国民皆保険制度の戦略的運営の研究 (H13-政策-008)(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200043A
報告書区分
総括
研究課題名
国民皆保険制度の戦略的運営の研究 (H13-政策-008)(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
西田 在賢(国際医療福祉大学国際医療福祉総合研究所、岡山大学大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 尾形裕也(九州大学大学院)
  • 橋本英樹(帝京大学、岡山大学大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
これまで国内・国外を通じて、医療保険制度に関する研究は主に各国制度の比較研究であった。しかし、各国制度はそれぞれの歴史を背景として成立しているため、一概に比較しうるものではなく、国民性・歴史性の違いから社会保険制度によって守られるべき公益・価値の内容もおのずから異なっていると考えられる。また一方で、これまでの研究には、計量経済学的なモデルを用いて需要動向や可塑性などを検討したものが見られるが、その前提とする消費者・サービス提供者の行動原理は功利主義的なものであり、制度運営の維持といった組織的目的性(ミッション)やライフステージなどにより異なる受療行動心理を反映したものとはいいがたい。このように一国の医療保険制度の研究が整わない中、現在のわが国医療保険制度改革では医療と保険の論議が個々別々に進められており、両者を統合して評価する議論がない。そこで、本研究では、医療における国民皆保険制度の安定的維持運営というミッションを軸として、国民の医療保険資金のポートフォリオ管理的枠組みを採用したモデルを使って、経営管理学的視点からの分析を行ない、政策立案を支援するための基礎資料を提出することを目的としている。
研究方法
研究アプローチの概要は次の通りである。まず、米国マネジドケア保険事業の考察から医療給付条件別資金管理マトリックス表を作成する。一方、わが国の場合にはそのような給付条件別資金管理は為されておらず、最も費用のかかるフリーアクセス・出来高払い制の給付条件を原則としているので、わが国国民被保険者を疾病リスク・医療ニーズ・ライフステージ別による保険給付条件の妥当性を再検討する。具体的には、患者調査と社会医療診療行為別調査報告の個票データを調べ、かつ、両方の統計結果を組み合わせることで疾病リスク・医療ニーズ・ライフステージ別での保険医療費支出状況を調べ、それら結果についてフリーアクセス・出来高払い制以外の給付条件セグメントに振り分ける妥当性について検討する。また、振り分けが成るとして、セグメント毎に医療の現物給付にかかる資金を概算することで、国民皆保険制度を運営するために必要な医療保険資金について見直しの余地を探る。すなわち、給付条件セグメントの特徴を踏まえた戦略的ポートフォリオ管理の可能性を検討することとなる。また、このような医療保険資金管理体制が、既に挙がっているさまざまな医療保険制度の改革試案とどのように整合するかについて調べると共に、それら試案を実施した場合に、保険制度運営に与える経済的影響を概算することで定量的に比較検討できることを確かめる。さらに、人口動態予測を踏まえ、システムダイナミクス手法を利用した国民皆保険制度の将来的な持続可能性をシミュレーションする。このシミュレーションモデルの開発過程では、医療提供側の反応、つまり医療機関の経営行動仮説をモデルに取り込む必要があるので、実際に医療機関の経営に携わっている責任者たちの意見を聴取・討議して、想定される改革シナリオが彼らの経営にどのようなインパクトを与え、経営責任者達はどのような対応を採りうるかを調べることとなる。以上のような調査・検討を通じて、国民被保険者・政府保険者・医療提供者の間で合意を形成するという、国民皆保険制度の持続を諮るために必要な情報基盤の在り方についても併せて検討する。
結果と考察
1)社会保険方式による医療保険の経営管理モデル調査研究:研究初年度の昨年の報告書に取りまとめたとおりである。2)経済リスクを念頭に置く給付条件セグメント分け
