質を保証したいという経営者のニーズ,子どもの生活を見守りたいという両親のニーズからは肯定的に捉えられている。・子どもの人権擁護,ネットワークセキュリティへの不安からはWebカメラを否定的に捉える意見もある。

公開日・更新日

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