かかりつけ医の診療プロセスとアウトカムに関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200038A
報告書区分
総括
研究課題名
かかりつけ医の診療プロセスとアウトカムに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
福原 俊一
研究分担者(所属機関)
  • 平井愛山(千葉県立東金病院)
  • 筧善行(香川医科大学)
  • 松村真司(松村医院)
  • 池田俊也(慶應義塾大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
6,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
21世紀の我が国においてかかりつけ医に求められる新しい役割、新しい役割機能を果たす際に求められる医療の質、その医療の質を評価する指標の開発と評価、そして医療の質を標準化し改善することによってもたらされる国民レベルの健康アウトカムへの影響および医療経済効果を定量的に分析すること。具体的には1)診療シナリオ(Vignettes)を活用した診療の質測定に関する研究2)医療の質指標(Quality Indicator: QI)を活用した診療の質測定に関する研究3)アウトカム指標としての患者満足度の開発と検証に関する研究、4)診療の質改善に関する研究(高齢者排尿障害)5)ITを用いた糖尿病疾病管理の長期的な費用対効果に関する研究を行なった。
研究方法
1)Vignettesを活用した診療の質測定に関する研究:全国の11病院の研修医を対象として問題解決能力を中心とした診療の質測定、診療パターンのばらつきの測定、およびこれらに関連する要因の研究を開始した。既に研修医を対象とした第一回の測定を初年度に実施することができた。2)QIを活用した診療の質測定に関する研究:千葉県東金地域におけるITを活用した地域医療ネットワークのモデル事業は、これは厚生労働省のe-Japanプロジェクトおよび千葉県の事業として継続している。平井らが構築したこの地域ネットワークを活用し、QIをこのシステムに組み込む検討を行った。3)アウトカム指標としての患者満足度の開発と検証に関する研究:米国在住日系人および日本在住日本人のかかりつけ医の医療への満足度に関する二国間比較研究に関するデータ解析を行なった。かかりつけ医の患者満足度測定尺度開発のための質的研究作業を行った。4)診療の質改善に関する研究:かかりつけ医による高齢者の尿失禁の病態評価と治療方針の決定、患者家族への指導に関する医療の質を改善するための学習ツールの開発に関する研究を開始した。初年度は高齢者の排尿状態の実態を把握し、地域における排尿管理法のばらつきについて検討した。5)ITを用いた糖尿病疾病管理の長期的な費用対効果に関する研究:地域医療ネットワークをフィールドとして糖尿病診療の実態と質の改善により予測される経済効果をシミュレーションで行う研究計画を作成した。
結果と考察
1)Vignettesを活用した診療の質測定に関する研究:これまで測定尺度の開発と検証、説明会などを行い、3月には第一回の測定を実施した。(参加率約73%)現在結果のスコアリングの標準化、またデータ解析のためのプログラミングなどを行っている。2)QIを活用した診療の質測定に関する研究:初年度は、初期にとりこむQIの選択を行い基本的薬物療法と糖尿病に焦点を当てることになった。このQIを電子カルテに組み込み、QIを用いて診療の質を測定するプログラムを開発に関する作業を開始した。3)アウトカム指標としての患者満足度の開発と検証に関する研究:初年度は、入院治療に関する満足度尺度の開発、項目プールの開発および実際のフィールドを用いた信頼性と妥当性の検証などを実施した。その結果、より少数項目でより単純な概念構造を有する測定尺度に収束しつつある。また、外来患者の満足度の尺度の開発に向けた質的内容分析の結果、構成概念として外来診療満足度には医師による人間的対応が重要であることが共通していた。4)診療の質改善に関する研究:排尿障害の管理における地域間格差は顕著ではなかった。カテーテル留置およびおむつ着用時期は施設入居時や退院時が各々74.1%、73.7%と高率であり、施設でのカテーテル留置者、おむつ使用者の専門医受診率は32.6%、2.2%と少なかった。5)ITを用いた糖尿病疾病管理の長期的な費用対
効果に関する研究ITを活用した糖尿病疾病管理が既に報告された臨床効果を有すると仮定した場合、患者一人当たりの生涯にわたるIT導入コストが一定以内であるならば、ITを用いた糖尿病疾病管理は一定の費用効果をもたらすものと推計された。考察:卒後研修の必修化、診療内容の情報公開が求められる時期にあって、医療のプロセスやアウトカムの科学的な評価方法を確立しておくことは重要であると考えられる。さらに、「測定なくして改善なし」といわれるように、医療の質、診療の質改善のためには、科学的な質の測定が前提となる。患者満足度に関する研究結果より、本邦において患者―医師コミュニケーションや医師の人間的側面についての質の評価が、かかりつけ医のプロセスとアウトカムの評価には重要であると考えられた。満足度の構成概念の中には、医療行為の適切さも重要な要因であると患者は考えているが、これらを患者自身が評価していくことは難しいと思われる。これについては本研究事業のVignettesやQI研究プロジェクトで開発中である。ITを用いた糖尿病疾病管理の効果ならびに費用対効果をより正確に推計するためには、短期的なアウトカム指標の変化やITの導入費用とランニングコストの調査が必要であると考えられた。
結論
診療のアウトカム評価研究に比較し、診療のプロセスあるいは質の評価や改善方法に関する研究は我国で著しく遅れている。本研究では診療のプロセスの定量的な測定を可能にするいくつかの手法を具体的なプロジェクトの中で行っている。VignettesやQIを活用した測定方法は、質評価方法の一部にしか過ぎないが、その端緒となることが期待される。かかりつけ医の診療プロセスの評価指標としての人間的対応およびコミュニケーション、またアウトカム指標として外来患者満足、等を測定する尺度は今後のかかりつけ医の医療サービス改善を検討する上で役立つものとなることが期待される。これらの知見をもとに適切な尺度を開発する予定である。ITなどの情報テクノロジーを用いた疾病管理の導入により、診療プロセスの向上、短期的および長期的な患者のアウトカムの向上、そして医療経済効果等がもたらされるかを検討することが、医療のIT化の評価にとって肝要と考える。

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