効率的な医療機関の経営母体に関する研究-株式会社病院経営、非営利組織経営論の視点で-(H14-政策-019)

文献情報

文献番号
200200019A
報告書区分
総括
研究課題名
効率的な医療機関の経営母体に関する研究-株式会社病院経営、非営利組織経営論の視点で-(H14-政策-019)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
真野 俊樹(名古屋大学医学部医療管理情報学)
研究分担者(所属機関)
  • 山内一信(名古屋大学医学部医療管理情報学)
  • 田尾雅夫(京都大学経済学部)
  • 田中洋(法政大学経営学部)
  • 立岡浩(広島国際医療福祉大学)
  • 吉田忠彦(近畿大学・商経学部)
  • 牧健太郎(新日本監査法人)
  • 佐藤隆美(トーマスジェファーソン大学)
  • 井田浩正(PwCコンサルティング株式会社)
  • 小林慎(クレコンリサーチアンドコンサルティング)
  • 富沢仁(シーダスサイナイ病院)
  • 水野智(名古屋大学医学部大学院医療管理情報学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
4,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
病院経営において非営利が堅持されてきた理由は経済学者のArrowの主張に遡る。Arrow(Am Econ Rev, 1963)らは、医療の財としての特殊性を、1)医療が人間の基本的Needsであること、2)必要性と費用が予測できないこと、3)患者と医師間の情報の非対称性の存在から説明している。この主張は現在でも医療という財の特殊性を主張するには十分である。しかしながら現在、株式会社による病院経営が1部に主張されている理由は、主に現行の医療法人制度の非合理性や矛盾による。その例を、「医療問題研究会報告書」では下記のように指摘している。「非営利原則をベースとしながらも、多額の役員報酬やMS法人による実質的な利益配分が行われており、非営利原則は形骸化している。非営利性を求めるのであれば、開設時のみならず、むしろ開設後の経営行動の中でアカウンタビリティを求めるべきである。他方、非営利法人でありながらも税制上は一般法人とほぼ同様に扱われていることは諸外国にもあまり例がない」この主張はもっともであり、現行医療法人制度には何らかの改革が必要である。しかし、この帰結が「現行の医療法人制度を、非営利医療法人と営利の(株式会社型の)医療法人とに区分すべきである」にはなりえない。競争条件のイコールフッティングの視点からは、仮に株式会社の病院経営参入を認める場合に、社会インフラあるいは社会的共通資本(宇沢、社会的共通資本、2000)である医療を扱う医療システムに、営利主体の参入がどのような環境下では許されるかを検討すべきであろう。これは、上記のような特殊な財であり、経済学的に需曲線が存在せず、情報の非対称性が存在する医療の場合に起きうる市場の失敗を補完する制度の構築が必要なことを意味する。 経済財政諮問会議、総合規制改革会議、経済産業省医療サービス政策課「医療問題研究会報告書」等で、営利法人である株式会社の病院経営禁止の規制緩和が主張されている。一方、日本医師会を中心に、株式会社の病院経営参入の無意味さ、有害さを説く研究も多い。 2002年に入ってからも、何回かこの問題が議論され、直近では、『これからの医業経営の在り方に関する検討会』において、賛成派の総合規制改革会議医療ワーキンググループ主査 鈴木良男氏(旭リサーチセンター社長)と反対派の学習院大学経済学部 遠藤教授が議論を戦わせた。しかし、議論が硬直状態であることは否めない。本来法制度は、社会の秩序を守るためにあるのもので、目的ではなく手段である。その意味で従来の議論は、配当を出さないから非営利だ、出すから営利だといった、いささか制度論議に振れすぎており、医療機関経営者あるいは、組織を考える学者からは疑問がある。 本研究の目的は、病院の営利・非営利論からはじまり、もし営利の参入を許可する場合にはどのような制度構築が必要かを諸外国の状況を含めて研究することである。そして本研究の成果は、実際の医療提供体制の改革に役立つことが期待され、今後の国民の保健・医療・福祉の向上に大きく影響すると思われる。
