医療負担のあり方が医療需要と健康・福祉の水準に及ぼす影響に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200012A
報告書区分
総括
研究課題名
医療負担のあり方が医療需要と健康・福祉の水準に及ぼす影響に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
金子 能宏(国立社会保障・人口問題研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 大日康史(大阪大学社会経済研究所)
  • 小島克久(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 山田篤裕(慶應義塾大学経済学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
5,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢社会対策大綱で示された負担能力のある者には能力に応じて公平に負担を求めるという指針は、老人保険制度の自己負担が定率方式になる中で低所得者への配慮がなされるなど、今日の医療制度改革に反映されている。このような医療負担のあり方については、高齢化の一層の進展に伴う医療費の増加に対応して、自己負担の範囲の変更の他に税財源の役割が注目されるなど議論の対象となっている。 本研究では、医療負担のあり方が医療需要と健康・福祉の水準に及ぼす影響について、負担の能力と関連する経済状況、医療制度の医療成果(アウトカム)及び「健康日本21」に見られるような予防医学の観点に配慮しながら実証分析することにより、国民の健康・福祉の向上に資する医療負担のあり方を検討することを目的とする。
研究方法
医療負担の変化が医療需要に及ぼす影響については、高齢者の世帯構造・経済状況に留意しつつ「家計調査年報」、内閣府「高齢者の経済状態に関する意識調査」と「国民生活基礎調査」の再集計を用いた実証分析を行う。(内閣府「高齢者の経済状態に関する意識調査」の再集計は、同調査の担当部局の許可を得て実施する。「国民生活基礎調査」の再集計は、厚生労働省大臣官房統計情報部に対して目的外使用申請を行いその許諾を得て実施する。)ただし、既存調査のサーベイが示すように、高齢者の経済状況には格差があり医療負担の変化は高齢者に不安を与える可能性がある。このような不安の緩和には、公平な負担に配慮した医療改革が国民の健康・福祉の向上に寄与するかどうかを検証するため、高齢者について所得分布と疾病別の死亡率との相関を調べる。また、税財源による国民医療制度を日本と比較対照するためにカナダの医療改革の動向を研究する。そして、医療費の抑制につながると考えられている予防医学の応用が健康・福祉の水準に及ぼす影響について、若年者の飲酒と喫煙の予防に関連する実証分析と中高年者の余命に影響を及ぼす自殺の予防について国際比較研究を行う。
結果と考察
「国民生活基礎調査」の再集計を利用した実証分析から、老人保健制度の自己負担率の変化が高齢者の医療需要行動に一時的な影響を及ぼしても傾向的には大きな変化を及ぼさないことが示された。また、高齢者が、経済状況にあまり依存せずこうした医療需要行動をとれるわが国の高齢者医療制度の医療成果(アウトカム)は、所得分布と傷病別死亡率(悪性新生物、循環器系疾患、脳血管疾患)が相関せず、医療における貧困の悪循環を回避して余命の伸長に寄与していることは、医療負担のあり方が問われている今日、改めて認識されるべき点だと考えられる。健康保険の被保険者本人の一部自己負担は他の医療保険と同様に2003年4月から3割へと引き上げられた今日、高額医療制度の適用があるものの、自己負担の水準については今後も検討される可能性がある。自己負担の水準を適切に維持していくためには、医療負担の財源構成についての分析も不可欠である。この点、税財源によって国民医療制度を運営維持しているカナダにおいても、高齢化の進展による地域格差と所得格差に対応して政府の財政調整が求められており、医療改革案が検討されていることが明らかになったことは、わが国で医療負担と税財源との関係を検討するに留意すべき点となる。「国民生活基礎調査」の再集計を利用した若年者の飲酒と喫煙の要因に関する実証分析では、価格の情報は利用可能ではないが、飲酒と喫煙は価格に対して劣等財であることを考慮すると、価格政策は効果的
ではなくむしろ家族要因に配慮した施策が求めらるという知見を得た。また、自殺予防においても、一般開業医や職場における自殺予防の機会費用を考慮してこれを補う施策の必要性から先進国スウェーデンにおいても時間を要した経緯から、長期的視野の必要性とこの分野の諸研究のコーディネートの重要が明らかになった。
結論
先進国の中でも深刻な少子高齢社会を迎えると予想されている日本にとって、医療保険制度の持続的発展は緊急性の高い政策課題である。そのためには、医療負担のあり方が医療需要に及ぼす影響について、負担能力に応じた公平な負担を求めるために配慮すべき経済状況と関連させつつ実証分析を行うことは重要な課題である。しかし、その分析に当たっては、これまでの医療保険の長所と課題を国際比較の観点から理解しつつ、国民の健康・福祉の水準に及ぼす影響を捉えることも重要である。実証分析の結果は医療負担のあり方についての数量的基準を見いだすための基礎的資料になる。質的な側面を評価する分析手法による研究成果をこれに合わせることによって、数量的基準を達成するための政策立案における留意点を示すことは、国民の健康・福祉の向上に資する医療負担を模索するために必要である。

公開日・更新日

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