社会福祉士専門職教育における現場実習教育に関する研究

文献情報

文献番号
200200037A
報告書区分
総括
研究課題名
社会福祉士専門職教育における現場実習教育に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
米本 秀仁(北星学園大学)
研究分担者(所属機関)
  • 川上富雄(日本社会事業学校)
  • 高橋重宏(日本社会事業大学)
  • 高山直樹(東洋大学)
  • 中島修(日本社会事業大学)
  • 藤林慶子(東洋大学)
  • 宮城孝(法政大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
5,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、社会福祉士養成校における社会福祉援助技術現場実習の実習事前教育、巡回指導、事後教育の内容について現状を調査・分析し、これまでの教授法やスーパービジョン等のスキルを整理し、これを踏まえながら、時代の要請に応えるわが国の状況に合致した社会福祉士養成の実習教育体制の在り方を検討し、社会福祉士養成校における新たな学生に対する実習前後のスーパービジョン・システムを構築することである。社会福祉士は、福祉専門職の基幹として、国民生活と社会福祉に欠くことのできない職種となりつつあることから、資格取得後に人権尊重、権利擁護、自立支援の実践の推進者としての役割と機能を円滑に果たせる教育カリキュラムをその研究の目標としている。本研究により、実習教育担当教員のための研修プログラムの開発、現場実習の標準化をおこなうことが可能となり、実習指導の教育カリキュラムの内容充実が可能となる。さらに社会福祉士制度が福祉専門職の基幹であることから、その研究成果は、他の福祉専門職における実習教育の改善にも寄与できるものと考えられる。
研究方法
本研究は、主任研究者の総括により社団法人日本社会福祉士養成校協会実習委員会が中心となって研究を行った。本研究は、研究班会議を招集し、①養成校におけるスーパービジョン教育における学校が行う学生評価(コンピテンシー)、②実習教育におけるスーパービジョンのあり方の2点について、担当分担研究者・研究協力者により研究を実施した。初年度である今年度は、コンピテンシー班では、①養成校実習担当教員による実習事前学生評価項目の検討、②実習指導者へのBEI(Behavioral Event Interview)調査の実施、③①の結果等を踏まえた学校担当者へのフォーカスグループ、ブレインストーミングの実施、④①、②、③の結果等からコンピテンシー調査票素案の作成を行った。スーパービジョン班では、①養成校におけるスーパービジョンのエキスパートへのヒアリング調査、②分担研究者、研究協力者所属機関における実習等のシラバス、スーパービジョンの実施状況、課題等のヒアリング調査とその分析、③スーパービジョンに関する国内外の文献サーベイを行うとともに、次年度以降の調査実施のための調査項目の検討を行った。
結果と考察
コンピテンシー研究の先駆者の一人であるボヤティスは、コンピテンシーについて個人に内在している特性という部分に着目し、「職務コンピテンシーとはその中でも、動機や特性、スキル、セルフイメージの局面、社会的役割、一体としての知識で活用されているもの」と定義している。また、コンピテンシーの創始者であるマクレランドは氷山モデルを提唱し、目に見える部分と見えない部分の両方からの影響を受けて、高業績を生み出す元となるとしている。このような考え方を社会福祉援助技術現場実習にどのように取り入れていけばよいかを検討していくことが初年度の課題であった。社会福祉援助技術現場実習に行く学生に養成校側が何を期待するのか、どのような実習生像を持っているのかをフォーカスグループで確認し、その後ブレインストーミングにおいて、カナダのトロント大学のCBE(Competency Based Education)や社団法人日本社会福祉士会の実習指導者のプログラム項目の分析を行った。また、現場の実習指導者に対するBEI調査によって、現場における高業績を達成する実習生とはどのような実習生かについての聞き取り調査を行った。これらの結果から、今年度はコンピテンシー項目素案を作成した。この素案を来年度には
、①ブレインストーミングを開催し、調査項目素案をより詳細に検討し、調査項目案Ver.1を作成する、②作成した調査項目案を学生に実際に調査し、それぞれの項目について回答状況を分析するとともに、項目そのものの記入しやすさ、理解度等についても調査する、③その結果から調査項目案Ver.2を作成し、再度ブレインストーミングにおいて検討する、④ブレインストーミングにおいて検討した調査項目案Ver.3を会員養成校へアンケート調査を行い、社会福祉援助技術現場実習での使用が可能なものかどうかについての調査を行う、⑤その結果から、コンピテンシー調査票を作成し、コンピュータソフトを作成する、までを行う予定である。 スーパービジョン班では、今年度の結果から、①社会福祉士の養成という目的に合致した実習教育カリキュラムとスーパービジョンを含む一貫した教育内容と効果的な教育方法の最低水準を明らかにすること、②実習先の配属にあったての実習教育の内容と方法、評価方法について教育機関と実習機関とが合意を形成していく必要があること、③実習教育を行う教員の資質や水準、養成校における実習教育の内容を高めるための組織の体制とその展開プロセスについての内容を明らかにすること、の課題が明らかとなった。このような課題認識に立脚し、来年度は社会福祉士養成校における実習教育におけるカリキュラムやスーパービジョンを含む教育内容の実態とその課題について、アンケート調査を行う予定である。その上で、一貫した実習教育のカリキュラムについての標準的な内容や効果的なスーパービジョンについてのモデルを提示することを検討する。
結論
社会福祉士養成は、他の保健医療分野の専門職養成とは異なり、業務独占はなく名称独占だけでの資格である。そのために、養成教育課程も大学院、大学、短大、専門学校、通信制と多岐に及んでいる。様々な養成校の形態によって、また個々の養成校によって、現状では社会福祉援助技術現場実習が行われているが、専門職養成ということを主体として考える場合には、このようなばらばらな状況では効率的、効果的な現場実習が行われるとはいえないと考える。各養成校に共通した合意がないままに、実習教育が進められているという現状において、本研究では、社会福祉援助技術現場実習を医学教育における臨床実習と同じように、社会福祉士の専門職養成としての実習として位置づけるべく、①コンピテンシー概念を利用した実習評価研究、②養成校におけるスーパービジョンに関する研究を行った。初年度では、それぞれ基礎資料等の収集を行うことができた。次年度以降に、それぞれの研究を実証的に行い、社会福祉士の専門職養成に資する資料を収集する予定である。なお、本研究は初年度において発生した多くの課題を次年度以降も班会議等において検討し、最終的には社会福祉士教育のための政策提言を行っていく予定である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-