少子高齢化・知識経済社会に対応した社会保障システムの検討に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200013A
報告書区分
総括
研究課題名
少子高齢化・知識経済社会に対応した社会保障システムの検討に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
城戸 喜子(田園調布学園大学)
研究分担者(所属機関)
  • 今村肇(東洋大学)
  • 駒村康平(東洋大学)
  • 丸山桂(恵泉女学園大学)
  • 上村敏之(東洋大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
3,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
IT化、知識資本主義、本格的なグローバル化経済の到来により、一国の経済成長の源は優れた人的資本の形成にある。このため、長期に渡る能力開発や健康維持の必要性が高まっている。一方、労働市場の流動化も進み、若年期の失業、離転職など、どの労働者も一定期間の失業を経験する可能性が高まっている。これら少子高齢化、知識資本主義、グローバル化、労働市場の変化といった経済環境の変化に対応するために は、各社会保障制度の個別・短期的視野による対応では不十分である。労働政策との連携し、制度横断的・制度間整合性を意識した量・質的改革からなる新しい社会保障像、福祉国家像の提示が必要となっている。こうした政策論点としては、①個別の社会保障給付水準(最低保障年金、公的扶助制度医療・介護給付の見直し)、②社会保険加入形態(現行地域・職域分立型社会保険の是非)、③セーフティネットにとどまらず、動的な就業能力改善への政府の支援(トランポリン)、訓練休暇などを組み込んだ積極的なワークシェアリング、④社会保障サービス供給サイドの改革革などが考えら本研究は、市場原理の可能性と限界を考慮した上で、少子高齢化・知識経済社会に対応した第三の選択肢(第三の道)あるいは「社会的投資福祉国家像」を探るという問題意識を持っている。
研究方法
有識者ヒアリング、特徴ある社会福祉サービス関連施設の調査、文献研究、データに基づく計量分析といった方法を採用した。
結果と考察
本年度の成果は、①知識経済社会への見通し、新しい福祉国家の理念、政策基準などの分析、②各個別制度の問題点を整理し、理念型との整合性を求めた改革論を提示した。①知識経済社会への見通し、新しい福祉国家の理念、政策基準の分析は、第1章城戸喜子「新しい福祉社会の理念と政策基準に向けて」と、第2章駒村康平「社会保障改革の動向」によって分析されている。城戸論文では、社会保障生成時の経済社会情勢と現代の状況との相違、そこで掲げられた理念や原理の現代における有効性と限界を整理し、社会保障の機能として所得再分配だけでなく、扶養原理ともいうべき価値財の提供の比重が高くなっていること、社会保障の制度疲労を指摘し、制度設計の中心を年金から、自助努力が相対的に困難である医療・介護にシフトすべきと、主張している。駒村論文では、社会経済環境の変化が社会保障に及ぼす影響を整理、昨今の内外における社会保障改革の動向を整理している。そして、福祉国家の新しい役割は、①新しい社会的リスクのヘッジ、②潜在的能力の開発とし、政府は、市民に様々な給付を保障する一方、市民に対する政策の説明責任、事後評価を行い、市民には政策を理解し、選択する能力と努力が必要になると主張し、社会保障各論の具体的改革案を提示する。②各個別制度の問題点については、第3章今村肇「市場競争環境変化にともなう生涯所得稼得および職業選択の階層変容に関する日仏比較」、第4章上村敏之「公的年金制度のあり方とその改革に関するいくつかの論点」、第5章丸山桂「社会保障制度における家族介護の評価方法」、第6章研究協力者和泉徹彦「対人社会サービスの供給改善とIT化」、第7章研究協力者永井攻治「公営住宅家賃政策の再分配効果」などが報告された。今村論文では、社会保障政策と雇用・労働政策とが密接に関わり合うあらたな総合政策のあり方を、雇用・労働面から検討し、雇用システム、家族の変容が個人のリスク構造の変化をもたらし、企業内におけるより柔軟な資源配分と企業別の「知識」構成の雇用戦略をとるべきとする。上村論文では、財
政学の視点から公的年金問題を検討し、公正と公平の違いを整理し、国民の合意形成が今後の年金改革の鍵となる上で、社会が「公正」なシステムを選択できる土壌形成が重要であると説く。丸山論文では、家族介護の問題点をとりあげ、社会的評価の未発達、内外における評価の現状、介護保険の現金給付の理論的整理と、仮に導入した場合の財政試算を行っている。和泉論文は、IT技術を使った、社会福祉サービスの受給者と提供者、自治体との間の情報共有システム、参加型システムの構築を分析している。永井論文は、公営住宅の家賃設定が再分配上、どのような影響を与えているか分析している。
結論
2年目計画の初年度の研究結果であるため、暫定的な結論とする。従来の社会保障政策は、所得(フロー)に関する再分配と社会的リスクヘッジを目的とした静学的・一次的な政策目標が中心であった。しかし、経済・社会の構造変化のなかで、各人の潜在能力の開発が必要になっており、社会保障政策は、人的資本投資・開発の支援という新たな目的、動学的な政策を担うことになる。こうした「社会的投資としての社会保障」の視点から、社会保障・労働政策を横断的に見直す必要がある。この際に、給付する財・サービスの範囲、家族の役割、財源、再分配の程度・公平性の概念、個人の選択と責任、社会福祉行政の現代化・情報化といった点についてより議論し、体系的な政策提言を行う必要がある。

公開日・更新日

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