保険者機能の在り方に関するモデル研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200041A
報告書区分
総括
研究課題名
保険者機能の在り方に関するモデル研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
大江 和彦(東京大学医学部附属病院企画情報運営部 教授)
研究分担者(所属機関)
  • 尾形裕也(九州大学医学部大学院医学研究院 教授)
  • 石原謙(愛媛大学医学部附属病院医療情報部 教授(日医総研主席研究員))
  • 肥田淳司(日本航空健康保険組合 常務理事)
  • 古井祐司(三菱総合研究所 主任研究員(東大病院非常勤講師))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
14,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年の医療の高度化・専門分化の中で、医療機関情報に対するニーズは高まっている。しかしながら、必ずしも必要な情報を入手し、適切な受診につながっているケースばかりでなく、医療分野おける情報の非対称性や被保険者(患者)の大病院志向などもあり、医療機関情報と適切な受診がマッチしていない状況にある。一方、医療資源の効率的活用などの観点から、近年、法制度上からも医療機能の分化が進められている。医療機能分化に基づき相互の連携が推進され、各施設の特性が生かされるためには、医療機関にとっても適切な情報を被保険者へ提供し、被保険者が適切な受診をすることが望まれる。本研究では、患者紹介などの際に必要とする連携先医療機関に関する情報ニーズの把握と実際の情報提供、情報入手の状況を把握するとともに、保険者機能を活用した被保険者への情報提供の可能性を探ることにより、医療情報の活用を通じた医療機関相互の連携推進、被保険者の適切な受診の推進につなげるための基礎資料とすることを目的とした。なお、制度改正に基づく医療機関の機能分化(役割分担)に関する現状把握や被保険者教育という視点から、保険者機能を活用したかかりつけ医の推進などについても併せて検討した。
研究方法
(1)研究の推進にあたって、主任研究者・分担研究者4名、協力研究者(医療政策に関する学識者・医療団体・経済団体・健康保険組合・被保険者など)のメンバーからなる委員会を設置、定期的に開催し、委員会での意見や議論を活用して、具体的かつ実証的な研究を行った。(2)研究の狙い、実施内容及び方法、体制、スケジュール等を検討し、研究計画を作成した。(3)病院;日本病院会の全国会員病院、熊本市医師会の会員病院(約2,800病院)、診療所;熊本市医師会の会員診療所(約550診療所)(全国のほかに医療連携の先進地域として熊本を含めている)を対象とし、「医療機関の機能分化と連携推進に関するアンケート調査」を実施した。医療連携を進めるための情報、連携先の医療機関からの情報入手状況及び患者への情報提供状況、医療連携を進めるための情報、被保険者・保険者へのアドバイスなど、医療機関相互の連携に必要な医療機関情報及び被保険者への情報提供可能性を把握した。(4)医療連携を円滑に実施している病院・診療所に対して、ヒアリング調査を実施し、医療機関の機能分化、医療機関相互の連携の現状、想定した疾患(診療科)における連携先医療機関との連携内容・紹介時の患者・家族への説明内容、医療機関相互の連携に必要な医療機関情報、被保険者(患者)の医療機関の賢い利用法に関するアドバイズなど、医療機関の機能分化と医療機関相互の連携の現状を把握した。(5)“かかりつけ医"“かかりつけ歯科医"を持つことを進めるためのポイントについて、被保険者(患者)、医療専門家の両サイドから検討した結果に基づき、保険者機能を活用し、被保険者へ“かかりつけ医"“かかりつけ歯科医"を持つことを推進した。(6)「被保険者の医療情報に関するニーズ把握調査」結果34,808件のデータを活用して、医療機関情報に対するニーズについて、属性、ライフステージ、場面(疾病など)、健康意識・行動の視点からの検証を加えた。また、情報の種類別にニーズと入手状況との比較を行い、医療機関情報の被保険者ニーズとの適合性の検討を行った。(7)最後に、調査結果の整理を行った。また、委員会における議論・意見も併せて、保
険者機能を活用した医療情報の社会的活用について検討を加え、課題を整理した。倫理面への配慮として、ニーズ把握のための調査結果は氏名を外すとともに、個別集計などは行わないこととした。
結果と考察
結果:医療機関へのアンケート調査に基づき、医療機関相互の連携に必要な情報と医療機関相互及び医療機関・患者(被保険者)間の情報連携の現状が把握され、この両者の情報連携を併せて進めることが、医療機関相互の連携推進と患者(被保険者)の適正受診に重要であることが示唆された。また、医療機関(病院・診療所)へのヒアリング調査に基づき、医療機関の機能分化と医療機関相互の連携の現状が把握された。専門情報の共有などが医療連携のポイントであると同時に、患者(被保険者)に安心感を与え、地域(かかりつけ医)での継続的な管理を可能とする医療機関・被保険者間の情報連携が重要であり、保険者機能の活用の可能性が示唆された。さらに、“かかりつけ医"“かかりつけ歯科医"を推進するポイントを被保険者(患者)、医療専門家の両サイドから検討・作成し、本研究フィールドの60以上の健康保険組合を通じて約300万人の被保険者へパンフレットを配布したと同時に、保険者のコーディネートによる被保険者教育及び医療連携推進の可能性が提示された。一方、因子分析の手法等により、医療機関の情報ニーズと入手状況との乖離を把握した。また、情報ニーズと入手可能な情報の乖離が存在する現状で、保険者機能を活用した、新たな情報提供及び被保険者教育の重要性が示唆された。保険者が、被保険者・医療機関間の情報連携を推進する役割を担い、被保険者の適正受診及び医療機関の機能分化に応じた連携推進に寄与することにより、結果としてニーズに合ったサービスの需給につながる可能性が示唆された。考察:(1)被保険者と医療機関を結ぶ役割;本研究班では、保険者、医療機関・団体、被保険者の参加のもとで保険者機能の可能性を検討した。被保険者(患者)が情報を得て、適切な受診・医療サービスを受けられるためには、被保険者教育が重要であることが示唆された。保険者は、単なる医療機関情報の収集・整理・提供だけでなく、医療機関と連携して被保険者へ教育を含む情報提供を行うことが有意義であることが示唆された。(2)事業スキーム;今回の研究で、数万人の被保険者からニーズの吸い上げを行った。医療機関情報だけではなく、医療機関への要望や意見などに関しても、保険者が定常的に被保険者から吸い上げて、それを医療機関へフィードバックする。医療機関は、そのニーズに基づき業務改善や、必要があれば時には被保険者へ回答する。単に医療情報を被保険者へ提供するだけでなく、このような医療機関と被保険者をとりもつ役割を果たすことは、被保険者の適正受診及び医療機関の連携推進に寄与するだけでなく、被保険者と医療機関との情報連携を進め、結果としてニーズに合ったサービスの需給につながる可能性がある。(3)モデル事業の実施及び評価;今回の研究で示された保険者による、被保険者・医療機関間の情報連携の推進モデル事業(仮称)をモデル事業などとして実践されることを期待したい。本研究フィールドの60以上の健保組合が、医療団体などと連携してこの先駆的なモデルとなり、事業の評価を含めて今後の保険者機能の活用の可能性を示されることを望む。
結論
本研究では、医療機関の機能分化に基づく連携の現状や必要となる情報、被保険者への教育を含む情報提供の重要性が把握された。そのような背景の中で、保険者が、被保険者・医療機関間の情報連携を推進する役割を担い、被保険者の適正受診及び医療機関の機能分化に応じた連携推進に寄与することにより、結果としてニーズに合ったサービスの需給につながる可能性が示唆された。
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