した医療保険管理の可能性調査:研究初年度の昨年の報告書に記したとおり、米国マネジドケア保険事業の考察から得た医療保険の経営管理的モデルは、資金投入リスク管理の分野で発達したポートフォリオ管理に相似し、一般の医療保険資金管理に援用が可能であると考えられた。そこで、平成13年夏までに3名の研究協力者を得て「ポートフォリオ経済リスク算定」研究班を発足させた。そして、同年9月末には研究作業の支援を委託する矢野経済研究所の主催により、有識者を招いた研究討論会を持った。このときの成果をもとに研究協力者各自が平成13年度報告書に中間報告を行ったが、平成14年度は計6回の班会議を開き、医療保険事業における給付条件セグメントの分析や一般化保険資金管理理論の検討を行った。その成果の多くは次の3)の研究に反映している。3)医療保険資金のポートフォリオ管理の有用性検討:今年度は、2)で進めたコンセプトの適用可能性を具体的に検討するために、医療保険の保険者から見た経済リスクを反映する給付条件セグメントに分けられたマトリックスの上に、被保険者患者を分類して医療保険資金がどのようになるかを概算することにした。そこで、利用できる既存の統計データとして選び出した「患者調査」および「社会医療診療行為別調査」につき平成13年夏から関係部署に使用申請手続きを行なっていたが、最終的に使用許可を得て分析作業に入れたのは平成14年5月のことであった。既存の統計のままではわずかに120分類程度の疾病名別医療費推計にしかならないが、今回の検証では患者調査と社会医療診療行為別調査の個票を当たり、入院外で1123分類(病名・年齢・初再診別)、入院で1202分類(病名・年齢・在院日数6ヶ月超え如何、手術の有無別)の細かさで一日当たりの診療費の推計を試みた。結果は、疾病リスクや医療ニーズやライフステージを考慮した上で「医療保険給付を一律にフリーアクセス・出来高払い制の条件にする必要はない」ことを示唆するものであった。詳しくは分担研究者橋本英樹の報告の通りである。なお、本研究期間内では、全国平均保険料なるものの試算や、システムダイナミクス手法による国民皆健康保険制度の将来的持続可能性については検討を行なうに及ばなかった。なお、このたびの2)と3)の研究については、平成15年2月に岡山大学医学部において公開セミナーを開催して、その成果を発表し、参席するフロアーの有識者の人達から有益な意見を得た。このときの成果を踏まえて取りまとめたものを「国民皆保険制度の戦略的運営の研究・・・わが国医療改革の余地を探る」と題して本年度報告書に載せた。4)保険医療機関における経営行動仮説の検証:昨年に発足した40~50歳台の医師自らが経営に当る、病床規模が比較的揃った全国の急性期病院8箇所の院長が有識者として加わる「病院経営行動仮説」の研究班での討論から、医療機関の経営行動以前の問題として「病院経営責任の所在」の問題が浮かび上がった。このことから病院経営行動仮説の研究にあたり、病院経営の「ガバナンス」と「リーダーシップ」のふたつについて調べる事とした。前者については、研究協力を仰ぐ病院数を増やして最終的に9箇所の賛同者を得て、平成14年12月には急性期に特化して成功する国立熊本中央病院に集まり、同病院長を交えた病院経営の意見交換の場を持つとともに、研究分担者が病院経営の「ガバナンス」を問う質問票素案を用意してその内容について議論した。また後者については、新たに研究協力者が1名加わり、病院経営リーダーシップ調査のための質問紙を独自に設計した。そして、岡山大学医学部関連病院長会の協力で会員病院258箇所に宛てて質問票を郵送し、約4割に当る105箇所から回答を得て、病院経営管理者のリーダーシップの意識についてまとめた。
結論
米国マネジドケアの考察から医療保険の経営管理的モデルの検討を続けたところ、資金投資リスク管理の分野で発達したポートフォリオ管理に相似した保険財政管理手法が、わが国皆保険制度の保険資金の管理に援用が可能と考えられる。具体的には、医療保険給付を一律にフリーアクセス・出
来高払い制の条件にする必要はないため、柔軟な現物給付と保険資金の管理を行うことで保険財政の効率的な運営を図りうるものと考えられ、このことが成れば、わが国国民皆保険制度の持続的運営に役立つものと考える。

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