若者の将来設計における「子育てリスク」意識の研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200021A
報告書区分
総括
研究課題名
若者の将来設計における「子育てリスク」意識の研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
山田 昌弘(東京学芸大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
若者の将来生活設計という観点から、少子化の原因を探り、将来動向を予測することを研究の目的とする。日本では、急速な少子化が進展している。その直接の原因は、若者が結婚を控えることにあり、更に、近年は、夫婦の子どもの産み控えが進展していることも指摘されている。しかし、多くの若者は、結婚したい、子どもをもちたいという希望をもっている。その希望の実現可能性を検討することが、少子化問題解明の鍵である。従来の少子化議論においては、若者の意志が問題にされてきたが、その意志の実現可能性に関する研究はほとんどなかった。現在、「雇用の不安定化」により、若者の経済生活の基盤が不安定になっており、その結果、子どもを育てながら人並みの生活を送る可能性が低くなっている。その結果、若者にとって、子育てが「リスク」として捉えられていると考えられる。「子育てをしながら期待する生活程度-将来の収入予測」を、子育てリスク変数と名づける。この子育てリスク変数の上昇が、少子化をもたらすという仮説を立てる。少子化は、若者が将来の生活設計をたてる上での、リスク回避行動と考えられるのである。それゆえ、雇用不安定化にある若者がどのような将来生活設計をもっているか、その中で、「子育てリスク」がどのように組み込まれているかを調査によって明らかにすることが求められている。この調査研究の結果をもとに、若者の「子育てリスク」に対処する方法(個人的、社会的対策)を提示し、政府等が少子化対策を行うに際して、その前提となる材料を提供することを目的とする。
研究方法
本年度(平成14年度)は、仮説を実証するため、将来の子育てリスク意識が高い若者に対して、インテンシブなインタビュー調査を行った。未婚化が進むおおむね、25-35歳の未婚不安定就労者をサンプルとして設定した。(不安定就労者- 将来の所得が不安定な人、フリーター、契約社員など)苫米地伸・リサーチレジデント、羽渕一代弘前大学助教授(研究協力者)、及び、木戸功一学術振興会研究員(研究協力者)らと、インタビュー調査項目の検討を行い、インタビュー項目の選定を行った。続いて、調査サンプルの選定を行った。男女、首都圏-地方(青森、鹿児島)、親同居-独居、学歴などのバランスを考慮して、インタビューの協力者を募った。調査対象の特定の難しさから、協力者確保の方法として、各人のネットワークを活用して、不安定就労者であるもののリストを作成し、協力を得られれば、主任研究者、リサーチレジデント、大学院生を派遣、もしくは、来校していただき、インタビューを行い、録音後、スクリプトを作成した。内訳は、首都圏20名、地方7名である。スクリプトをもとに、若者に対して、リスク意識がどの程度浸透しているか、そのリスクに対してどのような対応をしているかを中心に分析を行った。
結果と考察
若者に対して、リスク意識がどの程度浸透しているか、そのリスクに対してどのような対応をしているかを中心に分析を行った結果、次の結果が得られた。* 不安定就労者は、期待する生活水準と現実の経済基盤の将来見通しの間のギャップがあることは「認識」されている。それも、男性と女性では、異なった形で認識されている。男性は、現在の収入では、妻子を養っていくに足りないと認識している人が多い。これは、恋人がいる場合も、いない場合も同様であった。女性は、期待する生活水準を達成するために必要な収入を稼ぐ男性に出会わないと意識する、また、恋人がいる人であっても、その恋人の収入が期待する収入の水準に達していないと認識する人が多い。その前提に次のような意識の存在が確認された。① 男性
にも、女性にも、男性一人の稼ぎで生活するのが原則という意識② 不安定な雇用の継続は続くという意識。③ 豊かな結婚生活をしたい、子どもをもって貧乏になるのはイヤだという意識。* 期待(子育て生活に期待する生活水準)と現実(将来の夫婦で得られる収入の予測)のギャップ(子育てリスク)の存在に対して、若者はどのような意識をもち、どのような行動をとろうとしているかを分析した。 期待と現実のギャップを埋める行動を行う(期待水準の引き下げ-妥協と現実の収入の引き上げ-努力)人も存在するが、期待と現実のギャップを放置する若者も多いことが確認された。特に、10年後はどうなっているかという質問に対する回答では、男性不安定就労者は、今のままの日常が続くと回答した人が多く、女性不安定就労者は漠然と結婚しているはずという回答が多かった。 このような夢を夢を見続けられる条件として、①親の援助があり、とりあえず生活することに不自由はない仕事の存在 ②将来を考えることを忘れさせてくれる環境の存在(レジャーやバイトで時間を埋める) ③運を信じるという意識 ④自分が責任をもつ家族が存在しないという状況が抽出された。
結論
近年の典型的に生じている少子化は、若者が子どもを産み育てる経済的基盤が「不確実」となっており、将来の長期的な収入見通しが立たないこと(子育てリスク化の悪化)が、若者の結婚行動や出産行動を手控える原因であるという仮説は、インタビュー調査でみる限り、支持されると考えられる。 子育てリスク意識が高い若者に対して、リスクを軽減する政策(期待する生活水準と現実の収入のギャップを埋めるように誘導すること)がある程度有効であることも予測できる。 しかし、合理的政策では動かない若者が出てきたことは事実であり、夢や永遠に続くと思っている現実を生きる若者に対して、インパクトのある政策対応が必要である。

公開日・更新日

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