介護サービスの利用に伴う高齢者の経済負担に関する実証研究-立案された介護サービス計画の経済的検討(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200024A
報告書区分
総括
研究課題名
介護サービスの利用に伴う高齢者の経済負担に関する実証研究-立案された介護サービス計画の経済的検討(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
遠藤 英俊(国立療養所中部病院)
研究分担者(所属機関)
  • 葛谷雅文(名古屋大学大学院医学系研究科老年科学)
  • 益田雄一郎(名古屋大学大学院医学系研究科老年科学)
  • 野口晴子(東洋英和女学院大学国際社会学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
12,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ケアプランによって計画されたサービスの提供を適切に行い、それにより要介護者の問題が解決され生活の向上があったかどうかをモニタリングし、その結果のフィードバックによってケアプランを再び立案する一連のプロセスが、介護保険制度のもとでのケアマネジメントのあり方であろう。現在のケアマネジメントの実態が上記で述べたようなプロセスを経て行われているかについて疑問を投げかけるような意見があり、その改善策ついて提案がなされているのを散見するが、そのほとんどが実証的ではない。まずはケアマネジメントが適切に行われているのか、もし適切でない部分があるとすればそれはどの部分であるのか、適切でない部分が生じている理由は何であるのか、そしてその改善策はどうあるべきのなのか、改善策の実効性は如何ほどであったか、等々を実証的に検証されなければ信頼性の高い、再現性のある回答を得ることはできない。我々の今回の研究は、介護保険制度のもとで行われているケアマネジメントの具体例としてのケアプランについて、その現状と問題点をデータをもとに実証的に明らかにすることが目的である。さらには、ケアプランによって支給された介護サービスの妥当性、具体的には在宅の要介護者に支給された各種在宅介護サービスの量とその本人に与える効果の検証、サービスの支給量に影響を与える因子の検証、選択されたサービスと本人の属性との関係の検証等をデータをもとに行うことによって、ケアプランの質を客観的測定する方法論を確立し、ケアマネジャーや保険者である市町村がケアプランを通じて介護の質を検証しやすくすることに寄与したい。
研究方法
我々が開発に参加したケアマネジメントシステムが現在全国にサーバー単位で約5000台使用されており、使用している事業所数は1000ヶ所を超えている。各事業所におけるクライアント数が正確に把握されていないために、全国からいくつかの事業所を無作為抽出することが困難であった。そこで実施可能な方法の中で最も統計学的に質の高い方法として一県全数調査を選択した。対象となる自治体として愛知県を選択した。また比較対象施設として、埼玉県、静岡県、京都府からそれぞれ2施設を選んだ。愛知県においてはシステムを使用している事業所が65ヶ所あり、それらの全てが対象となった。データの収集にあたっては、まずデータの収集の際に使用するソフトウエアとして個人データを全て匿名化するソフトを開発し、収集するデータの完全な匿名化を可能にした。その匿名化のプロセスを各事業所の責任者もしくは責任者から任命された担当者に説明し、データの秘密保持の契約書を事業所単位で交わし、研究に対する同意書を取り付けた。またそれらの事業所の監督者にあたる愛知県健康福祉部高齢福祉課の担当者にも今回の研究事業の説明を行い、賛同を得た。65ヶ所の事業所のうち、2003年現在50ヶ所の事業所の同意を得ており、2003年4月に全ての同意を得る予定である。そして構築されるデータベースの内容であるが、2000年4月から2003年3月までの約7000人の利用者の、1)要介護度、2)基本情報を含めたアセスメント情報、3)在宅介護サービス利用状況(サービスの種類、利用頻度、サービスの組み合わせ等)、4)保険給付額、自己負担額、さらには事業所の属性として、5)事業所のスタッフの構成、6)事業所の提携サービス機関、等の情報が完全に匿名化された状態で収集されており、今後2005年3月まで収集予定である
。今回は試験的に収集した1事業所、200人のデータをもとに、A)それぞれの要介護度における利用限度額の充足率、B)在宅介護サービス(訪問介護、訪問入浴介護)の利用状況を検証した。
結果と考察
今年度は約7000人の要介護者の2000年4月から2003年3月までの3年間の詳細なデータを各事業者の同意を取り付けながら収集し、それらをサーバーに記録させてデータベース化することに多大な時間を必要とした。現在データ収集の途中であり、全データを分析することが不可能であるため、、前調査として1施設200人のデータを例にして、1)対象者の要介護度および日常生活自立度(ADL)、および2)対象者の利用限度額の充足度を検証した。その結果、対象者の要介護度は要支援が11.5%、要介護1が26.5%、要介護2が26.0%、要介護3が17.0%、要介護4が10.5%、要介護5が8.5%であった。日常生活自立度(ADL)は正常:0.5%、J1:4.5%、J2:21.5%、A1:25.0%、A2:15.5%、B1:15.5%、B2:11.5%、C1:4.5%、C2:1.5%であった。また対象者の利用限度額の充足度であるが、要支援の対象者で利用限度額の63%の使用、以下要介護1で62.3%、要介護2で58.6%、要介護3で48.1%、要介護4で52%、要介護5で48%であった。訪問介護利用状況であるが、全体で家事援助中心が31.0%、複合型が15.5%、身体介護中心が23%であった。訪問入浴介護は11.5%であった。要介護度の分布であるが、全国平均に比し要介護4および要介護5が少なくなっている。これは今回の対象者が在宅介護サービスを受けている要介護高齢者であり、基本的に施設に入所せず在宅における生活が可能であることがその一つの要因出ると思われる。日常生活自立度と要介護度は比較的相関しており、保険者による要介護認定が適切に行われていることを示している。利用限度額の充足率に関してであるが、これは今までにほとんど明らかにされておらず、利用限度額までサービスを利用した要介護者の割合がわずかに明らかにされているに過ぎない。要介護度が上がるにつれて利用限度額をより下回ったサービス利用にとどまる傾向があった。さらに対象施設数を増やして検証する必要があるが、在宅においては要介護度が上がり介護の負担も多いと思われる要介護者が、介護保険で指定されている利用限度額を充分に活用できずにいる可能性が示唆された。加えて訪問介護も家事援助中心が最も利用されており、サービス料の影響であるのか、サービスの機能による影響であるのか、そして要介護度別の違いについて、さらなる検討が必要である。
結論
愛知県において居宅介護支援事業を行っている65施設、および埼玉県、静岡県、京都府の6施設を対象に約7000人の要介護者の1)基本情報を含むアセスメント情報、2)利用したサービスの種類およびその量、3)要介護者の保険給付額、および自己負担額、さらには4)事業所のスタッフ情報等を2000年4月から2003年3月まで3年間にわたって収集し、データベースを構築した。要介護度別の利用限度額の充足率は、要介護度が上がると低下する可能性が示唆された。訪問介護は家事援助中心がもっともよく利用されていた。

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