要介護高齢者の介護サービス需要とその影響要因に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200035A
報告書区分
総括
研究課題名
要介護高齢者の介護サービス需要とその影響要因に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
南部 鶴彦(学習院大学)
研究分担者(所属機関)
  • 菅原琢磨(学習院大学)
  • 野口晴子(東洋英和女学院大学)
  • 森京子(学習院大学大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
7,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、制度の抜本改革が予定され、本格的議論が待望されるにも関わらず、未だ十分かつ頑健な検証がなされているとは言い難い介護保険サービス需要について、「介護サービス需要関数」を導出し、介護サービス需要への影響要因とその程度を定量的に把握・明示する事にある。介護保険制度の改正議論をより建設的かつ実りあるものとするためには、1)現行制度下での介護保険サービスの需要状況の正確な把握、2)現在の利用状況が現出している要因の抽出と影響度の定量的な把握が不可欠と考えられる。また今後、自己負担率の改定を含め、介護サービス価格変更がおこなわれた際の影響を検討するためには、介護サービス需要の価格弾力性の計測が必要となる。本研究では介護サービス利用者の諸属性(e.g.性別、年齢、要介護度等)、世帯別の所得段階、事業者、利用サービスの区分により、これらの要因を統制した上で、価格変化にもとづく介護サービス需要変化(介護サービス需要の価格弾力性)を計測する。分析結果から期待される政策的インプリケーションは、以下の課題について建設的回答をおこなう上で有効である。① 介護報酬改定、利用率負担改定をおこなった際、需要はどのように変化するか。② 世帯所得により需要に影響が出るか否か。又、所得格差によって、需要の価格弾力性に差が認められるか否か。③ 事業者の差異により介護需要に差が生じているか否か。④その他、介護サービス需要に影響を与える要因は何か。又、その影響の程度はどの位か。
研究方法
介護保険サービスの需要関数推定は、サービス価格変化の影響を正確に把握するのに役立つだけでなく、需要に影響を与える要因の特定化と影響度の把握を通じて、将来的な介護需要の予測等をおこなう際にも有用である。「需要側分析」の目的の一つである介護需要の価格弾力性の計測については、介護保険制度の実施以来、介護報酬額ならびに利用者自己負担(率)の大幅改定がなされておらず、サービス事業者間の大幅な価格引き下げ競争が現出している状況にもないという制約が存在する。但し、今年度初めて介護報酬改定が実施されたので、今後これらのデータを蓄積することでこの問題については解消される可能性がある。このような状況を勘案し、本研究では利用者負担(利用料)軽減施策の該当サンプルをデータセットに含めて価格弾力性を導く介護需要関数の推定を考案した。
分析では利用者負担の軽減施策がなされているサンプルを対象に包摂した『国民健康保険連合会配信/給付管理レセプトデータ』を2年分活用し、需要関数推定に必要なレセプト情報を分析データセット化した。本調査研究は、介護事業への取り組みが積極的と評される都内某自治体の全面的協力によって可能となった。介護需要、ここでは最も基本的かつ一般に利用される「訪問介護サービス」需要を決定する基本モデルは、次式で表されるものとする。Dim=f(Pim,Hij,Uik,Sil)但し、Dimは第i番目の利用者の第m番目の介護サービスに対する需要量(利用回数/月)、Pim は第i番目の利用者の第m番目の介護サービスの価格(介護報酬単価×自己負担率)、Hijは第i番目の利用者の世帯属性ベクトル(世帯収入等)、Uikは第i番目の利用者の属性ベクトル(年齢、性別、要介護度など)、Silは第i番目の利用者が利用した介護サービス事業所の諸属性ベクトルである。上式でDを利用回数(介護需要)とした場合、この利用回数が、各々の説明要因ベクトルの「線型関数」で表されるものと仮定し、回帰推定をおこなう。推定は利用回数の分布により、仮定する確率分布を考慮する必要があるが、此処では標準正規分布を仮定した最小二乗法によって基本的な推定をおこなった。実際の推定では受給者の所得水準の実数値は利用可能ではなく、所得段階別ダミーしか説明変数としては利用できない。そこで価格の需要に与える効果は、それが一部所得水準の効果を包含しているため、実際よりも過小に推定されてしまう恐れがある。そのようなことに留意して価格弾力性を解釈せねばならない。
結果と考察
訪問介護サービス需要を決定するモデルの推定をおこなった。自己負担率から導いた「価格弾力性」の値は、0.33であった。サービスを提供する「事業者区分」の中で、業者間に統計的に有意な差が認められた。これは同一サービスを提供しているにも関わらず、事業者間で利用者の利用回数に格差が存在することを示す。利用者の「所得段階区分」については、いずれの所得段階でも他の所得段階との間に利用回数の差は認められず、特定の所得段階の差により利用に影響が及ぶ状況はこの推計から見出されなかった。利用者の「要介護度区分」では、係数値は正で有意なものが多く、要支援のサービスの利用回数に比べ、要介護度の重い利用者の方が一般に利用回数は多くなると言える。訪問介護の中での「利用サービス区分」は、身体介護を基準とすると、家事援助等々、殆ど全てのサービスで利用回数はそれを上回る結果となっている。
結論
利用料軽減策の該当サンプルを含む、「介護給付管理レセプト」をデータベースとして訪問介護需要関数の基本的な推定をおこない、訪問介護需要の価格弾力性ほか、需要への影響要因を定量的に明らかにした。本推計モデルにおける訪問介護需要の価格弾力性は0.33であった。だがこの値は、推計モデル上、過少推計となっている可能性があることに留意しなくてはならない。また事業者区分、要介護度区分などが、需要の有意な説明要因となることが明らかとなった。

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