貧困の世代間再生産の緩和・解消するための支援に関する基礎的研究(H14-政策-026)

文献情報

文献番号
200200026A
報告書区分
総括
研究課題名
貧困の世代間再生産の緩和・解消するための支援に関する基礎的研究(H14-政策-026)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
杉村 宏(法政大学現代福祉学部)
研究分担者(所属機関)
  • 岡部 卓(東京都立大学人文学部)
  • 六波羅詩朗(国際医療福祉大学医療福祉学部)
  • 新保美香(明治学院大学社会学部)
  • 宮永 耕(東海大学健康福祉学部)
  • 吉浦 輪(法政大学現代福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
1,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、貧困の世代的再生産の現状を、生活保護およびその周辺に滞留している階層の形成メカニズムに焦点をあてて分析し、その支援の方策を検討する基礎研究を行うことである。
研究方法
2002年度は、そのための先行研究とサンプル調査を実施することを課題とした先行研究の検討にあったっては、従来の「貧困の世代的継承」論や「貧困の循環」論、「貧困文化」論を批判的に検討したうえで、「貧困の世代的再生産」が個人や家族の特性に起因するというよりは、社会経済的な要因をつよくうけた構造的なものであるという仮設に基づいて行うこととした。また福祉改革の潮流の中で注目されるようになった、「福祉依存」の問題を貧困の世代的再生産の問題と関連させて検討した。福祉改革の議論のなかではかなり安易に、また半ば自明のこととして「福祉依存」と「貧困の世代的再生産」が関連付けられているが、「貧困の罠」の問題やアディクション研究の動向など幅広く検討することによって、両者を単純に関連付けることの危険性を確認した。「貧困の世代的再生産」の構造を明かにするために、Social Exclusionの視点をとり入れて検討を行ない、さらに北海道の旧産炭地や構造不況地域における母子世帯研究で、先駆的な業績を上げている研究者をゲストスピーカーとして研究交流を図った。 サンプル調査については、来年度以降生活保護世帯を対象とした調査を行う上でも、被保護層の自立支援に関わる公的扶助ケースワーカーが、このような問題をどのように捉えて指導・援助の実践を行っているのかを、北海道のB市と東京都のA区で聴き取り調査によって行った。その結果に基づいて中規模のアンケート調査を行うための調査票の作成等も行った。
結果と考察
先行研究の検討のための研究会の開催と、そこで取り上げられたテーマおよび検討結果は以下の通りである。第1回 2002年06月15日 貧困の世代的再生産研究の意義と課題 Cycle of Deprivationモデルに関する検討を通じて、その構造論的理解を学び、また「貧困の再生産」と関連させて「貧困の世代的再生産」を理解することが重要であることを確認した。第2回 2002年07月13日 「貧困の世代的再生産」に関する研究動向 M市における子育て支援事例報告-生活保護母子世帯の子育て困難事例-「貧困の世代的再生産」研究の歴史的検討、および福祉改革期における論点の整理を行った。貧困による社会的不利が子育てにネガティブな影響を与えている事例検討を行い、支援のあり方を検討した。第3回 2002年08月10日 「多問題家族」に対する15年間の援助事例 「多問題家族」という認識の意義と課題を検討し、「貧困の世代的再生産」を緩和・解消するための長期の働きかけを行った事例検討を行った。第4回 2002年09月14日 児童相談所の事例から見た「多問題家族」援助の視点 B市における生活保護受給母子世帯の支援に関するケースワーカーの調査 前回に引き続いて「多問題家族」の事例検討と、生活保護受給母子世帯に対するケースワーカーの意識と指導・援助の実態を聴き取り調査から検討し、「社会的スキル」の問題の重要性を確認した。第5回 2002年10月18日 「貧困の世代的再生産」論に関する検討課題 これまでの検討結果のまとめと今後の検討課題の整理を行った。第6回 2002年12月07日 貧困の世代的再生産と「共依存」との関連について アディクション研究における「共依存」の形成メカニズム、機能不全家族研究とアダルトチルドレ
ン問題、「アルコール依存」研究などのレビューを行い、医療社会学的アプローチに基づく福祉的介入のあり方を検討した。第7回 2003年01月11日 Social Exclusionの視点 「貧困の世代的再生産」において重要な課題の一つに、これらの家族・世帯が社会的に孤立していることであり、その是正の取り組みに「社会的排除」研究の視点を入れる必要性を確認した。第8回 2003年03月18日 貧困の世代的再生産の構造 北海道をフィールドにして「貧困の世代的再生産」の構造的把握と、それに対する教育福祉的介入のり方を研究している青木紀氏をゲストスピーカーとして招いて、研究交流をした。課題解明のためには追跡調査も含めて、長期的な研究の継続が必要であることが確認された。
結論
「福祉依存」と「貧困の世代的再生産」の問題を検討する際に、「貧困の罠」の問題を介在させること、および「貧困の罠」の構造を明かにすることが重要であるという知見をえた。このことによって両者の混同や同一視が誤りであり、生活困窮世帯の自立支援の方法は、個別に指導援助すると同時に、「貧困の罠」の構造を社会的に是正することを通じてより効果的になることが示唆された。また「貧困の世代的再生産」として現象する生活問題は、一般には「多問題」として捉えられるが、より厳密には「生活問題の重層化」であり、貧困の中で生起する自己像のゆがみや生活能力の未発達である。したがってアディクション研究とそれに基づく「共依存」からの脱却をめざすソーシャルワーク研究の知見に学んで、「貧困の世代的再生産」に対する福祉的介入の方法の開発への活用が期待できる。

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