研究方法
学際的な全体研究会を予定通り、京都1回、名古屋1回、東京1回行った。その他に研究会を何回か開催し、優良と考えられる病院の調査も行った
。 また日本病院会加入病院2621施設に対して、名古屋大学医学部医療情報部で2003年1月にアンケートを行った。
結果と考察
組織の営利・非営利を分ける視点はきわめて多様である。一般的には、配当の可否、株式(債券)の発行可否が注目されるが、それ以外にも、潜在的な利益分配としての給与・報酬の多寡、解散時の利益分配、組織構成員の考え方、情報の開示度合いなど多くの指標がある。申請者はこのうち、組織構成員の考え方に注目し、社会保険旬報、2000年 7月21日号において日本の病院は枠組みでは私的、組織構成員は公的な考えを持つ、いわば準公的とでもいうべき状態になっている、と主張した。本研究会での非営利性を担保するという視点での病院のガバナンスについての検討では、医療の金融との類似性、米国のみならず欧州のガバナンスの仕組みを学ぶべきことが示唆された。 また不特定多数の利益に供される財でもないために、おこなっている事業からは公益とは言いにくい。また医療自体が経済学的には純粋な公共財と言いにくい。競合性、排除性を持ち、外部性が感染症等の一部を除いて少ない医療は私的財といえよう。しかしながら、日本では医療に公共性を持たせるために、国民皆保険といった制度下で、医療を価値財としている。 アンケートについては中間報告であり100例のみの解析であるが、経営状態は「やや悪い」までで半数を超えた。80%以上の病院経営者が病院の非営利性を意識したことがあった。1部の病院に、PFIを実施したいとか、市民出資債を実施したい、という声が聞かれた。医療法人制度については現行のままでいいが約半数であったが、「持分を放棄すべき」を「思う」「やや思う」までとると、半数近くに賛成意見が見られた。情報公開を、「不特定多数」に公開してもいいと考えるものは40%弱、財務情報を「不特定多数」に公開してもいいと考えるものは10%であった。 日本医療法人協会が平成13年9月、852法人に行った調査によれば、社団特分有の612法人の正味資産(土地等の含み益を除く)が巨額化し、法人の45%は5億円以上の資産を持ち、資産増加倍率100倍以上の法人が31%を占めた。土地の含み益を加えると、資産増加倍率はさらに増加する。 社団特分有の612法人の72%は出資持分有で、出資者の1人が退社にあたり特分の返還請求を行えば、出資額の100倍になった資産の出資持分を請求することになる。資産のほとんどが土地、建物、設備、医療機器で、現金というフローの資産を多く持たない病院にとって出資持分の返還は不可能に近く、相続を含め苦悩している病院は少なくない。また、出資持分を放棄すればそれは残りの出資者への贈与となり、残った出資者は贈与税のため危機に立たされる。 このように、出資持分に応じた返還を行うと病院が立ち行かなくなるため、日本医療法人協会は現在、出資持分の返還を当初の出資に限定した「出資額限度方式」を提唱している。平成8年、出資持分の返還を求め東京地裁八王子支部で始まった裁判は、東京高裁も出資額限度方式を支持したものの、未だ法制化されるには至っていない。 このように、医療法人制度自体についても、営利・非営利の問題が大きくのしかかっている。2年目はこのあたりも検討課題としたい。
結論
行っている事業からは純粋な公益とは言いにくく、かつ純粋な公共財と言いにくい医療という財を、価値財としている立場との整合性を取るという立場からは、医療法人制度にさらなる非営利性を持たせるべきであろう。さらに言えば、個人立病院や診療所は営利主体とみなされうるので、早急な移行が必要とされる。ここで非営利性の担保の方法には種種の方法が考えられる。医療法人制度の改革もその方法のひとつであろう。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)