年金課税の制度変更が社会経済に与える影響に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200042A
報告書区分
総括
研究課題名
年金課税の制度変更が社会経済に与える影響に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
酒井 英幸(財団法人年金総合研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 中里幸聖(財団法人年金総合研究センター)
  • 光行恭彦(財団法人年金総合研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
5,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
公的年金等控除を中心とした年金課税のあり方については、世代間・世代内の公平性に関する問題とその社会経済に与える影響の大きさから、政策課題として各方面で議論されているが、その制度を変更した場合の影響を具体的に分析することで判断材料を提供し、議論の実効性を高めることが本研究の目的である。
研究方法
昨年度は平成10年度の国民生活基礎調査の個票を再集計し分析したが、今年度は平成13年度分の調査も用いることで試算結果の信頼性を確認したうえで、現状の年金課税体系の枠組みにとらわれないようなケースや企業年金を公的年金と異なる取り扱いとするようなケースも試算した。具体的には、以下の3点に着目して検討を実施した。(詳細には15のケースについて試算を実施)●世代間・世代内バランスの不均衡を解消するために、公的年金等控除の位置付けの見直しを検討●社会保険である公的年金と、給与と関連性がある企業年金の違いを考慮し、課税段階において異なる対応を検討●上記のような年金課税の制度変更が、高齢者の消費等マクロ経済に及ぼす影響を検討
結果と考察
上記3点を踏まえた主な試算結果は以下のとおり。①世代間・世代内バランスの不均衡を解消するための課税体系見直し・公的年金等控除を公的年金等受給額だけでなく、所得金額全体の中で行う方法に変更(公的年金等控除を、公的年金等の「必要経費」といった位置付けから、「所得控除」相当部分に位置付けを変更し、他の所得と合算した所得の水準に応じて控除金額を減額する仕組みへ変更)現役世代と高齢者世代の世代間バランス、及び高齢者世代の収入格差に基づく世代内バランスの不均衡を解消する結果となった。・公的年金等控除の計算方法(控除率等)を給与所得控除と同一となるように変更高齢者世代の収入格差に基づく世代内バランスの不均衡解消には至らないが、現役世代と高齢者世代の世代間バランスの不均衡については解消可能となった。②社会保険である公的年金と、給与と関連性がある企業年金の違いを考慮し、課税段階において異なる対応を検討現行制度では、公的年金等受給額と同様に企業年金受給額も雑所得として取扱い、公的年金等控除の控除対象としているが、ここでは企業年金受給額の取扱いを変更する方法を検討した。具体的には、現役時代の給与の延長にあるといった性格もみられる企業年金受給額については、現在の給与所得と合算し現行の給与所得の控除体系に基づき対応する場合と、企業年金を給与所得と同様に扱うが過去勤務分に対してのものであると位置付け、現在の給与所得とは別枠で企業年金のみ別途給与所得の控除体系と同様に課税する方法である。公的年金等控除を見直す複数のケースのいずれも所得税は増加することとなるが、そのなかで企業年金受給額を雑所得として取扱う場合とその取扱いを変更する場合を比較すると、後者の方が所得税増加額は若干減少する傾向にあった。③上記のような年金課税の制度変更が、高齢者の消費等マクロ経済に及ぼす影響公的年金等控除をいろいろなケースに基づき見直した場合でも、高齢者の消費やマクロ経済に及ぼす影響はそれほど大きくはならない結果となった。研究結果の考察としては、今年度研究を発展させたことで、昨年度以上に年金課税の問題点解消に有効と考えられる試算結果が複数のケースについて導き出されたため、「年金課税の制度変更が及ぼす具体的な影響を定量的に分析し、判断材料を提供することで議論の実効性を高める」といった本研究の目的はより充足したものと考えられる。
結論
以上のような検討を踏まえると、本研究全
般は以下のようにまとめられる。(1)試算結果の信頼性本研究では、国民生活基礎調査の個票データを再集計して試算を行ったが、国民生活基礎調査は全国の世帯を幅広くカバーしている指定統計調査であり、平成10年と平成13年の調査で同様の試算をした結果、大きな隔たりもなくほぼ同様の値が得られた。これらのことから、本研究の試算結果は概ね信頼できるものと考えられる。(2)年金課税の問題点への対応・問題点全般への対応世代間・世代内バランスの不均衡の解消という目的からは、公的年金等控除の控除方法を、公的年金等受給額だけでなく所得金額全体へ変更したうえで控除水準を調整するような対応が考慮に値する。ただし、そのような仕組みを所得課税の体系上どう位置付けるかについて、さらに検討が必要である。・焦点を絞った対応現役世代との世代間バランスの改善に焦点を絞って対応するならば、公的年金等控除を給与所得控除と同様の取り扱いとするように変更する対応が考慮に値する。なお、企業年金については公的年金とその性質が異なることから、その課税段階において異なる対応とすることも一つの方法と考えられる。(3)高齢者の消費やマクロ経済への影響
公的年金等控除をいろいろなケースに基づき見直した場合でも、高齢者の消費やマクロ経済に及ぼす影響はそれほど大きくはならない結果となった。

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