経営・運営の変化が医療及び医療機関に与える影響に関する研究(国立病院移譲を例として)

文献情報

文献番号
200200030A
報告書区分
総括
研究課題名
経営・運営の変化が医療及び医療機関に与える影響に関する研究(国立病院移譲を例として)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
谷 修一(国際医療福祉大学)
研究分担者(所属機関)
  • 田村誠(国際医療福祉大学)
  • 高 橋泰(国際医療福祉大学)
  • 加藤尚子(国際医療福祉大学)
  • 岩崎 榮(日本医科大学)
  • 河原和夫(東京医科歯科大学)
  • 井上通敏(国立大阪病院)
  • 武藤正樹(国立長野病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
9,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療改革の一環として、病院の経営形態のあり方が問われている。厚生省(当時)においては、昭和61年度に国立病院の再編を検討する委員会を設け、国立病院234施設のうち74施設を統合・移譲する計画を立てた。最初は移譲は多くなかったが、平成9年以降は移譲・統合は急速に進むようになり、平成14年度に予定されているものまでを含めると、34病院の移譲が完了または予定されている。移譲先の機関は、医師会、地方自治体、公的機関、地域医師会、財団法人などさまざまである。このような移譲に伴って、病院の運営、医療内容などがどのように変化したかについては、最初の1-2年は記録があるが、その後の状況はまとまった記録がない。日本の病院が政策的にこのような大きな変革を行ったことは戦時中、終戦直後を除けば前例はなく、その政策の影響を調査して記録することは、今後の医療政策の立案や実施の上で重要である。本研究はこうした考えから、移譲を完了した病院について、移譲前後の経営、医療内容、患者の評価などを調査し、その実態を正確に記録することを目的とする。
研究方法
3年度計画の第1年度である平成14年度は、厚生労働省の協力を得て対象となる病院の年次データを収集するとともに、移譲先病院に依頼して移譲後のデータ収集の協力を得られる病院を特定し、年報などの基礎的なデータの収集を始めた。そして収集したデータを整理しつつ、個別の研究テーマごとに以下の通りに分析していった。①国立病院移譲の背景と経緯に関する文献調査を行い、国立病院・療養所の発足から再編成、独立行政法人化までの政策上の経過を概観した。特に本研究のテーマである再編成に関して、その政策内容を明確にしてまとめた。その中でも特別措置法に関しては内容の詳細を把握すると同時に、各移譲病院に対して適用された特別措置法を整理し、移譲時の記録として残した。②国立病院移譲を例とした医療における政策評価・プログラム評価の考え方と方法に関する文献調査を行った。③平成3年度に国立病院として存在し、その後移譲を受けた国立病院に関して、その経営状態を表す指標のうち経常収支率、入院患者1人1日あたり診療収益、病床利用率、平均在院日数に関して、平成3年度から移譲直前までの推移を個別に示した。④国立療養所の移譲前後の状況を明らかにするために、病院要覧やホームページから、病院構造や病院機能を評価する統計値を入手し分析を行った。また、地域が国立療養所の移譲に与える影響を把握するために、半径20Km以内に存在する病院をリストアップして、国立療養所の移譲前後における病床数や標榜診療科などの変化について調査し、地域の医療需給という観点から分析した。⑤公的機関の効率性の評価においてしばしば用いられるDEA(Data Envelopment Analysis)という手法を用いて、平成12年度の国立病院における効率性を推計した。また、このDEAの結果を経営管理指標と合わせて分析することにより、DEAという手法による効率性の意味や妥当性を検証した。このような分析以外にも、今年度はデータを収集し、整理していくことに取り組み、特に厚生労働省から入手した紙ベースのデータを電子化し、今後の分析がスムーズに進むようにした。また、病院フェースシートという形で、移譲・統合された国立病院の移譲前後の基本属性(所在地、経営主体、病床数、診療科等)をまとめ、今後の分析や個別病院訪問などの基礎データとして整備した。
結果と考察
①国立病院・療
養所の移譲過程の政策内容を把握することで、移譲の全体の流れが明らかになった。個別病院の事例に取り組む前の全体像を捉えた基礎資料として、今後分析を進めていく上でも用いていく予定である。②国立病院を評価していく上での理論的基礎を捉えることができた。③移譲を受けた病院について個別に、どのような経営状態で移譲がされたか、経営が安定した状態であるか、悪化した状態であるかの傾向が明らかになった。また、移譲を受けない国立病院との比較も可能となった。今後は個別病院の研究を深めていく中で、この分析を基礎資料として用いていく予定である。④移譲を受けた国立療養所の移譲前の医療内容、移譲後の病院構造などが明らかになった。また、個別国立療養所の半径20Km以内にある医療機関と合わせて地域の医療需給分析をすることで、国立療養所が移譲によってもとの機能をさらに拡充し、さらに地域の事情に則した変化を遂げていることが分かった。今後は分析するサンプルを増やすとともに、都道府県医療計画の資料や地域再編成協議会審議資料等の分析も行っていく。⑤推計したDEAによる効率性は国立病院の効率性を示していく上で重要な指標であることが明らかになった。今後はデータの拡充に伴い、サービスの質を考慮に入れることや、経年変化、経営主体の変化によるD効率性の比較を行っていくことを課題としている。
結論
国立病院の移譲に関する基礎的資料やデータを入手して整理することができた。また各テーマごとの基本的な分析により、移譲の全体の流れ、国立病院の移譲前の状況、国立療養所の移譲前後の病院構造や医療内容変遷、国立病院の効率性の推計手法などを捉えることができた。研究は基礎部分の段階にあるので、今後よりデータの拡充を図り、フィールド調査やインタビュー調査などを進め多面的に分析を行っていくことによって、移譲の影響を明らかにしていく。

公開日・更新日

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