福祉契約と利用者の権利擁護に関する法学的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200039A
報告書区分
総括
研究課題名
福祉契約と利用者の権利擁護に関する法学的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
本澤 巳代子(筑波大学社会科学系)
研究分担者(所属機関)
  • 堀 勝洋(上智大学法学部)
  • 新井 誠(筑波大学社会科学系)
  • 秋元美世(東洋大学社会学部)
  • 菊池馨実(早稲田大学法学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
3,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、介護保険制度および支援費制度のもとにおける福祉契約のあり方、ならびに判断能力が不十分な痴呆高齢者や知的障害者等のための権利擁護のあり方について、民法および社会保障法の総合的観点から検討しようとするものである。
研究方法
主任研究者および分担研究者を中心に、社会保障法および民法の若手研究者をメンバーとして「福祉契約研究会」を立ち上げ、平成14(2002)年度は毎月1回程度のペースで研究会を開催し(合計9回、9研究報告)、諸外国の制度に詳しい国内外の研究者、わが国の福祉契約と権利擁護の実態に詳しい研究者および弁護士等を招いて質疑応答を重ねるとともに、福祉契約と権利擁護をめぐる実態面の問題点を整理し、法学的観点から検討を加えてきた。その中で明らかになってきた福祉契約と権利擁護をめぐる現場での実態を確認し法学的考察を行うために、最も利用者数の多い訪問介護事業者を対象としたアンケート調査を、東京都と共同で実施し、その集計結果を法学的観点から検討した。
結果と考察
福祉契約研究会における研究報告および質疑応答によって得られた研究結果は、①措置から契約への移行により生ずる問題に対応するため、福祉現場において多くの取り組みが行われてきたこと(契約書モデルの作成、特別養護老人ホームの入所者(介護保険の非対象者)の退所支援、地域福祉権利擁護事業を核とした福祉サービス利用援助事業の対象者の拡大やサービス範囲の拡大など)、②ドイツの介護保険制度下における利用者保護のための試みとして、施設入所の権利保護の強化と入所契約書の透明性確保のためにホーム法が改正され、介護サービスの質の保証と消費者保護の強化のために介護保険法が改正され、一定の成果が期待されていること、③福祉契約は、一方では私法上の契約として消費者契約法や成年後見制度の対象とされ、利用者は一定の法的保護を受けることができるが、他方では、福祉契約が利用者にとって生活上必要であり、継続的に利用する必要があること、事業者の選択に必要な情報を得また取捨選択するためにも、契約内容を理解し正当な権利行使をするためにも、より手厚くまた利用しやすい法的保護の制度が必要であることなどが明らかとなったことである。そして、これらの研究結果を考察した結果、今後における福祉契約と権利擁護のあり方としては、地域福祉権利擁護事業ないし福祉サービス利用援助事業の適用対象と適用範囲を拡大し、成年後見制度と融合させていく必要があること、福祉契約の利用者のより迅速な権利救済を可能とするために、行政的な紛争解決システムの確立と運用が必要であることなどが明らかとなった。 訪問介護契約に関して、約1800の介護保険指定事業所を対象に東京都と共同で実施したアンケート調査の集計結果から明らかになったことは、①訪問介護事業所のうち介護支援を実施している場合には、訪問介護契約と共に介護支援契約が締結されていることが多いこと、②契約者本人の能力が衰えている場合、大半のケースで何らかの形で家族が関与しており、成年後見制度および地域福祉権利擁護事業の利用が進んでいないこと、③契約の説明段階で利用者の関心があまりないキャンセルについて後に問題となっていることがあり、そのため契約の説明段階で事業者は、対象サービスの範囲や料金と共に重点的に説明していること、④契約違反により損害賠償が問題となることはなく、事故等による人損・物損による損害賠償の問題は保険加入によってかなり回避されていること、⑤東京都のモデル契約書は都の介護保険指定事業者
向けガイドラインに掲載されているにもかかわらず、事業所単位では、その認知度が全体の約3分の2程度にとどまっていることなどである。
結論
福祉契約は私法上の契約ではあるが、その特性からして利用者の権利擁護のためにより強力な関与が必要であること、とくに契約締結のための支援、契約内容の履行確保を保証するための支援、契約をめぐって生じた問題より迅速に解決するための支援などが必要である。それゆえ、福祉契約と利用者の権利擁護をめぐる諸問題を法学的に検討するに当たっては、法解釈学の領域にとどまることなく、立法的解決や行政的解決をも視野に入れた総合的な検討が必要である。そのためには、福祉現場における契約や利用者の権利擁護の実態を契約書のサンプリング調査や事業者・利用者に対する聞き取り調査などによって明らかにするとともに、2003年11月の日本社会保障法学会シンポジウムでの研究報告と質疑の成果を踏まえ、福祉契約の抱える法的諸問題を現実的に解決するために必要な具体的方策を、福祉契約研究会において引き続き共同研究していくことが重要である。

公開日・更新日

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