EU諸国とアメリカにおけるSocial Exclusionと参入支援施策についての総合的研究

文献情報

文献番号
200200047A
報告書区分
総括
研究課題名
EU諸国とアメリカにおけるSocial Exclusionと参入支援施策についての総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
福原 宏幸(大阪市立大学大学院経済学研究科・教授)
研究分担者(所属機関)
  • 岡本 祥浩(中京大学商学部・教授)
  • 小玉 徹(大阪市立大学経済研究所・教授)
  • 嵯峨 嘉子(神戸親和女子大学文学部・専任講師)
  • 庄谷 怜子(神戸女子大学文学部・教授)
  • 都留 民子(広島女子大学生活科学部・教授)
  • 中村 健吾(大阪市立大学大学院経済学研究科・助教授)
  • 中山 徹(大阪府立大学社会福祉学部・教授)
  • 檜谷 美恵子(大阪市立大学大学院生活科学研究科・助教授)
  • 平川 茂(四天王寺国際仏教大学人文社会学部・助教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
7,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では、社会的援護を要する人々(ホームレス、貧困者、アルコール依存者、外国人への排除や摩擦、家庭内暴力・虐待、高齢者の自殺や孤独死など)の問題が広がりつつある。こうした問題の解決に向けて緊急の社会福祉施策が求められている。他方、EU諸国やアメリカでも同様の問題が発生しており、すでに多くの取り組みが進められてている。とくに、EU諸国ではこれらの人々は「社会的に排除された人々」として捉えられ、Social exclusionをキーワードとして理論的整理がなされるとともに、多様な施策の展開がなされている。私達の研究の目的は、まず、これらの理論についての研究を深めるとともに、イギリス、ドイツ、フランスそしてEUレベル(たとえばEU委員会)における具体的政策とその実施状況について、調査することにある。また、これとの比較において、アメリカでの施策とその実施状況についても調査を行う。さらに、これらの国における「排除された人々」の一類型であるホームレスの研究をこれまで行ってきたが、その過程で各国の行政機関、支援NPOとの交流を深めてきた。したがって、このsocial exclusion問題の研究においても、これらの人脈を大いに活用することで、「現場」レベルにまで掘り下げた分析が可能となる。
研究方法
今回の研究にあたって、主任研究員の他8名の分担研究者によって研究組織を構成し、各国別に小グループを編成している。理論研究およびEUレベルの政策:福原(主任)・中村・岡本。フランス担当:福原(主任)・都留・檜谷。イギリス担当:中山・小玉・岡本。ドイツ担当:中村・庄谷。そしてアメリカ担当:平川。さらに、フランスに関してはパリ社会福祉図書館のMonique Chravel氏とパリ在住の甲田充子氏、ドイツについてはドイツ在住のYoshiko Fukuda-Knuttgen氏・丹後京子氏・三浦まどか氏、そしてアメリカについてはUCLAの都市貧困研究センターのMatthew Marr氏に、資料収集と研究補助を依頼した。1年目は、これらの小グループによって文献収集とその分析を進めるとともに、現地での関係機関への訪問とインタビュー調査を実施した。2年目は、それらの調査データの整理と、補充調査を実施し、報告書をまとめた。
結果と考察
ドイツ、イギリス、フランス、欧州連合そしてアメリカでの現地調査を実施した。これによって、各国のホームレスなど社会的排除の実態、そして行政機関、支援NPOの活動について、各国それぞれ10~15団体(および研究者)、合計約50カ団体を訪問し、聞き取り調査を行った。それによって、各国のこれらの問題への取り組みと政策の特徴を明らかにできた。以下では、研究結果について4点にわたって整理しておきたい。第1に、EU諸国ではホームレス概念が日本と比べ広く捉えられ、支援政策も単に路上生活者に限定せず、「社会扶助施設・緊急施設・支援団体に宿泊する者」、「家族、友人宅に寄宿する失業者」、母子施設などの「若年母子世帯」なども含まれる。このことから、支援事業は、一般法の枠内で行われている。これに対し、アメリカは、おおむねEU諸国と同様のホームレス概念であるが、政策は路上生活ホームレスに対する特別法の枠内で行われている。第2に
、EU諸国では、1980年代のフランスで用いられるようになった「排除」という概念を欧州委員会が採用することを通して、「社会的排除」という言葉が普及するにいたった。欧州委員会が用いる「社会的排除」とは、人々が困窮状態に陥る過程と困窮状態の多次元性(低所得の問題のみならず、健康、教育機会、就労能力、住宅、社会関係などの次元を含む)とを強調する概念である。EU加盟国は、2001年から2年ごとに「貧困と社会的排除に抗するナショナル・アクション・プラン」を欧州委員会に提出することが義務づけられており、「社会的排除」の国際比較を可能にするための共通の指標作りもすでに始まっている。そして、EUにおいてはホームレス状態は、「社会的排除の極限的な形態」として位置づけられるにいたった。第3に、EU諸国では、ホームレスを捉える視点また政策理念(「社会的排除」と「社会への参入」)では共通しているが、具体的政策はいくつか異なっている。ドイツでは連邦制国家であることから、各地域ごとに政策が多様である。イギリスはブレア政権のもとソシアル・エクスクルージョン・ユニットが組織され、重点的政策課題として取り扱われている。また、フランスでは反排除法の制定(1998年)にともなって、従来の支援策を継承しつつさらに強力にそれを推し進めようとしている。第4に、EU諸国・アメリカに共通していることだが、民間のNPO組織による支援活動がきわめて活発に行われていることも注目に値する。これは、多くの市民が、ホームレス問題を社会全体の重要課題であると認識していることの現れであろう。以上のような研究成果については、『総合研究報告書』、ならびに小玉徹/中村健吾/都留民子/平川茂編著『欧米のホームレス問題(上)―実態と政策―』法律文化社(2003年)において全体像を提示した。
結論
「社会的排除」という概念が、長期の大量失業に悩まされているEUの加盟国において、しばしば低所得と同一視されがちな旧来の「貧困」概念に代わって、福祉政策上の新しいアプローチを生み出していることが、この研究では確認できた。その際、EUにおいては、長期の失業に対処しなければならないという課題認識が政策担当者から支援のNPOにいたるまで共有されている点こそが重要であると思われる。日本において「社会的排除」を語る場合、具体的にいかなる社会問題に対処しようとしているのかという点について、一定の社会的なコンセンサスが形成されなければならないであろう。他方、EUにおける「社会的排除」をめぐる政策実践からの教訓を述べるならば、いくつかのNPOが指摘しているように、「社会的排除」が「通常の労働市場からの排除」に限定されがちになり、そのことによって、公的な雇用の創出策を回避する政策傾向が見いだされる。そうすると、たとえばホームレス生活者のような通常の労働市場での就労がさしあたっては困難な人は、支援策からこぼれ落ちていく危険性があると言わざるをえない。この点は、日本において野宿者への支援策を考案する際の教訓にするべきであると思われる。
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